それに仕掛ける罠のようなもの
血の跡を追って、林の奥へと進む。
知性のある異形が支配しているためなのかは分からないが、先ほどまでの場所よりも木や植物といった緑が多く、さらに知性の無い異形が付近に現れることはない、極めて平和な道中であった。
「てっきり踏み込んだ瞬間に何か飛んでくるものだと思ったが……」
「なんだったか、魔導と言ったか?」
「罠のように仕掛けることはしなかったのだな」
先ほどのように道を駆けることもなく、ゆるりと歩きながら道を進む姿は、先ほどまで殺戮の限りを尽くしていた者と同一人物だとは思えぬほどに穏やかだった。
のんびりと散歩のような雰囲気を纏いながら血の跡を追って歩いていくと、なにやら木でできた壁と門のようなものが見えてきた。
異形の棲み処だろうか、と門へと近づいていくが、門の奥から物音や話し声が聞こえることはなく、異形らしき気配も感じられなかった。
確認の為地面を見てみるが、その門の奥まで虚のものであろう血痕は続いており、この門の奥に虚が渡した腕、そして持ち去った異形が存在することは明白だった。
「声を掛けるか……?」
「いやしかし敵の可能性が高い相手に対して声を掛けるのもあまり意味はないな」
「開けるか」
虚は目の前の門へ手を置き、ゆっくりと前へと進んで行く。
地面に刺さっていたのであろう杭が土を削り、門の向こう側にあるのであろう閂がミシミシと音を立てる。
やがてひと際大きな音を立てたかと思えば、門を押す際の抵抗が少なくなり、その勢いのままに一気に門を開け放つ。
開け放った先にあったのは、木でできた檻だった。
そしてその中には、眠っているのか、死んでいるのか。ピクリとも動かない人間が敷き詰められるように入っていた。
明らかに人間に対して友好的ではないその扱いに対して、虚は怒りを覚えることはなく、興味本位といった様子で檻へと近づいていく。
「息は、ありそうか」
「捕虜、か?」
「六華の話にはそういった人物の情報はなかったが」
「軍が把握していない人物、ということか」
檻の中を覗いてみれば、倒れている人間たちは呼吸をしているようで、胸部が上下している。
あまり近くに寄らないように距離を保ちながら、人間たちの反応を伺う。
寝返りを打ったり、いびきをかくような様子は見受けられず、少々待っても指の一つすら動かさない。
よほど深い眠りについているのか、ただ死んでいないだけなのか。確認するために、虚はいろいろとアクションを取ってみることにした。
両手にあらん限りの力を籠め、全力で拍手をしてみる。
衝撃波でも出るのではないかと思われるほどの威力と爆音が辺りに響くが、檻の中の人間たちにリアクションはない。
先ほど門を開けたときに、閂が壊れた際に発生した音もかなり大きなものであったが、深い眠りに落ちているのであれば音だけでは起きないこともあるだろう。
今度は近くに落ちていた小石を拾い上げ、メジャーリーガーも驚くほどの綺麗なフォームで投擲する。当然ながら全力で投げてはいない。起こすために試しているのにそのせいで殺してしまっては何の意味もないのだ。
倒れている人間の一人に向かって行った小石は、何かが折れる嫌な音を響かせながらその人間の腕に突き刺さった。
「……」
「死んではいないな」
「リアクションもないがな」
思いのほか威力が乗っていたため当たった腕を破壊してしまったが、それでも起きることはなく、痛みに表情を顰めることもなかった。
三つ目の策は思いつかなかったため、近づいてみることにする。
人間であれば、近づいた時点で生命活動が停止することがあるのは、〈不死隊アンデッド〉との初めての接触で学んでいる。
近づいて死亡することが無ければ、倒れている人間がクリスティーナ並みの強者か、近寄るだけでは死に至らない異形のようなほかの生物、もしくは異形の偽装。
しかし一つ目の線はないと虚は考える。それほどの強者が異形にやられ、このように無防備を晒していることは殆どない。
一歩、一歩と近づいていき、効果範囲内に入る。
どんどんと近寄っていき、最後には檻の目の前まで近づく。
結果として、この人間たちの呼吸が止まることはなく、身体に異常をきたすような様子もない。
そして最終手段として、人間の一人に触る。
人間であれば触れた個所から徐々に崩壊していく。異形であれば即座に体全てが塵へと帰る。
ほんの指先だが、虚が人間に触った瞬間、その肉体は即座に崩壊し、塵へ姿を変えた。
そしてその直後、動かなかった人間たちが一斉に立ち上がり、一本の管となって地面の下へと吸い込まれていく。
そして人のいなくなった檻の中には、大人が余裕をもって入り込める程度のサイズの穴が開いており、ご丁寧に梯子のようなものまでかけられている。
「ほう?」
「誘っているわけだな」
「あの人間たちは私へ仕向けた罠、ということか?」
「いや、異形共に触った瞬間に相手を塵にするというのは把握しているだろうから、わざわざ助けるように触らせることはしないのではないか」
「じゃあ何だったんだあの罠の出来損ないは」
「知らん」
先ほどまでの人間たちの姿をした罠を仕掛けた意味を考えながら、虚は檻を破壊しながら中へ入り、梯子を下りて行った。
この先、星があるぞ
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