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 馬車が神殿に到着すると、ミモザちゃんは1人で馬車から飛び降りて行ってしまった。私はひとつ溜息を吐き、迎え出てくれた神官様に父との面会を申し込む。

 父はすぐに私と会ってくれた。神殿長って暇なんだろうか。

 神殿長室で父は優雅にお茶を飲んでいた。テーブルには茶菓子もあり、ちょうど休憩中だったようだ。父に手招かれ席に着いた私の前に、カップが置かれ茶が注がれる。父は腰を据えて私の話を聞いてくれるつもりらしい。


 私は話し始めた。

 アーク兄様からネックレスとイヤリングを貰ったこと、舞踏会でのことは、既に報告を受けているだろうから簡潔に。学園での噂についてはデネボラ様に捏造された恋愛譚を参考にして詳細に語った。身内に恋愛話をするようで恥ずかしかったが、あれが1番私の窮状を伝えるのに適していると判断した。途中何度も口ごもりそうになったが、沈黙は羞恥心を増しそうで一気に話し切った。喉がカラカラだ。

 冷めてしまったお茶を、一息に飲み干した。


「ほぼ事実だね」


 父の言葉にお茶を吹きかけた。


「は、なっ、父様!?どこが事実なのですか!」

「リアが妊娠したって部分以外は事実だろう?あれ、もしかして妊娠も事実だったりするのかい?僕お祖父ちゃんになるのかな?」

「なりません!!」

「そうだよね。アークはイザールに脅されて避妊薬飲まされてるから」

「何の話ですか!?」


 イザール兄様何やってんの?

 私は思わず、長兄イザールがくれた腕輪を握り締めた。


「イザールは過保護だからね。アークが10歳の頃から薬を飲ませているよ。でないとリアが襲われるって」


 ……アーク兄様が10歳の時、私は7、8歳だったんですが。


「それくらいアークはリアが好きなんだよ。小さな頃からリアに異常な執着をみせていたんだけど、成長するにつれますます執着が酷くなって」


 アーク兄様がウチに引き取られたのは、兄様が3歳になる前だったそうだ。アーク兄様の実父───父の弟夫婦が事故で亡くなり、アルカディア本家に養子縁組した。いきなり両親が居なくなり住む家も変わって、引き取られた頃のアーク兄様は精神的に不安定だったらしい。

 けれど、生まれたばかりの私の世話をするうちに、アーク兄様は落ち着き、ウチにも馴染んできたのだそうだ。長兄次兄とも打ち解けて、父様達は安心していた。幼いアーク兄様が赤ちゃんの私を世話する姿は微笑ましく、兄様のしたいようにさせていた。そして気付いた時には手遅れになっていた。兄様は私から片時も離れなくなっていた。


「アークが7歳の誕生日にね、プレゼントは何がいいか聞いたんだ。そうしたらリアと結婚したいって。その時の目がね、もう怖いくらい真剣というか怖くて断れなかったというか、本当は従兄妹なんだしまぁいいやー諦めようって」

「父様!?そんな簡単に諦めないでください!」

「だって断ったら一族郎党皆殺しにされそうだったんだよ?あの時ちょっと渋っただけで、覇王かってくらい強烈な殺気を当てられたんだから。でもね、リアのために僕頑張ったんだよ?結婚はリアがアークを異性として好きになってからって、条件つけたんだから。チビリそうになりながら、それだけは勝ち取ったんだからね?」


 父様、神殿長としての威厳とかにもうちょっと配慮しようよ。チビリそうだったとか、そんな情報はいらないから。

 しかし、これで何故アーク兄様にも私にも婚約者がいないのかは理解できた。納得は出来なかったが……。


「経緯はわかりましたが、1点だけ。私、ずっとアーク兄様と実の兄妹だと思っていたのです。どうして本当は従兄妹だって、誰も教えてくれなかったのですか?」


 知っていれば、あんなに悩まなくてすんだのに。


「意地悪しちゃった、エヘ」

 

 ……この人が神殿長で大丈夫なんだろうか。


「だって仕方ないじゃないか。僕の大切な一人娘を、そう簡単に手放せる訳ないよね?なんの苦労もなく僕の可愛いリアを奪っていくなんて、許せないよね?ちょっとぐらい意地悪するのは父親として当然の権利だよね?」


 だとしても、アーク兄様が私との結婚を望んでから10年も経っている。こんなに長期間隠し通せるものなの?


「もちろんイザール達も協力してくれたよ。リアはウチの大事な宝だからね。使用人達も一丸になって隠してくれたよ」

「兄様が可哀想」

「そんな事ないよ。リアはアークに懐いてたから、従兄妹だって知ったらすぐにでも結婚しちゃっただろう?そうなったらアークはもう止められないよ?今頃リアは子どもが4、5人いるお母さんになってるよ?リアを守るためだったんだよ!」


 早口で言い募る父様。聞きながら、私はここ数日のアーク兄様の所業を思い出した。うん、父様の言い分が正しい。タガが外れて暴走するアーク兄様は誰にも止められないだろう。


「ありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして。で、どうする?リアはアークと結婚するのかい?僕はもう反対しないよ。アークは性格はちょっと……かなり……アレだけど、リアのことを誰よりも愛して大切にするだろうからね」


 私は目を閉じて、アーク兄様を思い浮かべた。優しくて強くて格好良くて、いつも私の隣にいてくれる兄様。ずっと私を想ってくれていた兄様。私を愛していると言ってくれた兄様。私もアーク兄様を愛している。

 私はやっと覚悟を決めた。


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