それが向かう
クリスティーナ、〈不死隊〉と別れ、伊那止の案内に従って進む。
道中に伊那止のことを殺すことの無いように細心の注意を払いながら。
「ガレージと言っていたが、乗り物で向かうのだな」
「飛行機かなにかでも使うのか」
「飛行機、とはまた異なりますが、空路を行くことになっております」
この世界に生まれ落ちてから地の上をずっと歩いて進んできているため、見上げるだけだった空を間近に感じられる道になりそうだと、虚は内心でほくそ笑む。
「空か、いいな」
「そうですか?」
「空を間近に感じることに風情は感じないか」
「空では何かを感じるより先に命の危険を感じますかね……」
伊那止の苦笑いに虚は違和感を覚える。
自身との空への認識が異なっているように感じたのだ。
いつも質問を飛ばす面子とは別れて行動しなければならない為、その疑問をそのまま伊那止に問う。
「命の危険というと墜落とかか?」
「いえ、自然具象生命体の存在です」
「えれめんと?」
「ご存じありませんか?」
「知らんな」
「名前から推察はできるが、答えをくれ」
「はい、ではまず―――」
と、伊那止は道すがら説明を始めた。
自然具象生命体とは読んで字のごとく、自然自体が生命体としての形を成したモノ。
しかし、自然が自己的に形にしたものというわけではなく、各地に存在する神話、言い伝え、逸話などが人の意識の内に大まかな形を作り、死した者たちの意識が世界に散らばることで、その形を自然が読み取って生まれた存在。だと言われている。
解剖などして研究が出来ればそれが一番手っ取り早いことではあるのだが、自然具象生命体エレメントはその肉体が機能を失った瞬間に霧散し、小さな自然現象となって世界を巡ってしまう。
風の自然具象生命体であれば、死した瞬間に小さな風となり、水なら水滴に、火は火花となって、土は砂へと帰る。ほかにも分別される種類はいるが、存在としては同じもの。
司る現象に対して影響を与えられるほどの力を持つほどに成長しなければ、基本的に無害な生命体。
「―――。これが自然具象生命体です。ご理解いただけましたか」
「あぁ、分かった」
「要するに上空には空路を邪魔できるほどの自然具象生命体が出現することがあるということか」
「そういうことです。上空や海底など、人の手が及びにくい場所には成長した自然具象生命体が多く発見されますから。っと、そろそろです」
無機質な階段を降り、少々廊下を歩いたところで重厚な金属製の扉があった。
いかにも重要施設と言わんばかりの外観をしている。
廊下や他の扉に使われているのが光沢のない真っ白な素材であるだけに、この扉がズンと設置されていることへの違和感がすさまじい。
「この先か」
「えぇ、この先にあなたを戦場に送るための道具があります」
重厚な扉がギギギ…と鈍い音を立てて扉が開く。
扉が開いた先にあったのは生前のもので表すのであれば、ミサイルだった。
とても人が乗って飛ぶものではない。
「こ、これに乗るのか?」
流石の虚の表情も引き攣り、言葉にも動揺が現れてしまう。
しかしそんな表情の虚に対して当然といったような表情で言葉を返す。
「はい、戦場投下用強襲兵装。こちらに乗って戦場に向かっていただきます」
「これ、死なないか?」
「安全装置はついていますし、投下後にパラシュートとクッションが展開されるので人体への損傷への配慮もできておりますよ」
「いや、発射時の負荷とかは……」
「そちらは西部の技術を応用して軽減されているはずですので問題ないかと」
「……そうか」
虚はあきらめた。
優雅な空の旅かと思えば、景色を見ることすらできない高速移動となってしまったが、やるといったのだからやらねば男が廃る。と己の心を奮い立たせる。
どこまでやっても死なないのかの検証は行えていないが、そう簡単に死ぬ肉体ではないのだ。多少の無理をしても問題ないと割り切ってミサイルへと乗り込む。
乗り込む寸前、整備士らしき人物がかわいそうなものを見るような目を向けていたが、気付かないふりをして乗った。
どちらにしても良くない目に遭うのは確定しているのだから。
「戦場投下用強襲兵装、搭乗者:虚。東部異形戦線:最前線へ向け、発射!!」
伊那止のはきはきした声がミサイルの装甲越しに聞こえ、肉体が圧し潰されそうな負荷を伴って、空へと撃ちだされた。
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