それと戦場ではない戦場
『拍子抜けだ』
戦場の異形と対峙した虚が先ず感じたことは”退屈”だった。
襲ってくる様子は見せるものの、触れた瞬間に塵へと帰ってしまう。
殴り合いも技の出し合いもできず、戦争だというのに戦いの空気を一切感じることが出来ない。
元来殴り合いや喧嘩が好きな虚からすれば退屈以外の何物でもなく、戦場で発された炎が何かを焼く煤けた臭いも戦場のフレーバーではなくただの不快な臭いに成り下がる。
もはややる気など失せていくばかり。
表情を変えぬままにその場で異形の攻撃を棒立ちで受け続ける。
異形が殺到する、異形が塵になる、塵をまき散らしながら再び異形が殺到する、塵になる。
同じことの繰り返し。しかも虚はなにも行動しない。
どんな怠け者であったとしてもこの光景には飽きて別の行動を起こすだろう。
そんなことを思いながらその場で立ち尽くし、ぼぅっと空を見続ける。
こんなつまらない光景よりも空の方が見どころはあるだろう、と。
頭の上にあった光が消えていき、徐々に世界は暗くなる。
暗くなってきた途端に異形たちは行動を止め、動かなくなった。
長時間異形たちを塵へ変えてきた虚の周囲には灰のような塵が積もりに積もって小山になっており、女としては高身長である虚が見上げるほどに積みあがっている。
よくここまで積もったなと笑う一方で、動きを止めたにせよ未だ途切れる様子の無い異形の群れを見てうんざりとする気持ちも湧いてくる。
「私は疲れ知らずだからいいが」
「この数を毎日相手にしていると考えたらここにいる者たちには地獄じゃないか、罰でも受けているのか」
「顔を見る限りは悪人ということもなさそうだが」
「悪人は悪人の顔をしていないというし、実は極悪人だということもありうる」
久々の一人だということもあり、自身との会話にも花が咲く。
外から見ればただの独り言の域をでない虚しき光景である。
そんな独り言をつぶやき続ける女の元へ複数人の足音が近づいてきた。
音が聞こえた瞬間に超速度で後ろへ飛びのき距離を開ける。
その行動を”警戒させてしまった”と判断したのか、寄ってきた人影は両手を上げ、何も持っておらず敵対の意志もないことを体で表す。
「失礼しました。我々は人類連合東部管理局、紛争地域派遣部隊〈掃除屋〉です。敵対する意思はございませんのでご安心を。」
「あなたは軍から送られてきた援軍、という認識でお間違いないでしょうか」
「援軍、まぁ援軍と言われればそうだな」
虚が答えた瞬間、「おぉ……」と、〈掃除屋〉の中から少なくない声が上がる。
代表して話す女の軍人は緊張した面持ちで質問を続ける。
「あなたを、こちらの戦場へ向かうように指示したのは……どなたですか」
「管理総督だ」
その言葉に後ろに控えている軍人たちの声が大きくなっていく。
嘘は言っていない。クリスティーナや〈不死隊〉を貰い受けるための対価、信用の証として戦場に来ることを決めたのだ。
切っ掛けとして管理総督が存在するのだから何も間違っていない。
嘘はついていないと己を正当化し、軍人の女の言葉を待つ。
「あなたは、救世主なのですか……?」
「違う」
「ただ、自分の利益のために戦場に来ただけだ」
「出会って早々に救世主扱いは困る」
兵士たちの表情が固まった。
そもそも救世主が自身を救世主だと言うことは殆どないのだが、絶え間なく続く戦いにより疲弊した心のよりどころを探していた軍人たちにはさぞつらい言葉だっただろう。
彼らは嘘でも「救世主である」と言ってほしかったのだ。
しかしそんなことを気にする虚ではない。
初対面の相手の心情を汲み取って発言などできる訳もないし、そもそも気にしない。
究極どこまで行っても「自分が良ければそれでいい」というスタンスを崩さずに生きているのが虚という生き物なのだから。
「我らを救いに来てくださった訳ではない、と?」
「だからそう言っているだろう」
「あくまで私がここに来たのは管理総督殿との約束の為だ」
そこまで言うと〈掃除屋〉の面々は黙り、当たりには沈黙が満ちた。
「それ以上の用がないなら私はここで失礼する」
「こいつらが動かないうちに周囲を見ておきたいからな」
そのまま異形のいる方向へと向かっていくその女を追っていけるほどの余裕も気力も、勇気さえも残っておらず、〈掃除屋〉は呆然とした心持ちのまま拠点へと戻っていった。
この先、星があるぞ
あぁ、星 おそらく星
ブックマーク、評価の程よろしくお願いいたします。




