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 舞踏会の翌日、私は1日だけ学園を休んで気持ちを落ち着かせた。噂はあっという間に広まったらしく、物見高い貴族達から茶会や舞踏会の招待状がどんどん届き始めている。判で押したように、どの招待状にも『どうぞご兄妹揃ってお越しください』と書かれていて、学園の舞踏会でのことを根掘り葉掘り聞き出したいのが丸見えだ。

 そんな思惑など知ったこっちゃないので、招待状には全て『申し訳ございませんが、体調が優れませんのでまたの機会に』とかなんとか適当な事を書いてお断りのお返事をした。それが最悪の手だったと、じきに私は知ることになる。


「ミリアリア様、お加減は如何がですの?」

「わたくしがお荷物お持ちいたしますわ」

「どうぞこちらの席をお使いくださいな」


 1日休んだだけなのに、登校すると皆が甲斐甲斐しく私の世話を焼いてくれる。よく一緒にいるご令嬢だけでなく、これまで話したことすらないような子までが親切だ。

 今は昼休憩なのだが、私は教室から食堂まで荷物を運んでもらい、窓際の陽当りの良い席に案内され、ホットレモンを渡された。


「このブランケットをお腹に。冷やすといけませんわ」

「重い物をお持ちになってはダメです。お食事はわたしが受け取って参りますわ」


 しかもこの気の使われかたって、もしかして……。


「お腹の御子に何かあっては一大事ですもの」


 やっぱり私、妊娠してると思われてる!?

 なんで、どうしてこうなった!?


「あの、私のお腹は空なのですが……」

「すぐにお食事をお持ちします!酸っぱい物がよろしいですよね?」

「いえ、そうじゃなくて───」

「悪阻はありませんの?少しだけでも召し上がらないと、御子のためにも」

「ですから私は妊娠なんて───」

「ご安心を!皆ミリアリア様とアーク様の味方ですわ!」


 人の話を聞け!!


 私は助けを求めてアーク兄様を探したが、兄様も男子生徒に囲まれて立ち往生していた。肩やら背中やらをバシバシ叩かれ、揶揄われているようだ。

 あっちはあっちで大変そうだから、救助要請は諦めよう。そう思ったが、兄様は私に気付いてくれて、片手を揚げて微笑んだ。たちまち人垣が割れ、兄様から私へと到る道ができる。モーゼか!!

 歩いてくる兄様に、おめでとうございますとかお幸せにとか羨ましいぞコノヤローとか、祝福の声が掛けられる。それらに頷き笑顔で応えるアーク兄様。誤解が助長されていくんですが。ちゃんと否定してください。


「ご夫君がいらしたので、わたくし達は遠慮しますわ」


 夫じゃないです、ただの兄です。

 しかし、これはもう何を言っても無駄だろう。私が否定すればするほど、誤解が真実味を増していく気がする。


 私は兄様と2人、取り残された。


「ずいぶんとおかしな事になってるんだけど」


 貴方のせいだよね、との非難を込めて、私はアーク兄様を睨んだ。


「アハハ、そうだな」


 うわ、兄様が声をたてて笑うなんて激レアだ。外野うるさい。こんなに上機嫌な兄様は珍しいけど偽者じゃないから。あと兄様、この椅子は一人掛け用なんだけど。これに2人で座るのは無理なんだけど。

 兄様は私の座る椅子に無理矢理体を捩じ込みながら、私を膝の上に引き上げた。兄様の膝の上で横抱きになる私。


「何やってんの!?」

「妊娠中の愛する妻を労ろうと思って」

「止めて、周りが本気にするから」

「いっそ本当のことにするか?」


 誰ですかーーーーーっ!?


 私は兄様のほっぺたを摘んで、ムニムニと引っ張ってみた。本物だよね、なんか自信なくなってきたけど。舞踏会の日から兄様の様子がおかしい。堅物で生真面目で冗談の通じないアーク兄様は何処行った?


「兄様、実の兄妹で結婚はできないよ」


 私は至極真っ当なことを言ったつもりだ。それなのに兄様は、思ってもみなかったことを言われたように、目を見開いて固まった。


「あの、兄様?おーい兄様?戻ってきて?」


 私を捕まえる兄様の手をペシペシ叩く。兄様は暫く固まったままだったが、やがて表情が溶けてきて───満面の笑顔になると声をあげて笑い出した。

 何、どうしたの?とうとう壊れた?


「アハハハハ、そうか、リアは知らなかったのか。そこからか、アハハハハッ!」

「……兄様、大丈夫?」

「ああ、大丈夫だ、何も問題ない!」


 兄様は私を抱き寄せ頬ずりした。額にキスをして、また頬ずりし、鼻筋にキスして頬ずりし。

 至近距離から私の目を覗き込み、アーク兄様は言った。


「俺はアルカディア公爵家の養子だ。俺達は従兄妹なんだ。だから望めば結婚も出来る」


 …………は?

 ち、ちょっと待って、私とアーク兄様って実の兄妹じゃなかったの!?


「え、あの、兄様───」

「リア、愛している。俺と結婚してくれるよな?」


 聞きたい事が山ほどあったのに、私の質問は兄様のキスで封じられた。


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