第三十四話 二番目の守護者
なんで……なんでこいつレイが異世界転生者ってこと知ってんだよ……!
カーロス国にすらバレていないはずなのだが……
「で?どうなの、君も異世界転生者なの?」
「……異世界転生者は知ってる。だがなぜ今そんなことを?」
泉は首を傾げる。まるでこちらが間違ったことを言っているかのように。
「なぜって、普通に気になったから……かな、それと僕のこと舐めているのかなって」
舐めている……?俺のどこにそんな要素があったのだろうか。
待っていられなくなったのか泉は指をさしシャリオンの腰に差してある半魔剣を見る。
「それだよ。魔剣でしょそれ。なんで使わないの?使わないからそんなに弱いんじゃないの」
あれ、おかしいな、今さらっと悪口を言われた気がしたのだが……
「こんなにボロボロになってまで使わないんだ、それ相応の理由があるに決まってるだろう。そして弱くない」
泉はまだわからないと言った顔をしたが、諦めたのだろう、手を前に伸ばし魔法を唱える。
「闇雷魔法・電爪……」
「シャリオン様!」
ヴォレットが透かさず前に出て、銃を構え、撃つ姿勢を取る。
だが、それと同時に泉は笑った。まるでその行動を読んでいたかのように。
シャリオンは思い出した。そうだ、泉は二重詠唱ができるのだった。
「ヴォレット!下がれ!」
「シャリオン様?何言って―――」
ヴォレットは止まろうとした。が、遅かった。
「……逆……君は必ず撃つ……わかっていたよ」
すると泉が出した雷の爪は前ではなく、後ろ、つまりヴォレットの方へ伸びていき、真正面から受けてしまった。
「ッ……シャ……オン……ま……」
「ヴォレットぉ!」
シャリオンはヴォレットの姿を確認しようとしたが、泉が目線を遮るようにして目の前に歩いてくる。
「これで邪魔な人はいなくなった。まだ君の方が生かす価値はあるから」
そういうと手を差し伸べてくる。
「さ、交渉の続―――」
ブツンッと、音が鳴ったのを泉は数秒遅れたタイミングで確認した。
一体どこから……
その答えは明確だった。自分の右腕がなくなっていた。感覚が一度途切れたから音と痛みが遅れてやってきたのだ。
「炎魔法・五つの刃【収束】……!」
五つの刃【収束】、五つの刃の派生魔法で、その名の通り五つある炎の刃を一つの大きな刃に収束し、ほとんどのものを両断する。リーチは長いが範囲はもちろこと狭く隙が大きいためかあまり本人は使いたがらない。
泉はそれを見て不快に思うどころか、むしろ笑っていた。
「へぇ、君、魔法強いね。なんなら僕の二重魔法より強力なんじゃない?」
「そんなことはねーよ、だが、一矢報いられたのは俺としてもありがたいよっと……はぁ」
ようやく全身の痺れが解けたのか、ゆっくりと立ち上がる。
「ヴォレットはどうなってる」
「さぁ、死んではないと思うけど、死んでたら……ごめんね」
少し罪悪感を感じたからこそ謝罪をしたのだろうがその言葉が逆にシャリオンの腸を煮えくり返させた。
シャリオンはここで怒ってもなにも変わらないと感じたのかあえて黙り、そのまま地を蹴り泉に接近する。
「炎魔法・焼き印ッ!」
炎を纏った拳で右側を狙って撃つ。泉は身を守ることもできたが、あえてしなかった。
「いいね、その拳」
「どんな気分でいまをてめぇが過ごしているかは知らんが……」
よろけた泉を追い詰めようとさらに距離を詰め、再度魔法を唱える。
「炎魔法……」
「でも、そろそろ反撃しないとだもんね……」
「曲芸師!」
直後、炎の玉が無数に表れ、それぞれが独自の動きで泉を襲う、はずだったが、その全ての玉は泉の周囲で消えた。否正確には泉の地雷によって相殺された。
「闇雷魔法・迎撃地雷……その玉はどの道僕にたどり着くんだ。迎撃すれば何の問題もない」
泉はゆっくりとシャリオンに歩み寄る。少しばかり反撃されるとも思ったが、泉はすぐにその考えを捨てた。シャリオンは先の連続に使用した魔法が理由で疲労しているからだ。そして自分も魔力消費と片腕が無くなったこともあり、疲れていた。
「……君、いい腕してたよ……でも、自分の限界は知らないとね。僕の腕一本分の価値は十分にあった」
そう言い捨てると血を滴らせながらも後退し、周りにいる者に告ぐ。
「……十分楽しんだからね、君たち、もうやっちゃっていいよ。あ、殺すって意味ね……僕は疲れたから……頼むね」
木陰に座りながら言い終わると少し目を瞑った。
「はぁ……くそ、もう魔力切れかよ、ちっ……動け……」
白い服で身を包んだ者達がこちらに向かってくるのが視界の端で捉えることができた。
全力で足を手を動かそうと尽力するがやればやるほど疲労が溜まっていくのが分かった。
「くそ……!くそぉあああああ!」
最後の力を振り絞り叫ぶ。
すると、これは奇跡なのか、はたまた誰かによる加護か……そんなことは起こりえない、そんなことシャリオンもわかっていたが、そう感じずにはいられない光景が今まさに広がっていた。
目の前の者達の腹部が消えていた。
「……これは……なんで……」
そしてようやくその光景が、前のゲノ・スケローイを亡き者にさせた時と酷似していることに気付き、振り返る。
「まさか……ヴォレット……」
予想は的中しており、ヴォレットは雷の魔法を受けてところどころ焦げて全身に力が入らなくなっていながらも銃を握っている手だけは白い服の者たちに向けられており、引き金は引いたままであった。
「シャ……ン様……ご……無事……ゲホッ……カハッ……何……りで……」
「もういい……喋るな……」
シャリオンは無理やりにでも立とうと腰に差してた半魔剣を杖代わりに立ち、徐々にヴォレットの方へ歩く。
「ャ……ンさ……まぁ……明日……昼……何に……す……か?」
「いい、もういい。そんなことは終わってから話そう……」
意識はもうないのだろう。話の内容が今ではなく過去のものになっている。
かつてそんな話もした、そう思い出しながら歩みを止めない。
が、冷酷にも後ろからは複数の白の者達が走り、こちらを殺そうと向かってくる。
「ヴォレット……すまん、俺はいい王では無いみたいだ……」
「シャ……ン様……早く……か……って……きてくだ……い……」
ヴォレットは未だに何か言っている。聞いてやりたい気持ちはあったが、今はその感情を押し殺し、後方を睨む。
「ヴォレット、お前は俺のことずっと守ってくれてたよ……だが、王として、やっぱお前らのこと、守んなくちゃいけねぇんだ……だから、今度は俺が守る」
そういいながら手に持っていた半魔剣の柄を握る。
―――半魔剣、異世界転生者が持つ魔剣を模倣した魔剣。簡単に言うと魔剣から強制的に魔力を供給するもので、どれだけ研究し製造しても訳三十%ほどの完成度にしかならなかったが、シャリオンの持つそれは訳五十%の性能を誇り、この地で最も完成度の高い半魔剣となっている。シャリオンや他の者が使用を止める理由は完成度が高い反面魔力供給量がとてつもなく多く、脳が焼き切れる可能性が高い。ので現状のように魔力がほとんど底をついていない限り使用は控えている―――
半魔剣を抜くと、炎のような刃文が見え、魔力がどんどん体に流れ込んでくるのがわかる。
「……最初使った時は……はは、ほんと苦しかったな……アリアドネ様にだいぶ怒られたっけ……でも―――」
半魔剣を完全に抜き終わるころにはもう普通に歩ける程度の魔力量は供給されていた。
「今は……心地がいい―――」
抜き終わった鞘は地面に捨て置き、前方を睨みながら走る。
半魔剣を横に構え、襲い来る複数の者たち目掛け、一気に薙ぎ払う。
「青炎魔法・知らぬ間の熔!」
目の前には敵が一人としていなくなり、ただ赤い空、少数の白い者達、そして泉が休んでいる木が景色を覆っている。
唯一地面にはその者達が持っていたのであろう武器と服の切れ端のみ存在していた。
音を聞いて目が覚めたのか泉が目を覚ます。
「……おぉ、すごいね。やっぱそれ、強いんじゃん。なんで使わなかったのさ……って、ねぇ君達」
目の前に一人として味方がおらず、残りは傍にいた者五名だけということがわかり、その者達に問いかける。
「なんで君達は行かないの?殺さないの?仲間がやられているんだ、仕返しなよ。なんで?ねぇなんで?それともなに、下の者に死なせて、君達は僕の隣で映画鑑賞ってわけかな?」
なんだか凄く泉にブーメランが刺さっているように感じるが気のせいだろうか……
そんなことはどうでもいい、あれだけ先行して自分に攻撃してきたあの泉が座っている。それすなわち疲労しているということだ。今がチャンス……
シャリオンは再度半魔剣を握り直し、様子を伺いながら近づく。
「だからさぁ……あぁほら、君達が行かないから、来ちゃったじゃん……はぁ……」
ブツブツと愚痴を零しながら立ち上がり、こちらを見る。
切り落とされた右腕はもうすっかり出血が止まっていた。
「本当は君達にいって欲しかったんだけどねぇ、数は多い方がいいし、仕方ないね」
泉はズボンについた砂埃を払いながら口を開く。
「君はおそらく僕が疲労していると思っているんだろう?あぁそうとも、僕は疲労している。だが動けないということもなかったんだ……ごめんね。なんなら君より元気かも」
そして手を掲げ、魔法を唱える。
「闇雷魔法・雷弾」
するとその名の通り手のひらから無数の雷のような速さで弾が飛んでくる。
「見たところもう君さっきみたいな魔法、出せないでしょ」
「くそっ……」
表情には出さなかったが図星だった。あの魔法、青炎魔法は一度きりというわけではないが、全身の筋肉と集中力を異常なほどに使用するものなので、少なくとも今のシャリオンには一度使えば再度使うのは困難なものであった。
避けようと横へ走るが、やはりと言うべきか足、腕など様々な箇所を掠り、貫かれた。
「ぐっ……く……はっ……舐めるなよ……」
あの魔法が使えないのなら、使わなければいい。
「炎魔法―――」
「はーいそこまで~」
太陽を撃とうとしたその時、何者かが上から降ってきて地面にクレーターを作る。
そのシルエットから小柄な女性だという事だけはわかった。
「あちゃーまた抉っちゃったよ……」
「えっと……え?今上から……え?」
「……?誰だ……?」
二人が困惑していると、その女性は首に引っ掛けていたホイッスルを咥え、思いっきり吹く。
すると不思議なことに魔法が使えなくなっていた。
「なんだ……これは……」
「は~いまぁ困惑されてるとは思いますが、静粛に~」
そういいながら頭に被ったシルクハットを被り直し、泉のことは見向きもせずにシャリオンの方へ歩み寄る。
「あなたが……シャリオンさん?」
一目見ただけでシャリオンだと判断したのか、うんと頷き、シャリオンの返答を待たずして手紙のようなものをポケットから出し、話を続ける。
「こほん……えぇ、では急いでるので単刀直入に言いますね~『アリアドネ国第二王子シャリオン・グレイス様、貴殿を回帰の象徴・エテルニテ国名義で保護することをここに記す。承認者隣国統合会魔法科代表責任者アウゼ・ルテット』……はい、ということで来て下さ~い」
「…………はい?」
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
今回の話も読んでくれてありがとうございます!
第三十四話、いかがでしたでしょうか?
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