第三十一話 死の放浪者(中編)
第三部隊隊長兼大騎士団カズィオン団長のイナミ・タツは、本来守るべき相手の数メートル手前で立ち止まっていた。
「レビン王……?何言って……るのですか……」
その相手とはまぎれもなくこの国守の象徴ナファハ国の王、レビン・ナファハその人である。
「はは……はぁ、大体あいつらは前々から調子に乗っていたからなぁ、ぜぇ、はぁ、いつ私を裏切るか……だからな、お前の交渉、受け入れるぞ」
王は、今まで育て上げてきたその全てを、自分の命の保証と引き換えにある男に投げ売った。
「では……契約成立……だね?」
男はちらつかせていたレイピアの光を鞘に納め、ニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「では……ほら、右腕」
男が一瞬手を捻り、すぐに戻すといつの間にか吹き飛ばされていたはずの王の右腕が元に、それも綺麗に戻っていた。まるで腕は最初から傷一つ付いていなかったと言わんばかりに。
「はは……ははは……人員なんてものはまた作ればいい―――」
「―――王!」
「ははっ、君も忠誠心がみなぎってるねぇ」
王のその言葉を信じることができなかったタツは、未だに王を信じていた。隣にいた男が洗脳したのだと確信し、一瞬で距離を詰めて腰にぶら下がっていた短剣を抜く。
その短剣は男との間合いに入るや否や消し飛んだ。
「王!今解いて差し上げます!だから―――」
タツのその勢いは、王の発した言葉でまた、立ち止まることになる。
「貴様……誰だ?」
「…………は?」
次の剣を抜こうと構えた姿勢のまま、王の顔を見る。
「冗談…………ですよね?」
「………?おい、貴様、王に軽々しく口を聞くなよ?」
「酷い……冗談ですね……今、守っ―――グハッ!?」
「なぁんでわかんないかな?アホ……なの?」
王のその言葉をまだ理解しておらず、まだ守ろうと男に立ち向かうその姿が滑稽だったのか、はたまた哀れに思えたのか、腹を何の予備動作もなくその場で殴る。
構え無しの殴りとは到底思えない距離に吹き飛ばされたタツは、わけがわからなくなっていた。
「どういう……ことだ、十年、十年俺は仕えたんだぞ?なのに、なのにぃ……」
強く瓦礫に頭を打ったためか目の前がまるで海の中を彷徨ってるかのように歪んで見えた。
そんな中、男の姿が見える。
「貴様……ァ」
男は反撃してこないと確信しているのか、武器もとらず、ただその場でしゃがみ、タツの目をジッと見つめる。
「まだわからないの?王は、君を忘れたの。さすがのクズな王でも君の姿を見れば何かしらの反応を示すと僕は思うんだけど……まぁったく知らない人を見る、それの目だった……まぁ、残念だが……」
男が淡々と口を動かしていると、腹の中央に違和感があった。
「なんだ、武器はあれだけじゃなかったのか……」
「俺は、脳筋なんでな……」
腹にはタツが最後の抵抗の如く刺した両刃の剣が刺さっていた。
力なく下した左腕と共にジャラジャラと服の下に隠し持っていた八本の武器がその場に雪崩のように落ちた。
「ふん、まるで武器庫だな……んん……悲しいかな、貴様も私の駒にしたかったのだが……契約の場を見た記憶というものは消すのが難しいのだよ……だから……」
男は一人でブツブツと喋りながらゆっくりと腕を振り上げ、止めを刺そうと思いきり振りかぶる。
が……
「ん……なんだ……契約というものは成立してからすぐに反映されるものなのだが……」
肘から上が無くなり、血が噴き出す。
「ふん、無駄に忠誠心のある小僧共め……邪魔を……」
「タツ!くそ、なんだあいつ!セン!ゲン!ゲノ!各配置に別れ!」
「あいわかった」
「うん!」
「ん~」
ようやくタツに追いついたロコ、ゲノ、セン、ゲンは目標を駆逐するべく陣営を展開した。
謎の男から見て正面にロコ、右にゲノとセン、ロコのさらに後方にはゲンが配置していた。左に配置しないのには要塞の瓦礫が多く、立ち回ることが困難と判断したためである。
「砲術魔法・散弾!」
(これでどこに逃げようと掠りはするだろう……)
ロコがいち早く魔法の射程に入り、即座に魔法を唱えると光の銃口が手のひらの前に顕現し、そこから大量の弾が発射される。
その様子を見てタツの剣が腹に刺さったままゆっくりと振り向き左手を前に掲げる。
「■魔法……■■■■……」
タツは、意識が朦朧とする中でその魔法を聞いて目を見開く。
男が詠唱し終わるとロコが放ったはずの弾が消えていた。
「お……まえ、その魔法は……き―――」
「貴様はもういい。私の駒には向いてなかったようだからな」
男はタツの言おうとした言葉を遮るように未だ血が流れている頭を殴り気絶させる。
「タツ!クソ、なんだあれは……俺は確かに魔法を出したはずだぞ……」
『聞こえるか?ゲンだ。おそらく魔法をなんかしらの形で消されたのだろう』
「なんかしらってなんだなんかしらって」
『うむ……私もよくはわからないが……消えるというより、その物の動作を操作しているという解釈の方がしっくりくる』
(んだよそれ……動作を操作って……チートじゃないか……)
対象の魔法を探るべくロコはインカムのチャンネルを切り替え、センとゲノに繋ぐ。
「いいか、俺がまた砲術魔法を使い相手の殲滅を試みる。そしておそらく再度忽然と弾が消えるだろうからそのタイミングに合わせて二人とも別の魔法を放て。センは貫通弾、ゲノは私と同じ散弾で殲滅だ」
『りょーかいでぇす』
『はい!』
ロコの合図により二人は密かに構えをを取る。
それを確認したロコはわざと男に接近、掌を向け魔法を放つ。
「…………」
男は疑問に思った。
(精鋭であるはずの騎士団隊長らが先ほど同じ魔法を撃ち、意味をなさなかったのを学習しなかったのか?否、そんなはずはない。もし本当にそんなバカの集団であればこれほどまでに完璧な陣を描けるとも思えんからな……)
「面白い……」
男が呟くと、足を踏ん張り、ロコが撃ったその魔法を全身で受け止めた。
「なっ……」
プシューという焦げた音を出しながら男はギロリとゲノの方を見る。
(やはりそうだよな……そうだと信じていたよ……)
「まさか!」
その時ロコは先に言った自分の言葉を思い出し、二人の方を急いで見る。
(そうだ……こいつら命令されたこと以外できないんだった……!そりゃそうだ、魔法が消えたら撃て、でも魔法は消えずに直撃……そりゃ優しい二人からすれば今撃てばオーバーキルになり心が痛むはず……こいつはそれを利用しやがった……!)
「セン!ゲノ!いいから撃て!いいから!」
「え~でも黒焦げだよぉ?もういいんじゃない?」
「で、でも……」
「いいから―――!」
その隙を逃さず男は一気にゲノに飛び掛かった。
「バカは時に私の見方になってくれる……」
「あれれ、生きてたの?」
男はすぐにゲノの頭を掴み、魔法を唱える。
「■魔法……」
「ゲン!」
「うむ」
ゲンは自分を無視しゲノに飛び掛かった男に対し魔法を放つ。
「爆破魔法・爆破予告ッ!」
「チッ、はは、だが、ゲノにもあたるぞ?いいのか?」
(やはり所詮脳筋……そんなので私が混乱すると本気で……)
その時ゲンは笑った。
もちろん可笑しいからでも狂ったのでもない。
ただ勝ったと思ったのだ。
「安心しろ。それは時限爆弾だ。場所は移動してやる」
「は?」
「誘爆」
普通人は一つの魔法を撃ったあとに二つ目の魔法を撃つとなると極度の疲労に繋がるため推奨されないが、ゲンは違う。ゲンはまず最初の魔法を出力した際、二つ目の魔法を半分の魔力で撃つというよほどの老魔法使いですら難しいとされる技術をいとも簡単に、それも非常事態にも関わらず成功して見せた。
男の周りが赤く染まり、ちょうどゲノから遠ざけるように順に左肩、足と爆発していった。
「やってくれる……」
ちょうど隊長らが目視できるかどうかの距離まで飛ばされた男は、自分の手を見て愚痴を言う。
「もう少しか……クールダウンは……慣れない魔法を使うべきではないな……」
それぞれの隊長は、男が吹き飛んだことを確認した後、すぐにその場から撤退、タツの治療を優先した。
「ゲノ!なんであそこで魔法を撃たなかった!」
「え~だってぇ」
「だってじゃない!」
ロコがゲノに怒るとゲンが横から注意する。
「おいロコ、タツが起きるだろう、静かにしないか」
「ちょうどあと五キロ先に村があります。そこでタツの治療をしましょうか」
ゲンがセンの意見に頷く。
「は、まぁでも無事ならいいか……」
それを聞いてゲノが不思議そうにロコの顔を見る。
「あれぇ、厳しいロコが優しいぃ?」
「てめぇ一回殺されてぇか!?コノヤロー!」
「きゃー殺されるぅ」
その掛け合いを見てゲンが呆れたのかロコに拳骨をする。
「やめんかと言っている」
「ってー!なにすんだよ」
ゲンはやれやれと言わんばかりに溜息をつく。
するとセンが何かに気付いたように地図から目を離す。
「あ、あれ見てください、岩影がありますよ」
「そうだな、少し休むか」
ロコとゲノがその提案を聞いて同時に頷く。
……やはり仲良しなのだ。
「タツはどうする?」
「そうだな、こことかは平らだ、ここで寝かせよう」
ゲンが腰かけた岩のすぐ隣には程よい草と影があり、そこに寝かせることにした。
「ふぅ、それにしても、あいつなんだったんだ?結局」
「うむ、確かに妙な魔法だ、銃弾を跳ね返すとかならまだわからなくもないが、消すとなると話が変わる……」
ゲノが閃いたというように人差し指をピンと立てる。
「あ、銃弾を消すまほーとか?」
「そんな限定的すぎる魔法あるわけねーだろ」
言いながらロコはゲノに軽くチョップをする。
後ろでセンが苦笑したのが見えた。
「まぁまぁ、今は考えるのはよしましょうよ。もう夜も更けてきましたし―――」
「おい!タツは!?」
ロコは勢いよく立ち、センに問い詰める。
「え?タツならここ……に……」
今までの楽し気な雰囲気が嘘のように静まり返った。
そして、ゲンが目を見開く。
「まさか……」
気づいたときには遅く、目の前の景色が一変し、先ほどいた地点にまでそれぞれ戻されていた。
「ね、ねぇ、あれって……あれ……って……」
そして皆の目の前には男が立っており、その足元には―――
「タ……ツ……?おい、嘘……だよな?」
イナミ・タツと思われる人物の頭を除く胴体が、そこにはあった。
皆さんこんにちは!隠岐供契です!
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第三十一話、いかがでしたでしょうか?
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