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「流石ですね、リゲル様。そこまでご存知とは思いませんでした」
自分の正しさを認められ、リゲルが満足気に笑う。この人は頭の良さを鼻にかけている、その鼻っ柱をへし折ってやりたいが、ここは慎重にいくべきだ。
リゲルは聖女を殺すことに頓着していなかった。なんとかして私の味方につけたい。
私は、隠し持っていた光の薔薇を取り出した。常闇の祠に行った時、こっそりと採取していたものだ。暗闇の中、ミモザちゃんが持つ剪定鋏に蔦を2本挟んで断ち切り、皆が閃光に目を眩ませているうちに回収した。
私の薔薇も切り取った時のまま、瑞々しく淡く光を放っている。皆が薔薇の花に惹き付けられた。
「……それ、本物?」
ミモザちゃんは自分の持つ光の薔薇と、私のを見比べている。
「本物よ」
「そんな、じゃあ本当にアンタが聖女なの?だったらアタシは?」
「……主人公」
ミモザちゃんが目を見開く。元々大きな目がまん丸くなって飛び出しそうだ。ちょっと笑ってしまう。
私は俯いて素早く顔を整えると、聖女らしい柔らかな微笑みを貼り付けてリゲルに向き直った。
「仰る通り、私は聖女としての条件を満たしています。我が一族がずっと隠していたことを、よくぞ見破られました。学年首席は伊達ではありませんわね」
「ワタシの頭脳に掛かれば、このくらい造作もないことですよ」
誉められて当然とばかりに胸を反らすリゲル。自尊感情をくすぐられていい気になっている彼は、これが褒め殺しだと気付かない。
「ええ、リゲル様ほど優秀な方はいらっしゃいません。先程ミモザちゃんを偽物と仰ったのも、私が聖女だと認めさせるための方便でしょう?」
「……」
「今回の聖女は2人、私とミモザちゃんの両方が聖女だと気付いていらっしゃる。力の差はあれど、聖女が2人いることの意味も分かっておられるのではありませんか?」
「……さっき貴女が言っていた、あれですか」
掛かった。
リゲルは本当は分かっていない。分かりようがないのだ、実際は聖女が2人いることに意味などなく、父が娘を護ろうとした結果に過ぎないのだから。これから話す2人の聖女の意味だって、追い詰められた私が捻り出した単なる後付けだ。
でもリゲルは分からないことを認めたくないから、私の発言を引き合いに出し、いかにも自分は全てお見通しだと装っているのだ。だから私の発言のどの部分に同調しているか、具体的には言及していない。
だがこれで、リゲルは暗にミモザちゃんも聖女だと認めたことになる。私はリゲルに頷いてみせた。
「その通りです。聖剣を使って儀式を中断させる、それは2人の聖女が半分ずつ、魔を封じるための方策です。神殿は封印の負担を分けることで、聖女の命を救いたいと願っております」
「だったら何で初めからそう説明しないのよ」
ミモザちゃんが口を挟む。私はチラリとシリウスに目をやった。
「聖女を殺したい人がいるからよ。聖剣で聖女を殺すとね、国を救った英雄だと崇め奉られるの。もちろん人殺しは褒められた事じゃないから、聖女を殺したことは秘密。聖女は命をかけて魔を封印したとか適当な事を言って、真実は有耶無耶にされる。馬鹿馬鹿しいよね」
私はわざとらしく溜息を吐いてみせる。
「でもその馬鹿馬鹿しい結末を、自分の栄誉のために利用したい人にとっては、聖女が生きていると都合が悪いのよ。だから霧に紛れて2人きりで儀式を行おうと思ったの」
「なら、ここに来るのも2人で良かったんじゃないの?」
「ミモザちゃん、私が2人で魔を封印しに行こうって言ったら付いて来てくれた?それに、儀式の中断も確実に出来るかは分からないって、さっき伝えたよね。儀式を中断出来なくて、さらに私達が魔王化しそうになったら、今まで通り聖女を殺す人間が必要になる。だから、彼らにも来てもらったの」
信用は出来ないから、ギリギリまで隠れていたかったけどね。
本当はアーク兄様に付いて来て欲しかった。でも兄様は、たとえ魔王化したとしても私を殺せないだろう。それどころか、他を皆殺しにしてでも魔王になった私を逃がし、世界を破滅に導きかねない。だからアーク兄様がこの場にいないように画策した。
ミモザちゃんはまだ納得出来ないようだったが、私の行動については理解してくれたようだ。ミモザちゃんがあれこれ聞いてくれたことで、他の3人にも私の考えを聞かせられた。さあ、ここからどう出るか。
リゲル、シリウス、レグルス王子は時折視線を交わしながら、ミモザちゃんは彼らと私を交互に観察しながら、それぞれ考え込んでいる。せめてミモザちゃんと、出来ればリゲルが私の提案に乗ってくれれば。
やがて口火を切ったのは、レグルス王子だった。




