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訓練漬けの長期休暇が終わり、新学期が始まった。ミモザちゃんは寮に戻らず、神殿から学園に通っている。神殿での教育も続けられ、相変わらずのハードスケジュールだ。だが教育の成果は確実に現れていて、休み明けの学力テストではかなり成績を上げていた。
ゲームではミモザちゃんの学力が上がるとリゲルの好感度が上がっていたが、現実ではそうでもないらしい。階段落ちの件でガッツリ下がった好感度は、そう簡単には回復しないようだ。
ミモザちゃんが正式に聖女として認められたので傍にはいるが、個人的に親しくなろうという気配はない。リゲルは始めから聖剣にも興味が薄かったようなので、このまま付かず離れずといったところか。
逆に聖剣に最も執着しているのがシリウスだ。彼は始めから聖剣の使い手としての栄誉に固執していたので、やることは一貫している。
長期休暇中もミモザちゃんにベタベタと纏わりつき媚びを売りまくっていたが、2人の仲は進展していない。唯一神殿に泊まり込みまでしていたが、成果は芳しくなかったようだ。神殿ではミモザちゃん付きの巫女が見張っているので、強硬手段もことごとく阻止されたらしい。
この頃は魅了の魔法について調べているらしく、図書室の禁書を持ち出そうとして司書に捕まっていた。攻略対象がチャームを使うっておかしくないか?魅了魔法は主人公が使うイメージが強かったが、警戒すべきだろうか。目下対策を考え中だ。
余裕のないシリウスとは逆に、余裕綽々なのがレグルス王子。なにせミモザちゃんの本命だ。王子が何もしなくても、ミモザちゃんの方から近寄ってくれる。精神的な余裕が言葉や態度にも表れて、王子様オーラに磨きがかかっている。それにウットリするミモザちゃん。何という悪循環か。
今もミモザちゃんとレグルス王子は2人でランチタイムを満喫している。椅子を寄せて座り、おかずを一口ずつ交換したりして、甘ーい雰囲気を振り撒いている。すぐ側のテーブルにデネボラ様がいらっしゃるのに、どういう神経してるんだか。
「宜しいんですの、デネボラ様。私、注意して参りましょうか?」
2人の無神経さに憤慨しつつ、私はデネボラ様に尋ねた。今のミモザちゃんはちょっと嫌いだ。
デネボラ様は上品に微笑んで首を横に振る。チラリと横目にレグルス王子を見る、その表情もたおやかだ。
「ですが、ご気分を害されませんか」
「わたくしは気にしていませんわ。よくある事ですもの」
レグルス王子はモテるので、昔から言い寄る女性が後を絶たないとデネボラ様は仰る。王族には側妃も認められているから、相応しい女性ならば構わないのだそうだ。
さすがに生粋の侯爵家ご令嬢、貴族的な考え方が身についていらっしゃる。
私には到底受け入れ難い考え方だった。前世の庶民感覚が魂にまで染み付いているからか、浮気だとしか思えなくて不快感しかない。
黙り込んで俯いた私の耳に、クスリと笑い声が届いた。ミモザちゃんかと思って、睨みつけるため勢いよく顔を上げる。しかし笑っていたのはデネボラ様で、口元に手を当ててクスクスと、それは楽しそうだ。
「ミリアリア様の旦那様は、一途な方でないと務まりませんわね」
デネボラ様が私の隣のアーク兄様に同意を求めた。
「仰る通りです」
「ミリアリア様の婚約者は、まだ決まりませんの?」
「……ええ」
「私よりアーク兄様が先ですから」
「でしたら一度にお決めになったら?」
デネボラ様は私と兄様を交互に見てそんな事を仰るが、それは難しい。ウチの家格と釣り合いが取れるとなると、相手は王族か上級貴族だ。爵位が高いほど幼いうちに婚約するものなので、年齢も家格も釣り合う男女は皆すでに婚約者がいる。
両親が貴族としては珍しく恋愛結婚なので、望めば身分差があっても許されるだろうが、悲しいかな素敵だと思える人もいない。やたらとハイスペックな兄がいるせいで、私の理想は恐ろしく高いのだ。
「……国外にも視野を広げないといけないかしら」
ゲームのミリアリアのその後は描かれていなかった。小説とかだと悪役令嬢が他国の王子に見初められるものがあった気がするが、現実でそんな都合の良いことがあるだろうか。
「ミリアリア様、そのように遠くへ目を向けなくとも、もっと近くにピッタリな方がいらっしゃるのでは?」
「リアには俺がいるだろう」
兄様、眉毛がハの字になってるよ。そんな悲しそうな顔しないで。私は別に結婚したいと思ってないから、このまま家に居たって良いんだよ。
「そうだよね。兄様達が居てくれるから、私は結婚出来なくても良いよ。ずっと養ってもらうのは申し訳ないけど」
「むしろずっと養いたいんだが」
兄様は私に甘過ぎる。あまり過保護にすると、私がダメ人間になるよ。
自分の食い扶持くらい自分で稼がねばと、私は心の内で自立の道を模索し始めた。幸い狩りは得意だから、冒険者になれないだろうか。光属性もあるから神殿に入るという手もある。
「苦労なさいますわね」
デネボラ様はそう仰るが、何とかなりそうだ。私は将来設計に没頭し、気がついた時にはデザートを食べ損ねていたのだった。




