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 レグルス王子は急ぐでもなく、人波を縫いながら歩き続けた。途中何度か角を曲がり進む方向を鑑みると、どうやら王城に戻るつもりのようだ。城でのんびりお着替えしてからミモザちゃんを助けに行く手筈なのだろう。


 王子の今の服装は、お忍びらしく庶民の地味なものだが、ゲームのスチルで主人公を助けにきたレグルスは、騎士のような甲冑を身に着けていた。ゲームをしていた時は、単に騎士服格好良いなぁとしか思っていなかったが、デート相手が行方不明という緊急事態に、わざわざ着替えが必要だろうか。誘拐されてから何日もたっているなら分かるが、ゲームの主人公はデート当日の夕方には助け出されていた。それなのに、普段は式典の時くらいしか着ることのない甲冑姿になる理由といえば──演出のためなのではないだろうか。


 そもそも、ミモザちゃんが簡単に攫われたのが可怪しい。

 ミモザちゃんは希少な光属性持ちであり、この世界を救うために魔を封印する重要な人物だ。護衛が付いていないはずがない。

 しかもデート相手はレグルス王子。第四王子とはいえ一国の王子、普段から護衛が山と付いているし、特に今日のような人混みの中では厳戒態勢が取られているはず。そんな中アッサリと、ミモザちゃんを攫える訳がない。


 誘拐がレグルス王子の仕込みでもない限り。


 疑惑が確信に変わると色々なことに説明がついて、私は王子を尾行しながら腹を立てていた。自分の好感度を上げるために女の子を怖い目に合わせるなんて、本当に碌でもない。例えミモザちゃんにゲームの知識があって、今日の誘拐イベントを心待ちにしていたとしても、それとこれとは話が別だ。


 レグルス王子の背中を思わず睨みつけると、同時に殺気が洩れてしまったようで、王子がビクリとして振り返った。私に気付いた様子はないし、レグルス王子に私の隠蔽魔法を見破れるとは思わないが、念のために気配も遮断しておく。隠蔽魔法は光の屈折と反射を応用した私のオリジナル魔法で、これまでに見破ることができたのはアーク兄様だけだが、王子の護衛に魔法探知が得意な人がいたら見つけられる可能性はある。


 尾行がバレると面倒なので、レグルス王子に集中していた意識をずらし、周囲にも意識を向けてみた。どこかで見たことがある男が、通りの向こうから走って来るのが見えた。

 誰だったろう、あの人絶対に見たことがある。

 私はお茶会や夜会でも兄にコッソリ相手の名前を囁いてもらわないと挨拶もできないくらい、人の顔を覚えるのが苦手だ。そんな私が見覚えがあるのだから、かなり頻繁に顔を合わせる人物のはず。


 その男はレグルス王子に走り寄った。何事か耳打ちされた王子が目を見張り、美しい顔を強張らせる。ずいぶん驚いているようで、くるりと方向転換すると男が来た方へと走り出した。見覚えのある男が案内に立ちながら、更に何か話し掛けている。話を聞く王子の顔は苦虫を噛み潰したようで、王子にとって想定外のことが起こったらしい。


 きっと兄様だ。


 私の予想通り、行く先には先程の箱馬車が止まっていて、兄が衛兵と話をしていた。箱馬車の側にはミモザちゃんがおり、もう一人の衛兵に声を掛けられているが、不貞腐れた顔でろくに返事もしていないようだ。ミモザちゃんはイケメン以外には塩対応だけど、事情聴取くらいは真面目に答えようよ。


 私が念を送るとパッと顔を上げたミモザちゃん。私ではなくレグルス王子に気がついたようで、途端に満面の笑顔になる。


「レグルス様〜!!」


 甘く媚びた声で王子の名前を呼びながら、ミモザちゃんはレグルス王子の懐に飛び込んだ。勢いがつきすぎて王子が幾分よろめいているが、ミモザちゃんは気にせず縋りつく。


「レグルス様〜、怖かったです〜、いきなり男の人に馬車に押し込まれて〜」

「それは怖かったな、大丈夫かミモザ。怪我は?」

「怪我はないけど大丈夫じゃなかったです〜、でもレグルス様が来てくれたから大丈夫になりました〜!」


 ミモザちゃん、ぶりっ子が全開だ。ちょっとわざとらしいくらいなのに、王子は可哀想にとミモザちゃんを抱き寄せて、よしよしと頭を撫でている。格好良く救出が出来なかったから、慰めることでミモザちゃんの点数を稼ぐつもりらしい。


「あちらの方が助けてくださったそうで──」

「ミモザが無事で良かった。これからはなるべく傍を離れないようにするからな」

「嬉しいっ!ありがとうございます!」


 衛兵の報告もまるで無視、ついでにアーク兄様のことまで無視して二人の世界に入っている。

 とりあえず、隠蔽魔法を掛けたまま二人の頭を叩いても良いだろうか?


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