それが降りた戦場で
「これ、安全マージンの確保はされてるのか?」
「この体の負荷を考えるにされてなさそうだ」
「明らかに常人を飛ばすような代物ではないからな」
「罪人とか、強者を急遽飛ばすために使用されるものだと推察する」
「帰ったら文句の一つでも言ってやらねばな」
戦場投下用強襲兵装のなかで自問自答を繰り返し、虚が結論として出たのは「証明のために戦場に送る人物に使っていい兵器ではない」ということ。
内部にいる人物の心配など欠片もしておらず、死ななければいい、という理念のもと作成されたと言ってもいい。
それほどに安全性を無視した物だということだ。
それに乗せられて戦場に送られるということは、最悪戦場に着いた瞬間に死んでも良い、と考えられている可能性が高く、甘く見られているということだ。
帰ったら絶対に文句を言う、と心に決めた虚は、このミサイルがもうすぐ着弾するというアラームを聞いて、衝撃に備えて姿勢を整える。
「残り10秒とはな」
「知らせるのが遅すぎはしないか」
文句をいいつつ、姿勢を変え、きっかり10秒後。
虚のいるスペースだけがさらに上空へ撃ちだされ、残ったミサイルが戦場の真ん中へと着弾した。
大爆発を起こして戦場が火に染まる光景をみて、少々スカッとした気持ちになった。
しかしすぐにあの爆発に吞み込まれる可能性があったことを思い出し、顰めた顔をする。
「人をなんだと思ってるんだ」
撃ちだされた虚は、背中にあるバックパックからパラシュートを展開し、速度を下げながら降下する。
落下予測地点にはクッションらしきものがあったが、ミサイルの爆発によって燃え尽き、ただの布切れとなっている。そもそもの設計ミスとしか思えない状況に深い、深いため息を吐いた。
「はぁ」
「軍に到着してからため息が増えた気がするな」
「さて」
パラシュート降下を行った瞬間から自身の身体に度々衝撃が来ている方向へ目線を向ける。
そこにいたのは人、のような形をした軟体生物とも異なる、まさに異形と評することが適切に思えるような形容しがたい生物がいた。
その反対側へ目線を見やると菅原少将や伊那止のような軍服や防具を着ている人間たちが多少の負傷を伴って並んでいた。
事前に伝達を受けていたのか、突然飛んできたミサイルを過剰に気に掛けることなく異形へと攻撃を行っていた。
しかし気になるものは気になるようで戦いの中で余裕がある者がチラチラと虚を見ていた。誰かが送られてくることは分かっていたもののまさか送られてくる人物が、か細い女だとはだれも思っておらず、この戦場で使い物になるとも思っていなかった。
事実、今まさに異形からの攻撃が幾度も体に着弾し、腕は千切れかけ、顔も体も半分以上が焼け焦げてしまっている。
虚の姿を見た誰もが、ミサイルでの攻撃のついでに処刑するために送ってきたのだろうと考え、憐みの目線をボロボロの女へと向けた。
そんな目線を知ってか知らずか、焼け焦げて固まった皮膚を無理やり動かしてパラシュートを外し、焼け野原となっている地面へと降り立った。
足裏が焼け、爆発によって固まった土が皮膚へと突き刺さるが、その痛みをすべて無視して異形へ向かって歩き始める。
身体を動かすたびに焼け焦げていた部分の皮膚は剥げ落ち、その中からキレイな真っ白な肌が現れる。
焼けてボロボロになっていた衣服も皮膚の再生に伴って復元されていき、地面に降り立ってからわずか約5秒で死に体だった女から火傷一つの無い女へと変貌を遂げた。
その光景に思わず軍人たちの目が奪われるが、それによって負傷を負ったものはいなかった。
虚が戦場に現れた瞬間から、異形の攻撃がすべて虚へと集中しているのだ。
虚が攻撃を吸い寄せていることもなく、ただひたすらにその女へ向かって異形が火を放ち、飛び掛かり、貪ろうと口を広げた。
しかし異形が放った火を除いて女へその攻撃が通ることはない。
火炎放射のような火は虚を炎で包み、再生したばかりの衣服や肌を再び焼いていく。
虚であっても焼かれ続ける痛みには耐え難いのか、苦悶の表情を浮かべながらも歩みは止めずに進み続ける。
焼け焦げた虚を獲物だと明確に判断したのか、さらに牙をむき出しにして異形が飛び掛かる。が、その肌に触れようかという瞬間にその体は崩れ落ちる。
クリスティーナや矢岸たち〈不死隊〉よりも圧倒的な速度で崩壊していくその異形たちを見て虚は立ち止まり思案するが、その間にも飛び掛かってきた異形たちがすべて塵へと変わっていく。
戦場に立ち続けてきた軍人たちは、虚を東部管理局からの力強い援軍だと判断。
手も触れずに異形たちを塵へと変えていく様はまさに戦場の救世主にふさわしく―――
「我らの救世主、救世主がいらっしゃったぞォォォォ!!!!」
歓声を上げた。
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