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 中央広場に近づいてくると、更に人通りが増えてきた。建国祭の期間中、中央広場では様々な催し物が行われるとあって、多くの人が中央広場を目指し、通りには人の流れができている。まだミモザちゃん達は見失わずにすみそうだが、油断すると連れと逸れてしまいそうな混雑具合だ。

 ミモザちゃんがレグルス王子の裾をチョイチョイと引き、何事か話し掛けながら手を差し出している。レグルス王子が輝ける王子様スマイルを浮かべて頷くと、ミモザちゃんの手を取り、二人は手を繋いで散策を続けた。


 ミモザちゃん、やるなぁ。さすが乙女ゲームの主人公、女子力高いわ。


 感心する私の隣で、アーク兄様が左手を出しかけて引っ込め、出しかけて引っ込めしている。その妙な動きは気付かない振りをするべきだろうか。


「……リア、逸れるといけないから……」

「あっ兄様、2人が横道に入るよ」


 レグルス王子がミモザちゃんの手を引いて、露店の間に入って行った。慌てて追い掛け、横道へと踏み出そうとして踏み止まり、角の壁際に兄を押し付ける。私達の背後をレグルス王子だけが通り抜けて行った。

 チラリと横道を覗くと、ミモザちゃんが一人樽に腰掛けて足をブラブラさせている。王子はお遣いにでも行くと言って、ミモザちゃんから離れたのだろう。

 たぶんココだ。


「……近い……嬉しいが近い……」


 アーク兄様が何かブツブツ言っているが、よく聞き取れない。私は兄様に更に近づいて、耳元で囁いた。


「私は殿下を追い掛けるから、兄様はミモザちゃんを見守ってて」

「待っていれば、殿下もすぐに戻って来られるだろう。このまま離れずにいたほうが良いんじゃないか?」

「いえ、私は殿下が気になるから……」


 兄が目をウルウルさせて私の顔を覗き込む。


「リアは殿下をお慕いしているのか?」

「は?」


 何でそうなる。


「殿下にはデネボラ嬢が居られる。リアがいくら殿下をお慕いしたところで、その想いは叶わない。悪いことは言わないから諦めて、もっと別の男に目を向けてみろ。例えばお前の身近にいて、いつもお前を守っているような──」

「キャァッ」


 横道からくぐもった悲鳴が聞こえた。飛び込むと既にミモザちゃんの姿はなく、彼女が持っていた花柄のポーチが転がっている。横道の向こうに箱馬車が見え、まさに今動き出そうとしている。


「兄様あの馬車追って!ミモザ嬢が攫われたのかも!」

「えっ!?だが、そうと決まっては──」

「早く!私は殿下に伝えて、直ぐに追い掛けるから!」


 急展開に戸惑っていた兄様だが、決意してしまえば頼りになる。一気に表情を引き締めて、私に一つ頷くと、猛然と馬車を追って走り出した。

 これでミモザちゃんは大丈夫だ。私はレグルス王子を探さないと。


 建国祭デートイベントで起こるミモザちゃん誘拐事件は、デートに行けば誰を攻略中でも必ず起こる強制イベントだ。ただしアークがデート相手の時だけはミモザちゃんが連れ去られることはなく、アークが誘拐犯達をその場で撃退してしまう。ミモザちゃんには脳筋と馬鹿にされていたが、ゲームのアークは本当に強かった。攻撃力だけ見れば今のアーク兄様より強いんじゃないだろうか。


 他の三人がデート相手の時は、ミモザちゃんの誘拐は成功し、監禁されているところにデート相手が助けにくる。手足を縛られ転がされていた主人公を助け起こして抱きしめるシーンのスチルが綺麗で、アークルートでも見られないかと試行錯誤したのは良い思い出だ。結局アークに抱きしめられるスチルは存在しなかったんだけど。


 多少筋道に違いはあるが、危険から守ってくれた攻略対象を主人公が更に好きになるのは当然だろう。だからこそ兄を行かせた。

 アーク兄様は、総合力で見ればゲームのアークよりも強いと思う。1人対多数だったとしても、ミモザちゃんを無事助け出してきてくれると信じている。デート相手はレグルス王子だとしても、兄に助けられれば、ミモザちゃんの兄への好感度が上がるはず。


 それに少し気になることもある。それを確認するためにも、レグルス王子を探さなければ。


 踵を返して横道から出て、辺りを見回す。探すまでもなく、中央広場の方向からレグルス王子が戻って来るのが見えた。私は脇の露店と壁面の隙間に体を滑り込ませ、隠れて王子をやり過ごす。

 王子は飲み物片手に横道に入ると、直ぐにミモザちゃんが落としていったポーチに気がついた。


 花柄ポーチを拾い上げたレグルス王子は、横道から出ると、人の流れに逆らって歩き出した。王子の後をつけながら、私は自分の考えが正しかったのだと確信していた。


 王子は笑っていた。


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