それの身体の使い方・1
腹に当たるであろう部位に大穴が開いた歪な生命体は、血を噴き出すこともなく、ゆっくりと倒れて動かなくなる。
そしてやがて、他の異形達と同様に崩れ去り、塵へとなってその場へ積もる。
「一体目」
「あと何体いるんだ、これ」
「ひぃふぅみぃ……十体くらいか」
「いいな、技の威力の検証ができる」
そうして虚は周囲の歪な生命体を見やり、突きを放ったままの自分の姿勢を戻し、楽な姿勢へと変える。
手指をリラックスさせるように腕をプラプラと揺らしている間に、体の違和感に気付く。
妙に腕が軽い。
その違和感の元へ視線を移せば、肩口から先が消し飛び、筋繊維だけが残った腕の残骸があった。
「違和感の正体はこれか」
「流石に無理をさせすぎたな」
「再生するとはいえ、無駄に手足を使い潰すのも良くないだろうからな」
「壊さない技も模索するとしよう」
そんな独り言を呟いているうちに、腕は逆再生のように復元していき、傷ひとつない綺麗な腕が戻ってくる。
身体が負傷を認識した瞬間に即座に蘇生が始まり、一秒も経たずに完全再生する。
負傷を前提とした技をいくつか考案している虚からすれば最高の身体であるが、得体の知れない再生に頼りすぎるのも良くないのだと最近になって考え始めるようになった。
いざというときに再生できなければ意味がなく、どういった原理で再生が発生しているのかが分からない為、無暗に使わないようにしよう。と内心で自戒する。
「今度は避けながら打ってみるか」
一人の同族がやられたことなど一切気にも留めず、虚へと襲い掛かってくる生命体たち。
やはり学習機能がないのか、ひたすらに全身の触手を振り回して攻撃する。
触手の中には爪や牙が生えている状態のものも多く存在し、通常の人類が当たってしまえば致命傷となる攻撃を連続で放ってくる。
それに、十体ものこの生命体が一斉に触手を叩きつけてくるのだ。もはや線の攻撃ではなく、面制圧のような攻撃と化している。
攻撃が来た瞬間に虚は回避を試みるが、体内が危険信号を発さない為なのか、生前のような攻撃に対する勘が利かず、もろに攻撃を受けてしまった。
全身の肉がぐちゃぐちゃになっていく感覚と痛みを感じながら、虚は思考する。
『昔戦場にいたときのような勘が利かないな』
『ああいった勘は致命傷を受けそうになった時だけだったしな』
『今のこの体では、怪我や痛みを生命活動が止まる危険信号だと判断しないわけか』
『再生に頼らないようにと考えていた矢先にこれか』
十体の生命体が放つ無数の触手を全身に受けながら、次の技の準備を進める。
どうあっても攻撃を受けてしまうのなら避けるのも面倒だと、回避という選択肢を脳内から削除し、肉体が肉袋となり、再生し続ける自身の身体を感じながら技を出す方が良いと虚は判断した。
後のことなど、その時の自分が考えればいいのだ。
先ほどまでの思考はどこへやら。再生能力に対しての疑いなどそこらへ放り投げ、自分の身体を使い捨てとする方向へ戦い方を定める。
姿勢を変え、棒立ちになる。特に構えを取らず、自然体に。
一発目の全力を込めた一撃とは反対に、全身を極限まで脱力させる。攻撃を受けることによって発生する筋肉の緊張を無理やり抑え、鞭打の嵐の中でリラックス状態を維持させる。
これから行う動作は、お得意の脱力状態からの踏み込みでの超加速だ。
シンプルで隙も少なく、今の虚の身体能力の最高速度で攻撃が飛んで来ようものなら、よほどの強者でない限り見てから回避は不可能。そして今生まれたばかりの、生き物としての形すらまともに取っていない不格好な生命体にそんな達人じみた行動ができる訳もない。
何かを折るような音と同時に、一閃。
裸足のはずの足は、速度により恐ろしい硬さを獲得し、衝撃を吸収させることなく敵の首部分を吹き飛ばす。
そしてその貫いた速度のまま着地した地面を削りながら停止。停止した時の反動を利用し脚のバネを壊れるまで縮めて解放。
さながら弾丸のような速度で発射された虚の身体は、その一直線上に居た歪な生命体へと衝突し、お互いに衝突部位が潰れて倒れた。
それでも懲りずに虚へ刃物のような触手を振るってくる生命体に対し、まだ再生途中で骨が繋がっていないグニャグニャの足を絡み付かせ、筋肉が再生する瞬間を利用して、万力のような力で締め付ける。
抜け出せずに、滅多矢鱈に振り回された触手をその身に受けながら、左手の手指の関節を真っ直ぐ固定し、その頭部へと思いっきり差し込む。
腕が入るスペースを無理やり作り出し、もう一本の腕を差し込んで、力いっぱいに左右へと開く。
ミヂミヂ、ギチギチとあまり長く聞いていたくない音を響かせながら腕を差し込まれた生命体の身体が左右へ開いていき、まるで魚の開きのような状態となって動かなくなった。
開きにした敵をそこら辺へ投げ捨て、肩を回しながら残りの七体へターゲットを定める。
「硬いな」
「おかげさまで腕の筋が何本か切れた」
「だが、これで四体目だ」
「あと七体、まだ試したい技があるんだ」
「付き合ってくれ」
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