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舞踏会会場に到着したときには、開始時間ギリギリになっていた。既に皆会場に入っているようで、受付担当の教員がポツンと入口に立っている。ゲームのアークルートでは、入口付近で1人ウロウロする主人公にアークが声を掛け、一緒に入場していた。けれど周囲に参加者の姿はなく、私は完全に出遅れたらしい。
仕方がないので兄様と2人で入場すると、ちょうど学園長の挨拶が始まったところだった。長とつく人の挨拶は何故こうも長いのか。だがいつもなら辟易する学園長の長話も、今日は都合がいい。この隙にミモザちゃんを見つけようと会場内を見渡す。なんとかミモザちゃんにアーク兄様を押し付けて、ファーストダンスを踊らせてやる!
しかしこんな日に限って、学園長の挨拶は早目に切り上げられた。楽団が曲を奏ではじめ、この場で最も位の高いレグルス王子と、婚約者のデネボラ様が会場の中央に進み出る。お二人が組んで踊り始めると他のカップル達もそれに続き、ダンスホールはあっという間に人で溢れた。ミモザちゃんのピンク頭が見つけられない。
「踊ろう、リア」
キョロキョロとミモザちゃんを探し続ける私を、アーク兄様がダンスホールに連れ出した。いつも優しく丁寧なエスコートが、少しだけ強引だ。屋敷でのことがまだ尾を引いていて、私もぎこちない。これでダンスが出来るのか不安になるが、逃げ出す訳にもいかず踊り始める。
めちゃくちゃ踊り難い。
やたらと距離が近い。アーク兄様は、体の位置が近過ぎると毎回ダンスの先生に注意されるのだが、今日は更に距離が近い。最早くっついていると言って良いくらい近い。
足を踏み出す隙間がなくてステップが踏めず、ターンで距離を取るも即座に引き寄せられる。ガッチリと腰を掴まれて、2度目のターンは阻止された。それでもなんとかして身体を離そうとするが兄様の力には敵わず、腰から背中に手を回されて上半身が密着する。子どもの頃からレッスンしてるのに、ダンスの基礎は何処へ行ったんだ。
それだけならまだしも、兄様は2曲目も続けて私と踊った。2曲続けて踊れるのは婚約者だけと決まっている。兄妹で2曲目を踊る私達に周りが気付き始め、注目が集まる。恥ずかしくて恥ずかしくて、2曲目が終わったらダッシュで逃げようと身構えていたのに、兄様は離してくれず───。
私は3曲目までアーク兄様と踊っていた。3曲以上続けて踊れるのは夫婦だけだ。もう誰も踊っておらず、私と兄様はダンスホールを独占している。ヒソヒソ囁き合う者、ニヤニヤ笑う者、困惑する者と、様々な表情を浮かべながら、皆が私達を取り囲む。
私はもう、碌に思考が働かず兄様にされるがままになっていた。兄様は力の抜けた私を器用に振り回していて、周りから見ると私もダンスを楽しんでいるように見えるだろう。
そういえばシリウスルートの舞踏会イベントで、主人公が2曲続けて踊って非難されてたなー。
でも私3曲目踊っちゃってるしー。
この後ミモザちゃんが2曲続けて踊っても、どうってことないかなー。
意図せずシリウスルートのイベント潰せちゃったよー。
ボンヤリと現実逃避しているうちに、3曲目が終わったらしい。曲が終わると同時に、何故だか拍手が巻き起こる。ピーピーと口笛を吹いている奴までいる。お願いだから止めてください。
茫然自失の私に、兄様は更に追討ちをかけた。私を抱き上げ頬にキスをする。黄色い声があちこちから上がる。違う、口じゃない、ほっぺただ!唇じゃないんだ!
キャーキャーうるさい、私の精神力がゴリゴリ削られるだろうが。お姫様抱っこは羨ましくない、だったら隣の婚約者に公衆の面前でやってもらってみろ。
周囲の身勝手な祝福に、私の機嫌は急降下した。頭痛い。
「頭痛い」
「ん?リア、大丈夫か?」
漏れた言葉に反応し、熱を計る時みたいに私の額に自分の額をくっつける兄様。
ギャー。叫ぶ令嬢達。本当やめて、私は恥ずかし過ぎて死にそうなんだよ。
兄様は教員を見つけて断りをいれ、私を抱っこしたまま会場から退出した。再び起こる拍手喝采。勘弁して。
屋敷に戻る馬車の中で、今日は1度もミモザちゃんを見掛けなかったことを思い出した。レグルスとリゲルのイベントが潰せていない。正直それどころではなかったが。
今年の舞踏会で1番やらかしたのは、私達で決まりだろう。貴族社会は狭いのだ、噂は明日にも広まるはず。これからの社交シーズン、私は誰とも会わず引き籠もりたい。
ひとまず明日は学園を休もうと、私は決めた。それが更なる誤解を生むことになるとは考えもしなかった。




