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「あっ、ミモザちゃん!久し振り!」
私が声を掛けると、前を歩いていたミモザちゃんは一瞬立ち止まりかけてから、徐ろに歩くスピードを上げた。私はさらにスピードを出してミモザちゃんの前に回り込み、細い両肩に手を置いて、ミモザちゃんの逃亡を防いだ。
「ミモザちゃん、久し振り。逃げなくても良いんじゃないかな」
「美人の笑顔超怖い」
「褒めてくれてありがとう」
「褒めてないわ!それに逃げてない!ちょっと周りが煩くて聞こえなかっただけだから!」
それって逆に聞こえてたって白状してるようなもんだよ。
私が笑顔にほんのりと威圧を乗せると、ミモザちゃんの顔がサッと青褪めた。
「ごめんなさい逃げました。最近平和だったからこのまま関わりたくないと思って逃げました。怖いからその顔やめて」
私が威圧を引っ込めると、ミモザちゃんはハーッと息を吐き出しながら体の力を抜いた。そして諦めの表情を浮かべると、手縄を掛けられる罪人のように、両手を揃えて前に出した。
「短い平和だった……で、今日は何処に連行されるの?」
「何処にも行かないよ。聞きたいことがあっただけだから」
新学期が始まってから、ミモザちゃんは授業が終わると直ぐに神殿に帰ってしまう。神殿での聖女教育を受けるためだ。私も忙しくしていたので、話をする機会がなかった。
「ミモザちゃん、学園の舞踏会のドレスはどうするの?」
「えっ、まだ2ヶ月も先だよね?」
やっぱり何の準備もしていないようだ。
「あのね、ミモザちゃん。持っているドレスを着るならいいんだけど、新しく作るなら今から準備しないと間に合わないよ」
学園の舞踏会は2ヶ月先だけど、その頃には貴族の社交シーズンが始まる。それに合わせて誰もがドレスを新調するから、この時期の服飾関係者は大忙しなのだ。
もっと前から準備をすればいいようなものだが、今シーズンの流行が決まるのは夏が終わってからになる。流行遅れのドレスなんて貴族としては赤っ恥だから、どうしても注文時期が集中してしまう。しかもドレスはオーダーメイドのみ。作製は全て手作業だから、秋は服飾関係者にとって過労死と隣り合わせの季節なのだ。
ミモザちゃんはそんな貴族社会の常識には疎いだろうから、ドレスなんて頼めば直ぐに出来上がるものだと思っていたようだ。私の説明を聞いて色を無くし、涙ぐむ。
「どうしよう!?アタシ、舞踏会用のドレスなんて持ってない!」
そうだろうね。聖女召喚の儀式が行われたのは1年前。それから学園に編入するまでに淑女としての教養を叩き込まれても、とてもじゃないが社交に出せるレベルには届かないだろう。どうせ死ぬ運命だからと、最低限のマナーしか教えられなかったかもしれない。舞踏会どころか茶会ですら、経験がないんじゃないだろうか。
「大丈夫よ、急げばまだ間に合うから。今からでも周りに相談して、ドレスを仕立ててもらったら?」
「うん、そうする!」
パタパタと駆け出したミモザちゃん。角を曲がろうとして振り返り、私に向かって叫んだ。
「ありがとう!!」
ああ、可愛いなぁ。こういう所があるから、私はミモザちゃんが嫌いではない。
ミモザちゃんが曲がった通路の先には、上級生の教室へと続く階段がある。レグルス王子にでも相談するつもりなのだろう。ゲームでは攻略対象の誰かが必ず、ミモザちゃんに流行最先端のドレスを贈っていた。現世でもきっと王子かシリウスあたりが、ミモザちゃんのドレスを用意してくれるはずだ。
さて、私も自分のドレスのために頑張らなくては。
今年の流行は、レインボースパイダーという魔物の吐く糸で織った織物だ。この織物生地を使いさえすれば、ドレスの型は自由。レインボースパイダーの糸はその名の通り虹色で光沢があり、織物にするとツルリとした肌触りだ。高級素材なので、ドレスを作るとなるとかなり値が張る。
これでも公爵令嬢の端くれなので、ドレスの1着ぐらい家で用意してもらえるのだが、元が庶民の私は値段が気になって仕方がない。そこで私は、素材だけでも自分で準備することにしたのだ。
ミモザちゃんが去っていった方向からアーク兄様が走ってきた。
「兄様、ミモザちゃんにドレスを贈ってあげることになった?」
「そんな話は聞いていない。さっきそこですれ違ったが。それよりリア、待たせてすまない」
これから兄様と北の森林地帯に行って、レインボースパイダーを狩る予定だ。
「そんなに待ってないよ。兄様、付き合ってくれてありがとう」
「リアとなら喜んで付き合う」
北へは長兄が飛行魔具で送ってくれるから、この週末いっぱい狩り三昧だ。ドレスが作れるだけのレインボースパイダーを倒したら、送迎してくれる長兄が欲しがっている魔物素材も集めると約束している。家族へのお土産に、北でしか捕れないホワイトバードも欲しい。
よし、頑張って狩りまくるぞーっ!




