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それの油断

本日もう一話投稿しています

そちらから読んでいただけると幸いです

 ペタペタと裸足で歩く者の足音が洞窟の中に響く。

 異形を塵へと変え、奴らの儀式を止めた虚は一件落着、と拠点へと帰るために洞窟内の来た道を戻っていた。



「六華と一緒に遭ったあのバケモノみたいな奴は出てこなかったな」

「造形からして奴らの近縁種だと思ったが」

「そうだな。そういった奴らを出してくる素振りすらなかった」

「存在を知らない、もしくは使えない」

「やはり一人くらい生かして話を聞くべきだったか」



 もう終わったことだが、衝動のままにその場のテンションで塵にしてしまったことを少々後悔する。


 脅せば話を聞けたかもしれない。結果論ではあるが、虚が気を張っているときにはやつらの粉は効かないのだ。しかしそれを知らない虚に対して、そうするのが最善だ、などと理解させることなどできる訳もなく、ほんの少しの後悔と共に真っ暗な洞窟の中を進んで行く。



 視線の先にぼんやりと仄かな灯りが見えた。

 天から降り注いでいるようなその光は、外への道しるべ以外の何物でもなく、異形たちの鏖殺を済ませた虚を温かく包む。



 壁に掛かった梯子に足をかけ―――ようとして、違和感に気付く。



 果たしてあの異形たちにここまでしっかりした梯子が作れるだろうか。



 生態を知って間もないが、異形が梯子を使用する姿がどうしても虚には想像できなかった。


 元より、どこから、どのように生まれるのかさえも分かっていない生命体だが、身体の作り、殴っても、千切っても、切り落としても血が出ないという複数の要素から、ベースとなっているのは植物なのではないかと予想を立てた。



 そもそも体の一部を変化させて地上に伸ばし、人に寄せた見た目にすることが出来るということが、この梯子を登る前に発覚したばかりだ。


 あの要領で地中なども移動できるのだとしたら、ますます梯子など必要ない。



 仮定も仮定。どこまで行っても虚の想像上の話である。

 しかし可能性をゼロと断言できない。



 もしも本当にベースが植物の生命体なら

 もしも本当に根のような部位を使って地中を移動出来るなら

 もしも本当に体全体が地中を使って移動できるなら



 もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも、もしも―――



 予想がすべて当たっていたなら?







 虚は梯子を登るのを止め、今まで歩いてきた道を全速力で戻った。



 真っ暗闇だ。正面もまともに見えず、体をあちこちにぶつけ、傷を治しながらも恐ろしい速度で洞窟内を駆ける。



 そうして、体感20秒、現実2秒の疾走を終えて先ほどの広場へと戻る。



 ぼんやりと全体が見える程度の灯りを宿したその部屋には、一人の人間らしき生き物の影があった。



 先ほど虚が消した陣の中心辺りにぼうっと立ち尽くすその人影は、虚が先ほどから壁に衝突し続け、洞窟内に響き渡った轟音にも一切気付いていないのか、背中を思い切り晒している。


『私を狙ってください』

『私を殺してください』


 そう宣言しているような背中に向かって飛び掛かる、ことはなく、遠目から観察をする。



 しばらく待ってみても、自発的に何か行動を起こすことはなく、ただ同じ場所を見つめ、同じ姿勢で立ったまま。



 ならば、と次に、足元にあった石を投げ入れる。

 カツン、コロン、コロコロコロ、と立っている人影の足元まで転がった石は、人影の足にぶつかって止まる。



 瞬間、地面、天井、皮膚。ぶつかった石ころ以外のすべてから先のとがった触手、根が飛び出して石ころを貫通する。




「ふむ」

「接触か?」

「だろうな、石が当たってから攻撃を行った」

「音には反応していない」



 冷静に、あくまで冷静に目の前の相手の分析を行う。



「接触のみに感覚を縛っている?」

「それとも音が拾えない?」

「本人は微動だにしないか」



 飛び出した木の根が忙しなく動く中で、その中心に居る本体らしき人型は、ピクリとも動かない。

 触れると拙い。そんな漠然とした情報しかないが、進むだけならば十分。

 飛び出ている根が引っ込むまで待ち、それと同時に、隠れていた岩陰から飛び出す。



 人型がいる場所を避けるように駆ける。

 虚を認識しているのかいないのか、妙に気になってしまうその人型を無理やり意識から外す。



 部屋の外周を駆け回り、どこかに穴が開いていたり、奥に続く通路がないかを調べる。


 幸運にも、探しているものはすぐに見つかった。虚が入ってきた入り口のちょうど正反対の場所に、遠目からは見えにくいように影を落として暗くした通路の入り口があった。



 そしてその奥の通路は、このドーム状の場所や、虚が歩いてきた道とは異なり、金属で出来ている。壁も床も天井も、すべて金属で補強されており、軽く叩くとカンカンと金属特有の音が返ってくる。メッキなどではない。本当の金属で作られた道だ。


 あの異形たちにこれが作れるのだろうか。



 確かに知性はあった。並みの人間程度の知能はあったし、会話も少々相手側の声が聞き取りにくいだけで成立する。



 しかし知性と技術力は別だ。


 人程度の知性をたった数体数十体が所有したところで文明を作り出せるわけがなく、良いところ火を使うか、地上のように木材で建築する程度だろう。



「なにかあるな、これは」

「すこしワクワクしてきたな。こんな感覚は久しぶりだ」

「秘密基地のようで楽しみだ」



 ペタペタと裸足で地面を踏む音を鳴らしながら通路の奥へと進んで行く。



 虚には後ろに目がない。熱中してしまえば周囲の情報が入りにくい。


 だから見逃すのだ。



 中央の人影が動いたことを。

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。


カクヨムにて、コンテスト用の作品として新作を出しています。

もしお暇があれば読んで、評価やブクマをして頂けると大変うれしいです。

興味があれば読んでください。よろしくお願いします

「空想を演じる底辺役者〜キャラ設定でデスゲームを生き残る〜」

https://kakuyomu.jp/works/16818622173258416421

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