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 聖剣は唯一、正装した聖女を殺めることができる武器だ。聖女は自らが付与した光属性の武器でしか、傷つけられることはない。


 私はこの世界の理を思い出していた。だが、聖剣は今私の右手にあるし、これはミモザちゃんが造ったもので私には効かないはず。それなのに正装に準ずる装いの聖女───私を傷つけられる武器が、他にもあるなんて。

 私は自分の脇腹に目をやる。お腹から生えているように見えるのは、見覚えのある持ち手だった。これは……私が光属性を付与した剪定鋏だ。常闇の祠で使った後、ずっとミモザちゃんが持っていたのだろうか。でも、どうして。


「どうして、ミモザちゃん……」


 左手から力が抜けて、身体を支えられなくなる。私はゆっくりと地面に倒れた。見上げると、伏せられたミモザちゃんの目を覗くことが出来た。金色の瞳に、赤黒い濁りが混じっている。


「遅いぞシリウス」


 レグルス王子が私から聖剣を取り上げながら、シリウスを詰る。


「ごめん。下手に聖女の力があるせいで、時間掛かっちゃった。ここまで抵抗されるなんて予想外だよ。腐っても聖女だね」

「魔の封印に光の魔力が使われたから、抵抗出来なくなったのでしょうね」


 シリウスとリゲルがミモザちゃんを引き摺って、私から引き離した。かなり乱暴に扱われているのに、ミモザちゃんは全く抵抗しない。

 いつからだ、いつからミモザちゃんは魅了魔法を掛けられていた?


 ミモザちゃんの薔薇はすでに半分以上が黒く染まっている。それなのに慌てることもなく、虚ろな目でぼんやりと座り込むミモザちゃんは、とても正気とは思えない。シリウスの魅了魔法がミモザちゃんを支配しているのは明らかで、さっき私を攻撃したのもシリウスの命令だったのだろう。


「何故、こんなことを……」


 私が非難を込めて問いかけると、レグルス王子は眉を上た。しゃがみ込んで私に顔を近づけると、馬鹿にしたような声で言う。


「何故?我が国の平和のために決まっているだろう!」


 王子は嗤う。


「途中で儀式を中断し、その時は聖女が正気を保っていたとしてもだ。5年後、10年後に聖女が魔王にならないと、どうして断言出来る?そんな危険分子を野放しにするほどオレは愚かではない!」

「そうだよね。疑わしきは殺しておいたほうが安心だよね!」

「全体を救うために少数を犠牲にするのは、当然の判断ですよ」


 3人とも自分達の正しさを疑ってもいない。正しさとはこんなにも醜悪な顔をして語れるものなのだろうか。

 

「アークはそこの所が分かっていなかったからな。あいつが邪魔したら色々と面倒だったが、この場に来なくて幸いだった」

「そうですね。彼を殺すのは大変そうですから」

「大丈夫だよー。アークは魔法が苦手だから、ボクが操ってやれば良いんだ」


 お前なんかにアーク兄様が操られるわけないだろ。そう言ってやりたいが、うまく声が出ない。せめてもとシリウスを睨みつけるが、奴はケラケラと笑う。

 悔しい。私は考えが甘かった。私に協力する気なんて無かったんだ。こいつらが人の命をなんとも思わない外道だってことは、初めから分かっていたことなのに。人並みの良心を期待した私が馬鹿だった。


 私は歯を食いしばってミモザちゃんに手を延ばす。ミモザちゃんの光の薔薇はもう真っ黒で、これ以上は危険水域だ。せめて薔薇の花を落として、魔の吸収を止めなくては。


「ああ、そろそろ限界だな。まだこんなに霧が残っているのに、やはりミモザは本物の聖女に劣る」


 レグルス王子は言いながら、聖剣を構えた。シリウスとリゲルがミモザちゃんの両腕を抱え、自由を奪う。それでもミモザちゃんは動かず、されるがまま地面に押さえ付けられている。


「やめ、て」

「案ずるな、じきにミリアリア嬢も同じ場所に行くのだ」


 ニヤリと笑い、レグルス王子はミモザちゃんの背中に聖剣を突き立てた。衝撃でミモザちゃんの身体が跳ね、低く呻き声が漏れる。ミモザちゃんの着る白い衣装に、赤い染みが広がってゆく。


 ミモザちゃんが殺された。


 まだだ、まだ手はある。ゲームのシナリオ通りになんてさせるものか。

 

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