それが戦いに望むもの
本来駆け寄るまでもない距離をあえて地面を踏みしめて全力で駆る。
一瞬でゼロへとなった距離で放たれるのは虚の足蹴り。
先ほどのお返しということなのか、いつものような力の籠った蹴りではなく、極限まで脱力させた状態の脚を振り回すような蹴り。
余分な力がすべて抜けたその脚は鞭のようにしなり、本物の鞭のような速度を生み出す。
本来の鞭のような細さによる恐ろしき鋭さこそないものの、本物と遜色ない速度で放たれる足蹴りは、そこらの生物に耐えきれるものではなく、人間であれば間違いなく足の骨が折れ、筋肉が断ち切れるだろう。
人によっては足が千切れ落ちるほどの威力を孕んだその技を、歪な生命体は難なく受けきった。
衝撃により飛ばされることもなく、その威力によって体の一部が破壊されるわけでもない。
クリスティーナのような技による受け流しではない。肉体のスペックのみで衝撃と威力を吸収し、無傷を実現している。
一瞬距離を取り、敵の様子を伺う。
痛みを感じている様子はなく、受けたダメージをどこかに移動させているわけでもない。
紛うことのない無傷。
虚の生前の技術、今世の肉体機能をフルに使用した足蹴を受けてノーダメージとなれば、一般の兵士に相手できる存在ではない。
銃などを使用しても決定打になる可能性は著しく低い。
衝撃を吸収され、潰れた弾頭が敵の身体からポロリと落ちるのが関の山だろう。
「だったら」
「私が本気でやるしかあるまい?」
抑え気味だった体質の出力を上げ、この歪な生命体に対しても影響が出そうなレベルまで引き上げる。
それに応じて虚の周囲の地面からは水分が抜けていき、カラカラの荒野を思わせるような硬い地面へと変わっていった。
その様相を見て、腰が抜けた状態で必死に離れようともがいた六華であったが、逃げ切ることが出来ず、脚や腰、下腹部までの部位に一切の力が入らなくなり、そのことへの恐怖で体を無暗に動かしてしまった。
動かなくなっていた下半身が白く変色し、岩のように、灰のようになっていき、サラリと形を保てずに崩壊した。
肉体とのつながりが切れたのか、無意識に肉体がつながりを断ったのか。崩れ去っていく下半身とは異なり、腹筋から上の部位には多少の脱力感があるのみでまだ動かすことが出来ていた。
どういう訳か、体の切断面は塞がっており血液が流れたような様子もない。生きること自体は出来そうである。
しかし今のままではギリギリ生きているだけ。脚が無くなってしまっては逃げることもできず、虚の体質の効果範囲が広がるか、虚自身が少し移動すれば効果範囲へ入ってしまい、即死コースだろう。
腕だけで這って移動しようにも、真後ろには異形の門番のような存在が立っており、少しでもこの空き地から出れば攻撃してくるであろうことが予想できた。
だからいま六華にできることは、虚が死んでしまわない程度に疲弊した状態で勝利することを祈ることだけである。
「隙をついて殺してやる」と隠し切れない怨念を虚へ向けながら虚の勝利を願う。
虚はそんな六華の様子を視界の端でとらえていた。
脚が使い物にならなくなり、動けなくなっているのだろう。自分へ恨めがましい目線を向けながら、どこか勝利を願っているような目をしている。そんな六華の状態を把握し、あとが面倒だと少しの疲労感を携えて目の前の異形へと対峙する。
『肉体攻撃が通じないわけではなさそうだが?』
『効果範囲内にいるはずなのにほとんど変化が無いな』
『やはりほかの奴らとは違う種類の個体なのか?」
「だが外の異形共が崩れるのも私に触れた瞬間だからな」
「実際に蹴りで触れたが、崩れていないぞ」
「ますます分からん」
そんな悩んでいるようなセリフとは逆に、恐ろしいほどに吊り上がった口の端が今の虚の心情を大いに表していた。
こちらに来てから、虚は自分のの攻撃が通用しなかった存在とは出会っておらず、ほとんどの相手は体質が影響する範囲内に侵入した時点で弱体化してしまう為、少々退屈な日々を送っていた。
殺しと暴力の世界で生き延びてきた虚にとって、一方的な殺しにならない戦いは日々の心の疲れを癒す娯楽であり、自分の技を試す場でもあるのだ。
だから、
だから。
「楽しいなぁ!!」
今この瞬間、虚は戦いに身を投じている。
自分を万物から命を吸収する現象から凶器へと変じさせ、その身を暴力に浸すことだけを考える。
周囲への被害など考えず、ただひたすらにこの肉体と身に着けた技術をフルに使った技を繰り出し続ける殺戮人形へと姿を変える。
鞭が利かないのならと、今度は全身に力を籠め、キープ。
複数の相手からの攻撃を全身に受けながら、その力をゆっくりと全身へと巡らせる。
緊張と脱力を全身で繰り返し、ビキビキと体内で恐ろしい音が鳴り響きながら、自身の身体の軸へ熱が溜まっていくのを感じてゆく。
目の前にいる敵へと狙いを集中させ、脚を一歩踏み出す。
硬い地面へ足が突き刺さるほどに込められた力を、踏み込んだ際の重心移動のままに真っ直ぐ拳を突き出す。
その体の再生力と身体能力をすべて活用して圧縮した筋肉は、全身の筋肉が引きちぎれるほどに恐ろしい張力とそれによって発生した熱によって、内へ内へとエネルギーを溜めこむ。
それが突きの動作により、まるで槍のように解き放たれればどうなるのか。
それは、目の前の胴体部分に大穴の空いた、歪だった生命体の姿を見れば一目瞭然であろうに。
この先、星があるぞ
あぁ、星 おそらく星
ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。




