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私は父様に洗いざらい話した。私が知っている事、考えた事、これまでにしてきた事。全てを父様に話して聞かせた。
父様は最初戸惑っていた。当然だ。いきなり娘が前世の記憶を持っているなんて言い出したら、頭がおかしくなったと思うのが普通だろう。それでも父様は、私の話を頭ごなしに否定せず、時折理解出来ない単語について尋ねたり、細かいことを確認したりしつつ、最後まで聞いてくれた。
そして今、私はこれからしようとしている事を父様に話している。ミモザちゃんを助けるために、私がするつもりでいることを。
「───可能だと思いますか?」
父は、先程までとは打って変わって厳しい顔で考え込んだ。
「……分からない。過去に例がないことだからね」
暫く考えたが答えは出なかったようで、父は深く息を吐き、眉間の皺を揉みほぐしながら言う。
「リアは出来ると思うのかい?」
「絶対とは言い切れません。でも、可能性はあるかと」
「根拠は?」
私は腕輪から、ある物を取り出して父に見せた。父が驚いたのは一瞬で、すぐに手を延ばして受け取ると仔細に観察を始めた。国中の神殿を取り纏める神殿長の目だ。静かで穏やかだが、真実を見通す冷徹さも備えた目。父親でいる時とは別人のような厳しさを秘めている。
父はひとつ頷くと、それを私に返した。
「本物だ」
私も父に頷き返した。
父の眉間にまた皺が刻まれ、苦悩の深さを物語る。
「アークには話したの?」
「いいえ。この件に関してだけは、私はアーク兄様を信頼できませんので」
「……いいのかい?」
「はい」
私の決意の堅さが伝わったのだろう、父は組んだ手を額に当てて俯く。祈りを捧げているようなその仕草に、胸が痛む。
私は黙して父の言葉を待った。全部話した。あとは父に決断してもらうしかない。
「……分かった。神殿は全面的にお前に協力しよう」
決断を下すと、父親の顔に戻った父様が苦笑した。
「リアは相変わらず頑固だね。いったい誰に似たんだか」
「娘は父親に似るって言いますよ?」
私は笑顔を返しておいてから、椅子から立ち上がり、一礼した。
「私の我儘をお聞き届け頂き、ありがとうございます」
「リアの我儘なんて可愛いものだよ。僕に出来る事でも出来ない事でも、どんな手を使ってでも叶えてあげるからね。困った事があったらすぐに相談するんだよ。ひとまず何か必要な物はあるかい?」
「今すぐには、何も」
「では、1つだけ忠告してあげよう。アークに内緒にしたいなら、その腕輪を外したほうが良いよ」
「え?」
私は左の手首に嵌めた腕輪に目をやる。これはイザール兄様がくれた物だ。忠告に従い腕から外すと、内側に刻まれた魔法陣が晒される。空間を拡張する術式、状態固定の術式、時間停止の術式、魔力探査の術式、他にもよくわからない複雑な術式が組み合わされ、美しい模様になっている。ん?魔力探査の術式?
私は腕輪を目の前に掲げ、目を凝らして絡まり合った術式を読み解いた。魔力探査の術式は最近読んだ魔術書に載っていたもので、これまで気が付かなかったのだが、なんでこんな物が刻まれているのだろう。
怪訝に思いつつ細かく見ていくと、空間拡張の術式に紛れて空間座標測定の術式が薄っすらと刻まれていた。他にも通信系統の術式らしきものが、魔力を流すと浮かび上がる。腕に着けると皮膚に当たる部分だから分からなかった。
魔力探査に空間座標測定と通信。え、これもしかしてGPS?
「私兄様達に監視されてました?」
「せめて見守りと言ってあげようよ。アークはリアのことを心配して」
「発案者はアーク兄様ですか。イザール兄様も共犯ですね、こんな高度な術式組めるのイザール兄様だけでしょうし。父様も知ってたんですよね」
じっとりと湿った視線に冷やされて、身震いする父様。
私は腕輪をテーブルに置き、父様の前へと滑らせた。
「お父様、預かっておいてください。きっとアーク兄様が訪ねて来るでしょうけれど、私が何処で何をしているかは秘密にしておいてくださいますよね」
「リア、僕はまだ死にたくないよ。せめて孫を見るまでは生きていたいよ」
「大丈夫ですわ、お父様。腕輪のこと、何年も黙ってらしたお父様ですもの。この程度の秘密を守るくらい造作もないことですわ。そうですわよね?」
貴族的な笑みに圧力を乗せると、父様は震えながら何度も頷いてくれた。ありがとう父様、アーク兄様への対応は丸投げしますので宜しくお願いします。
一番難しくて大変そうな案件を引き受けてもらえたので、私は私のやるべき事に専念できる。素敵な贈り物をくださったイザール兄様にも、ぜひお手伝い頂こう。




