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それと廊下

 硬く、冷たい金属製の地面を歩く。


 今までの洞窟の岩や土でできた壁とは異なり、鉄、もしくは鉄に似通った物質で作られ、仄かに明るい状態を維持している廊下を、虚は少々高揚した心持ちで進んでいた。



「六華をあの場所に待たせている以上、迎えに行ってやった方がいいのだろうが」

「好奇心には勝てん」

「死んだらすまんな、六華」



 六華は現在下半身がなく、出血はしていないものの、まともに行動が出来ない状況にある。


 もし、虚が殺した歪な生命体が再度出現すれば、何の抵抗もできずに死んでしまうだろう。

 そうでなかったとしても、今の六華では通常の異形一体ですら倒すことが出来るか分からない。



 そんな状況にある六華を長時間放置するのは、彼女の心配をするのであれば悪手も悪手だ。


 しかし虚はそこまで六華の心配をしていない。


 自分のせいで下半身が無くなっていること、それは理解している。責任もあるだろう。


 だが、六華は虚の仲間ではない。目的の為にお互いに利用しているだけなのだ。だったら利用価値がなくなる、または利用する目的が無くなったのなら気にする必要もない。



 言葉だけの謝罪をぼそりとつぶやいて長く続く廊下を見る。

 この廊下に入ってまだ間もないが、代り映えのしない景色を見ていると飽きが来そうになる。


 しかし時折響いてくる電子音のようなものが、虚の興味を惹く。



 ブゥゥン、ピピッといったような何かが起動するような音が5分に一度程度の頻度で廊下全体に響いてくるのだ。


 その音の発生源を突き止めようにも、音が鳴る以外にその廊下に変化が起こることはなく、壁を見ても模様の無いのっぺりとした壁が続いているだけ。扉のらしき取っ手や、凹凸もまるで無い。



「人が住んでいた形跡すらないか」

「奥にあるとしてもこんなに長い廊下は不要だと感じなかったのか」

「移動手段があるのでは」

「それはそれは、あったとしたらとても便利そうだ」



 この空間を作った者たちの目的を想像すれば、代り映えの無い空間に居ても多少退屈しないことに気付いた虚は、ああでもない、こうでもないと、あったこともない人や、見たこともない道具に思いを馳せながら進んで行く。



「走ってもいいがな」

「趣がない」

「未知の場所に来たのだ、ゆったり見て回りたいしな」



 ペタリペタリ、とゆったりと歩いている暇など本来であればないはずなのだが、虚は自分の思うがままに行動する。


 他人の命が掛かっていることは理解していても、「他人ならばいい」と心の中で割り切ってしまっている。



 東部管理局に戻ることも、目先の興味の前では優先順位がガクンと下がる。


 どこまで行っても、人間とは自分の欲望には勝てない生き物なのだと、虚は自分の責任の無さを笑う。



 自身に苦笑をしながら、まだ見ぬものに対して想像を巡らせながら歩くことしばらく。


 変化の無かった廊下に変化が現れる。


 ある一点を超えた辺りから、無地だった壁に模様が刻まれるようになっていた。



 壁に刻まれる幾何学模様は、抽象的に何かを表しているようにも見え、逆に何の意味もないただの模様にも見える。

 見る人物によって意見が変わりそうな模様を見て、虚は一言。



「わからん」



 虚には美術センスが皆無だ。


 生前において、人物の絵を描けば「抽象画か?」と言われ、建物を描けば「動物……?」と言われた虚には、この模様から何も意味を読み解くことは出来なかった。


 もし仮に、この場所にクリスティーナが来ていたなら、一時間でも、三時間でも、五時間でもこの場所に留まって、この模様の意味を読み解こうとするだろう。



「不思議な模様だな」

「この先に何かあるのか?」



 理解のできないものを理解するのは無駄ではないが、時間がかかる。


 いまはあまり時間を無駄にすることもないだろう、と模様の理解を打ち切って奥へと進む。



 道中、壁を触ってみたり、殴ってみたりもしてみるが、びくともしない。


 触れる方に関してはあまり物質に大きな影響を与えないことが分かっていたが、虚の膂力で殴っても凹みすらしない壁に対し、少なくない興味がわく。



 どっしりと構え、腰を低く落とす。足から腰、腰から背中、背から肩、肩から腕へ。重心を移動させながら、十分に力と速度が乗った拳を金属の壁へと叩きつける。



 鈍い音が響いて、血が壁にまき散らされる。

 腕が折れ、閉ざしていたものから放たれたように飛び出す腕の筋線維。

 そこまでして虚が放った拳を受けた壁は、微塵もへこんでおらず、不変のままそこにあった。



「わぁお」

「恐ろしい物質だ」

「壁を壊して進むのは無理、と」

「大人しく進むか」



 腕が治っていく感覚を感じながら、再び虚は前を向いて歩き始めた。


 そして気付く。なにやら空気の流れがあることを。



「出口か?」



 少々歩きのペースを上げて先へ進む。

 小走りで廊下を進んでいるうちに、奥に少し光が見えた。


 どんどんと大きくなっていく光をその身に感じながら、小走りから本格的な走りに移行した虚がその光へ飛び込む。



 光を抜けた先にあったのは、東部管理局の地下のような怪しげな研究施設だった。

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。


カクヨムにて、コンテスト用の作品として新作を出しています。

もしお暇があれば読んで、評価やブクマをして頂けると大変うれしいです。

興味があれば読んでください。よろしくお願いします

「空想を演じる底辺役者〜キャラ設定でデスゲームを生き残る〜」

https://kakuyomu.jp/works/16818622173258416421

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