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それが理解するために

 虚たちの周囲に湧いてきた生命体は、先ほどまでに襲ってきていた異形とは異なる姿をしていた。



 生物の面影は欠片も残っておらず、腕や顔、頭部などの区別もなくパーツがごちゃ混ぜに配置されている。

 首に耳が生え、脚にあたるであろう場所に腕がついている。

 頭は下半身にあり、その中で目玉だけが右腕の付け根についており、その目玉の先に足の指が生えている。

 生物としての機能性も何もかもを捨て去ったその外見は、常人であれば見ただけで恐怖によって動けなくなるだろうし、見るものによっては発狂ものだろう。



「気持ち悪い身体だ」

「生物としての美しさの欠片もないな」



 しかし、虚は少し気味悪がっただけで、恐怖など感じておらず、ただ人間に恐怖を与える為だけにごちゃ混ぜな肉体を作ったように感じて、その生物に苛立っていた。



「理にかなっていない肉体は嫌いだ」

「害するために生まれるのならそれに最適な姿で生まれるべきだろう?」

「なぜわざわざ不完全のような体に作り変える必要がある」

「殺しに特化するという目的なのであれば、そこらにいる異形共の方がまだ合理的だったぞ」



 さっさと知性のある異形たちの元へ行きたい虚は、度々の足止めにより少々苛立っていた。本来であれば既に接触した時の場所には到着し、周囲を捜索する予定であったのだが、六華との問答、予想外の物量による視界の不調、そして今回の悍ましい生命体。



 複数の要因が重なったことで予定が狂ってしまった……と虚自身は思っているが、寄り道をしたりすることを決めているのは虚であるため、文句を言える立場に居ないのだが、本人はそれに気づいていない。



「あっ……ヒィッ!……嫌ぁ!!」



 六華はこういった見ることすら憚られるほどの悍ましい生命体を見ることに慣れていないのか、耐えることが出来なかったのか。腰を抜かしてズリズリと後ろに後退り、情けない姿をさらしている。


 本来はこのようになることが普通であり、この生物がこのような姿をしているのは敵対する相手を恐怖に陥れることによって、隙を作り、奇襲するためなのだろう。



「ふむ、まぁ、こんな見た目の奴が出ればな」

「錯乱程度ならするか」

「逆に私はなぜ平静を保っているんだ?」

「もう少し驚くなりアクションがあっても良いように思うが」

「隙を晒さないという点では良いのではないかな」

「そうさな」


「さて」



 虚は恐慌状態になっている六華を無視して目の前の歪な生き物の元へと歩みを進める。


 とにもかくにも戦ってみなければ何もわからない。


 この世界に来てから勉強などしておらず、世界の常識すらまともに理解できていない虚にはこの生命体がどのような存在なのかが目で見て理解できない。この生物が既存の生命体なのか、新種の生命体なのかも分からない。



 だが会話が出来なくとも、戦えば、殺し合うことが出来れば理解は進む。


 どんな攻撃をするのか、何を狙ってくるのか、攻めっ気があるのか、姑息な手を使うのか、この生命体が何を目的として戦うのかまで理解できる。



 それで完全に理解できるわけではない。


 人間や動物、あらゆる生命体は戦う為だけに生まれるわけではない。その体に生まれた理由、生きている理由、人間であれば戦うに至ったワケなど、他に理解しなければいけない部分は多い。



 しかし、いまここで戦いの意志や姿勢を見せている時点でそんなものは飾り以外の何物でもなくなる。


 殺して、殺されて。最後に立っているのがどっちかという結果以外、必要のないものだ。感情はノイズだし、個人のバックボーンなどもってのほか。


 戦場では力と結果以外のすべてのものがオマケへと変わる。



「その非合理的な体で戦えるのか?」

「他人の恐怖の有無に初撃を左右させる時点でお察しではあるが」

「やってみなければ解るまい」



 だから虚は、初めて見る存在へ殺し合いを仕掛けるのだ。


 戦いの中で成長してきた虚には、それしか相手への理解を示す手段がないから。



 発声器官が存在しないのか、一切の声を上げずに虚の元へと一直線で走ってくる歪な生命体の頭部に位置する触手による鞭打ちを避けず、脇腹に攻撃をもろに受ける。


 バチィン!!!と大きな音を立てて、虚の黒い衣服が切り裂かれる。


 当然その下の真っ白な肌へ届いたその攻撃は、虚の表皮を剥がし、内側の筋肉が丸見えになるほどの威力が込められていた。



 本来の鞭の攻撃で与えられる切り傷のようなものではなく、太い触手の面で叩かれたことによって右脇腹の皮膚は大きく剥がれ、下の筋肉も鞭の衝撃によって深く裂かれていた。



 一部の人間以外であれば絶叫し、痛みに悶えながら地面をのた打ち回るであろうその傷を、虚は少し表情を歪める程度のリアクションで耐えきった。


 痛いものは痛いが、今の虚にとってこの程度の怪我は、顔を少し顰める程度のものでしかなく、一瞬感じた壮絶な痛みも即座に消え、怪我を負った部分が即座に再生される。



「触れても死なない、か」

「異形共とは作りが違うのか?」


「それよりも」


「思っていたより攻撃の威力が高くて驚いたな」

「精神にダメージを与え、その隙にさらに大きな隙を作れるようにしているのか?」

「一撃必殺を狙っている線もあるな」



 完全に修復された傷を撫でながら、歪な生命体の生態を分析する。


 こういった攻撃の動作から、何を目的として作られた生命体なのかを理解するのだ。


 そして、あわよくば楽しい戦いになるようにと願いながら虚は動く。



「私の番だ、死んでくれるなよ?」

      この先、星があるぞ     

     あぁ、星  おそらく星   


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