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「そんな事出来るの?」
私に引きずられるように足を動かしていたミモザちゃんが、ピタリと立ち止まった。強制的に私も足を止められる。私を見るミモザちゃんの目は探るようで、誰を信じればいいか、どう動くのが最善か、必死に頭を働かせているのが窺える。
「絶対に出来るとは言い切れない。でも、成功すれば死なずにすむ」
私は正直に答えた。神殿長である父も、前例がない事だと言っていた。成功するかは賭けだ、でも分の悪い賭けだとは思わない。
魔を封印する儀式には、光の薔薇を用いる。儀式といっても複雑な手順などなく、ただ一言、祝詞を唱えればいい。その一言で薔薇の蔦が聖女の腕に絡みつき、花弁が魔を吸い始める。光の薔薇が吸収した魔は、蔦を通って聖女に蓄積されてゆく。
聖女の光の魔力と拮抗するまでは安全圏だが、それを超えると聖女が魔に侵され、聖女の光の魔力が闇の魔力に取って代わられ、やがて聖女の精神が耐えられなくなり魔王となる。そう伝承されている。
私はここまでを一気に捲し立てた。ここからは私の仮説だ。
「だから、ミモザちゃんの光の魔力を超えないうちに、光の薔薇を斬り落とすの。そうすれば魔の吸収が止まるはず」
「待ってよ、光の薔薇って聖女にしか斬れないじゃない。アタシが自分で斬れっての?難しくない?」
「それは───」
「ミリアリア嬢なら斬れますよ」
唐突に、リゲルの声が背後から聞こえた。慌てて振り返るが視界に入るのは魔の霧ばかりだ。
私は唇に人差し指を当ててミモザちゃんに合図し、そっと足音をたてないように移動した。リゲルの声がした方向から横に動く。
「逃げても無駄ですよ、聖女様」
遠ざかったはずなのに、リゲルの声はさっきよりも近くなっていた。どうして?まだ隠蔽魔法を掛けたままだ、私達の姿は見えていないはずなのに。
私は今度はリゲルの声と反対方向へと逃げた。背後から笑い声と共に強風が襲いかかる。リゲルの風魔法は正確に、私とミモザちゃんを捉えている。次いで炎が私の肩を掠め、直後に水流が別方向から押し寄せる。
風で霧が飛ばされ、視界が開けた。シリウスとレグルス王子もいる、しかもいつの間にか3人に取り囲まれている。
「さあ、姿を見せてください、聖女ミリアリア」
私は隠蔽魔法を解いて、リゲルに相対した。
「どうして分かったの?」
私はわざと曖昧に尋ねる。
「その問いは貴女の姿が見えなくとも位置を特定できることに対してですか?それとも貴女が聖女だと知っていることに対してですか?」
「リゲル様、間違ってます!聖女はアタシです!」
「黙りなさい、偽物が!」
リゲルはミモザちゃんを睨みつけ、一喝した。
「お前のような女が聖女を名乗るとは。だがワタシは騙されなかった!お前の化けの皮を剥がすために、聖女について調べ上げたのです。そして12年前にも聖女召喚の儀式が行われたことを突き止めた。その時の───本物の聖女が貴女です、ミリアリア嬢」
ミモザちゃんには乱暴な態度だが、リゲルは私に対して慇懃だ。胸に手を当て、ゆっくりと礼をしてみせる様子は腹立たしい。私が聖女だという確信があるようだ。
「でも私、ミモザちゃんほど光の魔力が強くないわ」
「嘘ですね。光の属性が強いほど、瞳の色は薄くなります。他の属性とは反対になるので、ほとんど知られていませんが。かく言うワタシも今回調べるまで知りませんでしたよ」
光は明るく強くなるほどに色味が薄くなる。その特性から光属性だけは、魔力が強くなるほど瞳の色が薄くなるのだ。そこまで調べたのか。私はリゲルを侮っていたようだ。
リゲルが言っていることは事実だ。3歳で死んでしまったミリアリアに、異世界から召喚した魂を入れて出来たのが私。本当なら私が聖女として魔を封印し、殺されるはずだった。それなのに、娘可愛さに父が神殿長の権力を悪用し、私が聖女であることを秘匿した。そして私の身代わりにされたのが、孤児院で暮らしていたミモザと、召喚されたもう一人の異世界人の魂を融合したミモザちゃんだ。
「ワタシが正しいと認めてください、ミリアリア嬢。それともミモザ嬢を置いて逃げますか?貴女だけなら逃げられるかもしれませんね」
貴女だけなら、の部分が少しだけ強調されている。つまり、私ではなくミモザちゃんの位置を特定する何かがあるのか?
不安気に私とリゲル達を見比べているミモザちゃんに、小声で尋ねた。
「あの3人の誰かから貰ったもの、何か持ってる?」
ミモザちゃんが、私と繋いだままだった右手を持ち上げる。中指に嵌められた指輪に魔力を感じる。もしかしてGPS?
「うん、それに居場所を探す魔術を付与してる。ああ、ダメだよ。それもう外せないから」
ずっと黙っていたシリウスが、得意気に教えてくれた。彼にイザール兄様と同等の魔術が使えたとは。私はシリウスのことも侮っていた。
もとよりミモザちゃんを見捨てるという選択肢はない。可能な限りミモザちゃんの安全を図りたかったが、こうなってはもうどうしようもない。
私は余裕があると見えるように、細心の注意を払って笑みを浮かべた。




