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レグルス王子は言葉通り、四六時中ミモザちゃんの傍にいることにしたようだ。私がミモザちゃんを訓練に連れ出すと、必ずと言っていいほどくっついてくるようになった。
そうなるとシリウスとリゲルも張り合って、やれ差し入れだのサポートだのと顔を出してくるわけで。有言実行は素晴らしいが、正直邪魔で仕方がない。
どっか行ってくれないだろうか。
私がハッキリ顔と態度に出していても、3人共ライバルを牽制するのに忙しく、気付いてすらもらえない。空気を読めとは言わないから、せめて私とアーク兄様も視界に入れてくれ。
私の願いも虚しく、今日もレグルス王子達はミモザちゃんを挟んで睨み合っている。先日レグルス王子がミモザちゃんと建国祭デートしたことで、シリウスとリゲルは少し焦っているらしい。ミモザちゃんに殆ど関わらず警戒対象外だったアーク兄様が、今になって参戦してきたことも、焦りに拍車をかけているようだ。
「ミモザちゃーん、ミリアリアちゃんとばっか遊んでないで、ボクとも遊んでよー」
私は別にミモザちゃんと遊んでいるわけではないんだが。
シリウスは拗ねたように甘えた声を出して、ミモザちゃんに纏わりついている。見た目が幼いシリウスが甘える様は、ゲームの画面越しに見れば微笑ましかったが、実際目の前でやられるとキビシイ。17歳で既に成人している男が(この世界の成人は16歳だ)何やってんだと思う。貴族は学園を卒業するまでは半人前扱いだけど、平民だともう働いて、結婚もしている年齢だからね。
私はイラッとしながら、ミモザちゃんからシリウスを引き剥がした。ミモザちゃんは出し入れ自由の涙で瞳をウルウルさせて、両手を胸で組み宣った。
「みんな、アタシのために争わないで!」
更にイラッとした。よし、今日の訓練内容が決まった。
「ミモザ嬢、今日は受身の訓練ですわ」
「分かったわよ、やるから殺気を出さないで!」
私はミモザちゃんを連れて階段を上った。半分ほど上ったところで振り返り、ミモザちゃんを突き飛ばす。
「ギャッ!!」
ガタガタと音を立てて階段を転がり落ちるミモザちゃん。レグルス王子達は何が起こったか分からずポカーンとしている。
アーク兄様だけは私がやらかす事を予測していたようで、ミモザちゃんが落ちる瞬間落下地点に移動していた。転がり落ちてきたミモザちゃんを無事受け止めて立たせると、呆れたようにこちらを見上げてくる。
「リア、せめて合図を出してくれ」
「兄様なら間に合うと思って。それに、咄嗟に受身が取れないと意味がないもの」
「それはそうだが──」
「あっっぶな!いきなり何すんのよ!」
ミモザちゃん、ネコ被るの忘れてるよ。
憤怒の表情で駆けのぼってきたミモザちゃんが、私に掴みかかる。その剣幕にリゲルがドン引きしているがお構いなしで、ギリギリと襟首を絞めてくる。
「アンタ、アタシを殺す気!?」
「その制服を着ていれば、このくらい落ちても大丈夫ですわ」
「そう言って邪魔なアタシを始末するつもりでしょ!」
「今現在貴女が私を殺しかけてますが」
「殺られる前に殺ってやるわ!」
殺気立ったミモザちゃんが更に首を絞めてくるので、今度は足払いをかけた。
「うおっ!?」
バランスを崩し、再び転がり落ちるミモザちゃん。先程より落ちる時の音が小さい。階段落ち2度目にして、受身のコツを掴んだのだろうか。
さすが主人公、素晴らしい学力能力だ。
その上今回はアーク兄様に受け止められるよりも前に勢いを殺して止まり、自力で起き上がると一足飛びに駆けのぼってくる。
さすが主人公、素晴らしい身体能力だ。
「やりますね」
「うっさいわ、この悪役令嬢!アークルートでもないのに階段から突き落とすなんてベタなことすんじゃないわよ!」
「アーク兄様がどうかしましたの?」
さり気なく階段を上りながらミモザちゃんの攻撃をいなす。繰り出す速度はなかなかだがパンチが軽い、筋力アップメニュー追加と頭の中にメモして、さっきより高い位置で大外刈り。
三度転がり落ちるミモザちゃん。おお凄い、転がる勢いを利用して立ち上がったよ。
「凄いですわ、これなら武闘家にもなれそうですわね」
「だから脳筋ルートには行かないっつーの!アークより強くなるとか無理ゲーでしょ!」
でも大聖女ルートでの主人公は、アークと同じくらい強くなってたよ。だからミモザちゃんにも不可能じゃないはず。
ゲームのアークは女性に言い寄られるのが嫌で、自分よりも強い女性にしか興味がないと公言していた。アークルートでは主人公がそれを真に受けて、ひたすら身体を鍛えるのだ。
この世界のアーク兄様は強い女性が好きだとは言っていないが、弱々しい女性が苦手だとは聞いている。ミモザちゃんは強靭な精神力の持ち主なので、あとは身体的にも強くなれば兄様の理想の女性になるはずだ。
ミモザちゃんの猫パンチを躱し、階段から突き落とし、また襲ってくるミモザちゃんを足蹴にし、落ちかけたミモザちゃんに反撃をくらい。
私達はミモザちゃんの体力が尽きるまで、階段で戦った。レグルス王子達のことなんてすっかり忘れるくらい夢中で戦ったので、いい試合をした後のライバルみたいに、友情が芽生えたりしてないかな。




