それが消す
体調を崩していました。
お詫びとしてもう一話投稿させていただきます。
一歩、虚が進む。
それだけで、周囲の地面は干乾び、天井からもパラパラと乾いた土が振ってくる。
一歩、もう一歩。
歩を進める度に地面は乾燥によってひび割れていく。植物が育たないように。
歩を進める度に天井が脆くなっていく。生き物が棲むことが出来ないように。
「なぜだろうな」
「この体になってから感情を抑えるのが下手になっていく」
「代わりに堪忍袋は丈夫になったがな」
「どうしても怒りを収めることが出来ないのだ」
「一度腹が立つとその相手が目の前から消えるまでイラつきが消えてくれない」
「だから、殺すことにする」
異形は思案する。
目の前の生命体がなぜ急にこちらに対して敵意を、殺意を剝き出しにしているのかが理解できなかったからだ。
彼らに技術を授けた文明を生きる者たちは常に冷静であり、感情を表に出すことをしなかった。
曰く、「人として恥ずかしい」のだと。
文明を築く者が感情に振り回されることは恥ずべきことなのだと、度々呟いていた。
彼らを模倣し、彼らしか模倣しなかった。
この陣も、教えられた人間のことも、魔導のことも。
すべて彼らが行ってきたことだ。彼らが見せたものだ。
故に知らない。彼ら以外の人間を。地上で生きる人類のことを。目の前の激情を。
分からない。分からないが、拙いことは理解できた。
そういえば目の前の生命体は、いま陣の中心にある供物を持ってきた我々が言っていた個体とよく似ている。
溢れんばかりの生命力、そして触れれば取り込まれて、燃やされてしまいそうな、暗い、黒い、灼熱の命。
なんとか粉を吸わせることで、敵対せずに腕を献上させたのだと、自慢げに伝えていたことを思い出す。
そうだ、同じではないか。
あの我々が言っていた生命体だ。
だとすれば、同じように粉を吸わせることで懐柔できる。敵対行為を止めることが出来る。
そこまで思い至った異形が、体内に発生する粉末を静かに周囲へ散布させる。
一時的に吸い込んだ相手の認識に障害を発生させ、異形へ有効な行動を取らせる粉だ。
身体的に不利を抱えた異形たちが進化の途中で生み出した武器。
それを目の前の虚へと向けて放出する。
自分の策が絶対に通じるものだと信じ切って、
そんなはずはないのに
この世に絶対はない。ましてや自分より上位の存在に対しては、そんな言葉は一か八かなどという言葉よりも部の悪い博打となる。
前回の気の緩めた虚ならまだしも、今、目の前の敵を殺さんと向かってくる虚にそんな小細工は通用しない。
虚の気付かぬままに、放たれた粉は効力を失い、ただの粉となった。
大量に吸い込んだら肺粉塵になる可能性がある。その程度の脅威へと存在を書き換えられる。特殊な効果も、利用価値もない。ただの塵だ。
異形もそのことに気付かず、勝ち誇った顔をした。
その時には、既に正しい場所に顔はなかった。
ごろりと転がる感覚を覚えた異形は、塵へと変わっていく自身の身体を見つめ、『何故』と考える瞬間すらなくその命を終えた。
「いち」
異形の身体に触れ、崩れ去ったことを確認して数を数える。
ゆらりと立ち上がった虚は、祈りを続けてこちらに気付かない間抜け共の元へと歩み寄る。
その溢れんばかりの生命力を感じさせぬほどに気配を薄く、薄くした虚に気付けぬ異形は、その体を虚に触られることで塵へと変わる。
「に」
二体目とはうって変わって、音を立てぬままに瞬間移動のごとき速度で次の獲物の元へ寄る。
微塵も気配を隠さぬ虚に気付いた異形は、周囲の同胞へ何かを伝えようとするが、その瞬間には視界が斜めにズレ、考えることが出来なくなった。
「さん」
手に付いた塵を払いながら周囲の様子を見る。
残り二体。祈りを続けているが、虚には既に気付いているようで、時折意識を虚へ向けている。
それを察知した虚だったが、その二体を殺すことはなく、術者も護衛もいなくなった陣の真ん中へと進み、供物とされていた自分の腕を祭壇のような場所から持ち上げた。
確信はなく、もしや、という程度の勘に頼った行動だった。
しかしそれが功を制したようだ。
供物を失った陣は急速にその存在感を小さくしていき、仄かに光っていた地面に引かれた線も光を失っていく。
儀式を失敗したことによる影響なのか、残っていた異形も声にならない声を上げて倒れた。
念のためと近寄って触れようとしてその顔を見る。
そこにいたのは虚が初めに言葉を交わした異形の二体だった。
「やはり、私に何かして思考を曲げたのか?」
「この様子では、話は聞けないな」
「あぁ、もう塵になったからな」
気になったことはあったが、それはそれ。
既に触れて塵へと変わっている。
結局、「利用された気がしてムカついた」、これに尽きる。
終わったことを気にしてもしょうがない。実際に利用されたのか、されていないのか。それはここで異形の命が消えたことによって永遠に真実は闇へ消えたのだ。
「消したのは私だがな」
ぽつりとつぶやいて、地面に引かれている線を足で消す。
消える前に胸元のメモ帳へ何かしばらく書き込んでから、完全に陣を消去する。
塵も土に混ぜ、ここに異形が居たという痕跡を消してから、虚はその空間を去った。
「あっけない幕引きだな」
「まったくだ」
この先、星があるぞ
あぁ、星 おそらく星
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