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 眠れない夜が明ける。

 私は神殿のミモザちゃんの部屋で、昇り始めた朝日を眺めていた。窓の外ではこの冬初めての雪がチラチラと舞っている。朝日に雪が煌めいて、とても綺麗だ。

 外は寒そうだが部屋の中は暖かく、ミモザちゃんは布団に包まって熟睡している。真夜中過ぎに忍び込んだ私に気付かれないよう、眠り薬を嗅がせたのがまだ効いているようだ。ミモザちゃんは私が何をしても起きなかった。今朝はこのまま寝坊するだろうが、今日から学園は冬期休暇に入るから、ゆっくりしていても構わないだろう。


 今日は1年で最も夜が長い日。ゲームでは、主人公が魔を封じるために神殿の地下に潜る日だ。


 何とか間に合った。昨夜最後の仕上げをし、最終チェックをしたところまでは問題なかった。ただ、その後ふと不安になって自分の部屋に戻ったのは余計だった。アーク兄様が寝室に居るのに気付いた時点で引き返せば良かった。

 アーク兄様が私を呼ぶ声が耳から離れず、一睡も出来なかった。


 私はそっとミモザちゃんの部屋を出た。

 予想通り外は寒かった。底冷えのする廊下を早足で進み、回廊に出るとなお寒い。震えながら神殿の敷地を東に行くと、小神殿が見えてきた。四方の円柱と屋根だけの、簡素な建物だ。

 小神殿の中央に跪き、私は昇ったばかりの朝日を浴びて身を清めた。冬の朝の空気は清々しいが、雪まじりの風に晒されて芯から冷える。暫くして立ち上がった時には、手足の感覚が無くなっていた。


 急いで来た道を引き返し、神殿の厨房にお邪魔する。朝食の準備に勤しむ人の邪魔にならぬよう、隅っこの火鉢の前にしゃがみ込んで暖を取る。スープが煮えるいい匂いが漂ってきて、お腹が鳴りそうだ。けれど今日私が食べていいのは果物だけなので、唾を飲み込みながら我慢する。


 身体が温まって手足がきちんと動くようになってから、私は拝殿に移動した。手には厨房で失敬してきた果物。黙って持ってきてしまったが、姿を見せられないので仕方がないと割り切る。そういえば、隠蔽魔法で姿を消したまま物を掴むと、掴んだ物は周りからどんな風に見えるのだろう。突然消えたように見えるのだろうか。つらつらとどうでもいい事を考えながら、果物をかじる。

 拝殿では夕方からの儀式の準備が始まっていた。神官長である従兄が采配し、神官達が祭壇を移動させている。祭壇で隠されていた扉が現れた。聖女は魔を封じるために、あの扉を潜って地下へと向かう。


 ゲーム中に、あの扉から出てきた聖女の描写はなかった。詳細に描かれていたのは地下で魔を封印するまでで、その後のことはモノローグでしか語られていなかった。

 

 私は端に避けられた祭壇に腰掛けた。拝殿には神官や巫女が入れ替わり立ち替わり出入りしているが、誰も私に気付かない。私の隠蔽魔法は完璧だ。昨夜アーク兄様に気付かれたのは、兄様の執念のなせる技だったのか。

 壁に寄り掛かってうつらうつらと微睡み、たまに果物を口にしながら時が過ぎるのを待つ。イザール兄様は上手くやってくれただろうか。父様は土壇場で心変わりしないだろうか。


 やがて日が傾き、父がミモザちゃん達を拝殿に案内してきた。

 ミモザちゃんは、聖女のために誂えられた純白の衣装姿だった。花嫁衣装にも見える白いドレスには金糸で縁取りがされ、装飾品も金で統一されていて輝くばかりだ。プリンセスラインをベースにスカート部分が膝丈になっていて、とても可愛らしい。

 ミモザちゃんに続くレグルス王子達も、全員が白を基調とした騎士服を着ている。レグルス王子が紺色、リゲルが深緑、シリウスが紅と、それぞれの眼の色に合わせた差し色が施されている。


 アーク兄様の姿がないことを不審に思っているのだろう、4人共拝殿内の様子を窺っていた。イザール兄様はアーク兄様の足留めに成功したようだ。


「聖女様、これより魔を封印するために地下に潜って頂きます」


 神殿長である父の言葉に、ミモザちゃんが疑問を呈す。


「待ってください、まだ全員揃ってませんよね?」

「全員揃っていますよ。聖女様に従うのはレグルス殿下、リゲル殿、シリウス殿、それに我が娘ミリアリアです」

「ええっ!?」


 私は隠蔽魔法を解いて姿を現し、4人の前に進み出た。ミモザちゃんはあんぐりと口を開けて、衣装で醸し出された聖女っぽさを半減させている。


「ちょっ、何で?その服アークが着る衣装よね!?何でアンタが……」


 ミモザちゃんが言う通り、私が着ている騎士服はゲームでアークが着ていた物と同じデザインだ。アーク兄様のために準備されていた衣装を、私のサイズでもう1着仕立ててもらった。黒地に銀糸で縫取りされていて、一人だけ明らかに趣が違う。聖女の影となり支えるためだとゲームでは説明されていたが、私は別の理由があると踏んでいる。

 私はミモザちゃんの御前に跪き、頭を垂れて口上を述べた。


「兄のアークは聖女護衛の任を解かれました。この先は私がお供致します、聖女ミモザ」


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