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私とミモザちゃんが階段で特訓した数日後。
学園では、私がミモザちゃんを階段から突き落としたことが噂になっていた。面と向かって何か言われるわけではないのだが、これみよがしに眉を顰められ、ヒソヒソと陰口をたたかれ、遠巻きにされている。いつも一緒にランチをしているご令嬢達も今日は別行動で、アーク兄様だけが、私と同じテーブルについてくれていた。
「やっぱりあれはやり過ぎだったんじゃないか」
分厚いステーキにナイフを入れながら、兄様が言う。
「あれって何?」
「階段での特訓。リアは気付いてなかったけど、殿下達もドン引きだったからな」
「それはミモザ嬢の本性を垣間見たからじゃないの」
「それもある……」
兄様は色々と思い出したのだろう、深ーく溜め息をついた。ものすごく疲れることがあったようだ。
「リゲルが特にな。ミモザ嬢はあれで聖女として務まるのかと言い出して。あの様な心根では聖女の能力を得られないのではないかと、神殿に直訴するわ陛下にまで進言するわで」
「大変だったのね」
「そうなのだ!今更新たに聖女を立てるなど無理だと言っているのに、あの石頭が!」
聖女の召喚術には綿密な下準備と膨大な魔力が必要だ。十年単位で神殿が準備をしているのに、ちょっと性格に難があるからって、そう簡単に次の聖女を呼んだりできる訳がない。
ホイホイ異世界人を攫って来られても困るしね。
「殿下やシリウス様も、リゲル様と同じお考えなの?」
「いや、殿下はミモザ嬢の性格は、かえって聖女に向いていると仰っていた。聖女の役割を考えると、気が強いくらいで丁度良いのではと。シリウスは……あの性格ならこちらの罪悪感が薄れると」
相変わらずシリウスは、ミモザちゃんを殺る気満々だな。罪悪感とか最初から持ち合わせていないんじゃないのか。
「兄様はどう思ってるの?」
「俺は何もかも関わりたくない。リアにも関わってほしくない」
「私が聞きたいのは、兄様がミモザちゃんをどう思ってるのかなんだけど」
「どうでも良い。性格が良かろうが悪かろうが、俺には関係ないことだ」
うーん、アーク兄様のミモザちゃんへの好感度は上がっていないのか。むしろあれを見ても下がらなかっただけで、良しとしなければならないだろうか。リゲルの好感度はガッツリ下がったみたいだしなぁ。
「リア、もう辞めよう。お前が泥を被ってまでミモザ嬢を助けることはない。先日のあれで、ミモザ嬢もリアに良くない感情を持っただろうし」
「あら、かえって仲良くなれたと思ってるけど」
「アンタと仲良くなった覚えはないわ!」
いらっしゃいミモザちゃん。
ミモザちゃんは挨拶もせず、私の隣の席にガシャンとランチプレートを置いた。
ミモザちゃんは焼肉定食か。今まではフルーツサンドとかホットケーキとか、お昼御飯でも可愛い少食女子アピールしてたけど、本性バレたから辞めたのかな。
「こっちはアンタのせいで大変なんだからね!聖女としての資質を示せとか、無茶振りされてんだから!」
「光属性魔法を使うところを見せろとでも言われていますの?」
「光の薔薇を取ってこいって言われたのよ!」
マジか。
あれはゲームでは終盤のイベントだったはず。今のミモザちゃんのレベルでは、かなりの無理難題だ。
アーク兄様も難しい顔で、ミモザちゃんに尋ねた。
「それはさすがに無理だろう。他の方法ではいけないのか?」
「リゲル様を納得させるには、そのくらいしなきゃ無理だと言われたんです。アーク様がリゲル様を説得してくれれば、アタシがこんな無茶振りされることもなかったんです」
「出来る限りの説得はしたんだがな。俺の力不足で申し訳無い」
「兄様のせいじゃないわ。貴女もシレッと人のせいみたいに言ってるけど、ご自分の性格を省みたら宜しいんじゃなくて」
「アンタにだけは言われたくない!」
ミモザちゃんはプックリ頬を膨らませ、その膨らんだ頬にご飯を詰め込んだ。黙っていれば美少女のミモザちゃんは、そんな子どもっぽい行動もリスみたいでカワイイ。
私もハンバーグを口いっぱいに頬張ったが、令嬢らしい上品さが損なわれただけだった。
「……可愛い……」
おっ、兄様がミモザちゃんのカワイさに気付いたか?
私を挟んでテーブルの反対側にいる兄の呟きはミモザちゃんには届かなかったようだが、大切なことを聞き逃すところもまた恋愛ゲームの主人公らしい。
「とにかくアタシは、光の薔薇を取りに常闇の祠に行かなきゃならないの!アンタのせいなんだから、当然手伝ってもらうからね!」
ミモザちゃんは、箸の先をビシッと私に突き付けて宣言した。お箸で人を指してはいけません。
「ほら兄様、私とミモザ嬢はもう、仲良しのお友達でしょ」
「どうしてそうなるのよ!」
「だって、困った時に助け合うのは友達じゃない。よろしくね、ミモザちゃん」




