それが進む
知性を持つ異形の元へ行こうと歩き始めようとした虚だったが、方向が分からないことに気付いて足を止める。
どちらから歩いてきたのかを見れば分かると思い至り、周囲の異形達を見るが、どこからか補充されたのか異形による壁に隙間はなくなっており、歩いてきた方向すら分からなくなってしまった。
「ふむ、困ったな」
「結構動いたからな、どっちがどっちか分からなくなってしまった」
「そういえば、六華が同じ場所から動いてないようだが」
「奴から方向を聞けないか?」
うろ覚えながら六華がいたであろう場所に目線を向け、そちらへ向かう。
その場に向かうと、下半身を失いまともに動くことが出来なくなっている六華が居た。
腰のあたりから下部分が完全に消失しており、そのことに対して慌てて動き回ったのであろう証拠に、下半身部分が塵となった場所に積まれた塵がそこら中にばら撒かれていた。
急に自身の身体の半分が塵へなってしまったのだ、訳も分からずに慌ててしまうことも当然である。生前の虚であっても狼狽え、慌ててその場から離れようと身じろぐだろう。
消耗しているのではないか、と六華の様子を少し離れた場所から伺うが、意外にもその表情に狂気的な光は感じず、自身の感情が動揺のさなかにあってもしっかりと自己を維持しているように見えた。
「おい、大丈夫か」
「発狂はしてなさそうだが……」
「特に表に異常は見られないが、内々の面に関して私が関知することは出来ないからな」
「下半身が無い状態はどうだ」
「異様な不安感はあるか?」
六華に近づくや否や質問を連続で浴びせかける虚。
心配はしているようだが、言葉の節々で言動がめちゃくちゃになっていて、実験動物の影響を確認している科学者のようにも映る。
そんな虚に対して、少々恐れの感情を見せながらも、彼女ははっきりと答えを返した。
「は、はい。この状態を無事というのであれば無事でしょう。あの化物たちからも攻撃はされませんでしたし、背後の異形にも襲撃の意志や予兆はありませんでした」
「いろいろ聞きたいことがありますが、一旦置いておいて……」
一度言葉を止め、自身の無くなった脚部分をぼうっと眺めてから意を決したように言葉を続ける。
「私のか、身体はこのまま、なんでしょうか」
「わからん」
「多分何とかなるんじゃないか、という漠然とした予想しか思い至らんな」
「治るんですか!!?」
「分からんと言っているだろ」
「上半身だけ残ったっていう状況が初めてだからどうなるのかは知らん」
「ただ、クリスやら管理総督やらに話を聞いてみれば何とかなるかもしれん」
「もしかしたら私だけでもどうにかなる可能性はある」
「だが、全部可能性の話だ。実際のところがどうなのかは知らん」
「そんな無責任な……。あなたがこうしたんじゃないですか!!」
曖昧な回答しか返さない虚に対し、六華が怒りを込めた悲痛な声を上げる。
彼女目線では、虚が唐突に不思議な力を作用させて、自分から脚を奪ったように見えるのだろう。
事実、虚の能力によって周囲の命を奪い、結果として六華の半身を奪ったことは純然たる事実であり、これは覆しようがない。
だから、形だけでも心配しているような態度を取り、今後同じようなことが起きない為に情報を聞こうとしているのだ。
「そうだ。私の責任だ」
「だから手を尽くすと言っているんだ」
「全身が塵になっても生き返ることがあったからな、可能性は高いと考えている」
「本当、ですか」
瞳に怒りと憎悪、絶望を宿したまま、ほんの少しの希望を見出した六華の顔は、まるで何かに救われた少女のような印象を受ける。
つい先ほど折り曲げられた彼女の心は、ここで無理やり元の形のように戻され、小さな歪みが折り重なっていく。
「そんなことを言っても、今すぐには無理だ」
「再生させるにも時間がかかるし、奴らがどう動くのかもわからん」
「全部片づけたら治してやる」
そう言って虚は六華から距離を取り、誤って殺してしまわないように確実に安全だと思える距離まで離れていく。
ふと思い出し、六華に声を掛ける。
「ところで、私がこの広場に入ってきたときの方向は覚えているか」
「さっき、あいつら相手に動き回ったからか思い出せなくてな」
その問いに対し、少々悩むような仕草を見せた後、周囲を見渡してから少々自信なさげにある方向を指さす。
「多分、あっちから入ってきました。痕跡とかは残ってないので確証はないですが、周囲の景色の見え方的にほとんど間違いはないと思います」
「私を陥れようとしている、なんてことはないな?」
「今はあなたにさっさと異形を片付けてもらって、この体を治してもらうことが先です。こういった事情の時に私情を優先したりはしません」
はっきりとした意志を持って発言する六華への評価を少し上げ、そして彼女の記憶力を目の当たりにして、もう一段階ほど評価を引き上げた。
「その言葉を信じよう」
「では、さっさと向かうとするかな」
「お前はここで待機だ」
「死んでも何とか蘇生させてやるさ」
そういって虚は異形の壁を塵へ変えながら、再び群れの中へと飛び込んでいった。
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