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「あっ、ミリアリア様ー!!」


 中庭の向こうでミモザちゃんがブンブンと手を振った。跳ねるように駆け寄ってくると、私に体当たりをかます。驚いて抱きとめると、ミモザちゃんは私の耳元に口を寄せ、私にだけ聞こえるように囁いた。


「うふふっ、面白いことになってるね〜」

「ミモザさん、ミリアリア様はご懐妊されてますのよ。乱暴になさってはお腹の子に障りますわ」


 一緒にいたデネボラ様に引き剥がされ、ミモザちゃんは形だけ頭を下げた。

 

「すみません!気をつけます!ミリアリア様、アーク様とのご結婚とご懐妊おめでとうございますっ!!」


 大声で間違った情報を拡散しないでほしい。絶対にわざとだ。これでアークルートが潰れたざまぁと顔に書いてある。

 アーク兄様のルートに進まないと自分が死ぬって、ミモザちゃん分かってないのかな。


「皆さん誤解されてるようですが、私はアーク兄様と結婚しておりませんし、子どもも───」

「またまた〜、照れ隠しですかぁ?舞踏会でのこと聞きましたよ〜?デネボラ様っ、アタシ舞踏会に遅れちゃってその場を見られなかったんです!詳しく教えてください!」

「わたし達も聞きたいです!デネボラ様、お話し頂けますか?」


 周りの生徒達まで余計なことを言い出した。お優しいデネボラ様は、おっとりと頷いていらっしゃる。公開処刑やめて。

 しかし私の願いは叶わず、デネボラ様は私とアーク兄様の恋愛譚を、それは楽しげに語ってくださった。


 曰く。

 幼いころからミリアリア様を一筋に愛してこられたアーク様。けれどミリアリア様は、兄妹だからとアーク様の求婚を退けてこられた。実は二人は従兄妹同士なので結婚に支障はなかったのだが、ミリアリア様はそれを知らされておらず、アーク様もミリアリア様が知らないことを知らなかった。必死に愛を伝えるアーク様と、アーク様を密かに愛しながらも受け入れられないミリアリア様。想い合う二人はずっとすれ違い続けてきた。

 ある日アーク様はとうとう気持ちを抑えられなくなり、ミリアリア様と契りを交してしまう。婚前交渉など貴族としてあるまじき事、その上実の兄妹でなど醜聞でしかないと、ミリアリア様は悩み苦しまれた。そして愛するアーク様の未来のために、ミリアリア様は身を引く決意をなさり、ミモザ嬢との仲を取り持とうとする。けれどアーク様が愛するのはミリアリア様のみ、他の女性になど見向きもせず、更にミリアリア様がご懐妊されているのに気付いて決意を固められた。

 誰に非難されようと、どれ程の誹りを受けようと、愛するミリアリア様と結婚し、お子様を護るとの誓いをたてたアーク様。幸いなことにアルカディア公爵家の許しは得られたが、貴族の結婚は手続きが煩雑で、今すぐにとはいかない。そのため、舞踏会で3曲続けて踊ってみせ、アーク様とミリアリア様が夫婦同然だと周りに示された。昨年の男爵令息令嬢の事故があったので、ミリアリア様を危険に晒さぬように抱き締め守りながら。

 昨日はご懐妊中のミリアリア様を気遣ってお二人でゆっくりと過ごされ、ミリアリア様にご負担なきよう今シーズンの社交は全てお断りすると決められた。そして今日、ミリアリア様はやっとアーク様が実の兄君ではないと教えられ、晴れてお二人は憂い無く、幸せな結婚生活を送られることとなった───。


 捏造が過ぎるんですが!?


 あまりに事実とかけ離れていてどこから訂正すればいいのか分からず、呆気にとられているうちに物語が完結してしまった。しかもデネボラ様はこれが事実だと信じていらっしゃるようで、その堂々とした語り口に誰もがうっとりと聞き入り、語り終わった今、拍手が巻き起こっている。


「素敵ですわ!」

「お二人が幸せになられて本当に良かった!」


 皆さん、この物語はフィクションです、実在の人物とは一切関係ありません。だから信じないで。噂に尾ひれをつけないで!


「良かったですね〜皆さん祝福してくださって。どうぞアーク様と末永く、お・し・あ・わ・せ・に!」

「ミモザちゃん、誤解なの!」

「往生際が悪いですよ?素直に認めないとアーク様に言いつけるゾ♡」

「ふざけてないで話を聞いて!」

「ふざけてないです。あっ、噂をすればアーク様」


 ミモザちゃんがニヤーッと意地悪く笑う。慌てて背後を振り向くと、私達を取り巻く生徒達の向こうにアーク兄様のオレンジ色の髪が見えた。

 この状況でアーク兄様に会うのは色々とキツイ!


「ミモザちゃん、私を連れて逃げて!」


 自分でもかなりテンパっていたと思う。ここ数日のあれこれで、私の精神は限界だったのだ。

 ミモザちゃんは一瞬ポカンとしていたが、すぐに私の手を取って走り出した。


「面白そうだから乗ってあげる!!」

「ミリアリア様!?転けたらどうするんですか!」


 デネボラ様の声が追い掛けてきたが、私達は止まらず走り去った。


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