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落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!  作者: ユーリ
2章

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疑惑


僕達はそのまま、生徒指導室まで無言のまま連行された。そして、リータス先生は僕達を部屋に入れてからも、怒鳴ることはなく、ただ腕を組んだまま、鋭い目でこちらを見ているだけだ。そのせいで、しんと静まり返った空気が、痛いほど張り詰めてきて、自然と視線が下がっていく。


(……怒鳴られる方が、まだましだったかも)


一言も口を開かないから、余計に居たたまれない。だからこそ、そんなことを思っていると、先生はひとつ大きくため息をついた。


「⋯⋯とりあえず、連絡するか」


明らかに面倒そうな様子で、それだけを告げて部屋を出ていくと、生徒指導室には僕達だけが残された。けれど、誰もすぐには口を開こうとしない。そんな重たい静寂の中、しばらく続いた後に、バルドがぽつりと呟いた。


「……悪い。俺が余計なことを言ったから、こんなことになって……」


肝試しを言い出したこともそうだけど、森に行きたいと言い出したことや、その場で騒いでしまったこともある。それを気にしているのか、バルドは珍しくしおらしい様子だった。そんな彼に、コンラットが淡々とした口調で返す。


「貴方の言動に振り回されるのは昔からですから、今さらですよ。別に気にしていません」


「何となく、最初からこうなるだろうなとは思ってたからな。それに、賛同したのは俺達だ」


「僕も怖かったけど、みんなと何かするのは嫌じゃないから……」


二人に続くように、僕も落ち込んだ様子のバルドへ声をかけた。


(それに、誘ってもらえない方が嫌だし……)


そんな本音を胸の奥にしまいながら言えば、バルドは少しだけ目を丸くして、どこか感動したような顔をした。けれど、ネアがぽつりと言った一言で、その空気が壊れた。


「今さら思ったんだが、普通に灯りをつけて回っていた時点で、意味がなかったんじゃないか?」


その言葉を聞いた瞬間、部屋の中に一瞬だけ沈黙が落ちた。けれど、それは長く続かなかった。


「そういうことは、もっと早く言えよ!!」


全部の部屋の灯りをつけて回っていたことを、今さらになって指摘され、ようやくその致命的な事実に気付いたバルドが、思わず大きな声を上げる。すると、そのタイミングを見計らったかのように、生徒指導室の扉が開いた。


「……全然、反省していないようだな」


低く落とされたリータス先生の声に、背筋がピンと伸びる。


(⋯⋯タイミングが最悪すぎる)


そう思いながら、思ったよりも速く戻って来たことを嘆いていれば、聞き慣れた声がそれを遮った。


「子供相手に、そこまで怒らなくてもいいだろう。それに、森に近付いた件は、こちらで注意しておく」


「父様!」


リータス先生の後ろから姿を現した父様に、思わず驚きの声を上げる。すると、部屋の入口に立っていた父様が、さっきまでの真顔をふっと和らげ、僕へと視線を向ける。


「リュカ。迎えに来たよ。屋敷に帰ろうか」


その口ぶりから、どうやら学院から連絡を受けて、父様が迎えに来てくれたらしい。それに、後ろにはリータス先生も立っているから、おそらく事情はもう聞いているのだろう。それでも、父様の表情を見る限り、怒っているようには見えなかった。それが少しだけ救いで、その分、逆に申し訳ない気持ちにもなる。


(みんなの時も、僕みたいな対応だといいなぁ……)


ネアの親には会ったことがあるけれど、バルドやコンラットの両親がどんな人なのかは知らない。だからこそ、余計にそんなことを考えてしまった。


「じゃあ……先に帰るね……」


そう言って振り返ると、リータス先生が戻ってきたことや、これから親が迎えに来るという現実に、部屋の中には何とも言えない気まずい空気が流れていた。そのせいで、さっきまで少し和らいでいた空気が、また重たく沈んでいる。


「……あぁ。またな⋯⋯」


「……はい。また明日⋯⋯」


そんな中で声をかけたからか、返ってきたのはどこか歯切れの悪い返事だった。相変わらずネアだけは、平然としていたけれど、みんなに別れを告げた僕は、父様に連れられて、一足先に生徒指導室を後にした。


帰りの馬車の中でも、父様に怒った様子はなかった。けれど、さすがに森に行ったことは怒られると思っていたから、僕はしばらく迷った末に、静かに口を開いた。


「父様……ごめんなさい……」


自然と謝罪の言葉がこぼれると、父様は少しだけ困ったように笑った。


「リュカが怪我をしていないなら、それでいいよ」


その穏やかな声に、胸の奥が少しだけ軽くなる。けれど、父様は続ける。


「でも、魔物がいる森に行ったのはよくなかったね」


「……怒らないの?」


当然の疑問を思わず口にすれば、父様は苦笑を浮かべながら肩をすくめる。


「私も、リュカを怒れるほど品行方正ではなかったからね」


「えっ!」


思わず驚いた声を上げると、その反応が面白かったのか、父様は少しだけ笑みを深くした。


「それに、オルフェの時も何度か学院に呼び出されたことがあるし、これが初めてじゃないんだよ」


「兄様が!?」


あの兄様が問題を起こすなんて、まったく想像がつかない。信じられない気持ちのまま父様を見つめていると、父様は事実を淡々と並べるような口調で言った。


「だから、今回くらいのことなら、可愛いものだよ」


「……そうなんだ」


どこか呆気にとられながらも、その言葉に少しだけ安心する。


(それなら、兄様からもあまり怒られないかな……?)


森には近付くなと、あんなに強く言われていただけに、そんな淡い期待を抱いた。その直後だった。


「でも、エレナから怒られるのは覚悟した方がいいよ」


「……はい」


その一言で、ほんの少し浮かびかけていた安心は、あっさりと消え去った。


そして父様の言う通り、屋敷に着いた途端、僕は母様にしっかりと怒られた。そんな僕の様子を見て、父様と兄様は少し哀れに思ってくれたのか、庇ってくれたけれど、ドミニクが完全に母様側についてしまっていた。


屋敷の中で、ドミニクは母様に次いで発言力が強い。だから二人が味方してくれても、その流れを覆すことはできなかった。結局、どれだけ謝っても許してもらえることはなく、一週間のおやつ禁止を言い渡された。


その罰は、僕にとって決して軽いものではない。でも、もっと重い罰を覚悟していた分、少しだけほっとしたのも事実だった。


翌日。


教室に入ると、ネアは予想通り、何事もなかったかのように平然としていた。コンラットの方も、大きく様子が変わったようには見えない。けれど、一人だけ、明らかに雰囲気が違う人物がいた。


「……おはよう」


「あぁ」


「おはようございます」


僕が挨拶をすると、二人はいつも通り返してくれる。けれど、机に突っ伏しているバルドからは、返事がなかった。


(……怖くて聞けない)


そう思った僕は、まずは二人の様子を確かめることにした。


「二人は、あの後大丈夫だったの?」


「当然だろ」


「まぁ、なんとか……」


堂々としたネアと、どこか歯切れの悪いコンラット。対照的ではあったけれど、とりあえず二人は無事らしい。だからこそ、意を決して問いかける。


「それで⋯⋯バルドは、どうしたの?」


「バルドは、昨日、家族に黙って屋敷を出て来ていたらしくて……かなり怒られたそうです」


「えっ!?何も言ってこなかったの!?」


思わず声を上げると、それに反応するように、バルドがのろのろと顔だけこちらに向けた。


「……たまに遊び疲れて、そのままコンラットの家に泊まっても、何も言われたことがなかったから……今回も大丈夫かと思ったんだ……」


「それは、私の両親がしっかりと向こうに連絡していたからだと思いますよ」


コンラットが当然のことを口にすると、バルドもようやくそこに思い至ったらしく、頭を抱えながら続けた。


「それに、ちょうど親父が帰ってきたばかりでさ……その親父が迎えに来たんだ……」


「なので、グラディウス家の方々と鉢合わせした私の父が、物凄く恐縮していましたね……」


昨日のことを思い出したのか、コンラットも少し気まずそうな顔をする。


「母さんが来るよりは、親父が来た方がまだ良かったんだけどさ……。でも、屋敷に帰ったら、“ただでさえ忙しい親父に手間をかけさせるようなことをするな”って母さんに怒られて……」


そこまで言って、バルドはがっくりと肩を落とした。


「罰として、来月の長期休みが終わるまで、学院以外は外出禁止になったんだ……」


僕よりもずっと重い罰に、思わず同情じみた視線を向けてしまう。すると、口にしたことで、その重さを改めて実感したのか、バルドが突然叫んだ。


「あー!! 長期休みの予定、色々考えてたのに!!」


物凄く悔しそうに机を叩きそうな勢いで叫ぶバルドに、ネアがいつも通り淡々と声をかける。


「一言言っておくだけで、違ったんだろうけどな」


「まぁ、私の屋敷で遊んでいると思っていたのに、“学院の森に侵入しようとしていた”と連絡が来たら、まず驚くでしょうね……」


「それは……驚くね」


コンラットの言葉に、僕は頷きながら答える。でも、バルドの話を聞くと、森に行ったことよりも、父親の仕事を増やした事で怒られているような気がする。そんなことを思いながら、僕はふと、他人事のように話しているネアへと視線を向けた。


「でも、ネアはその時いなかったの?」


「あぁ。俺は運良く、その前に帰っていたからな。巻き込まれずに済んだ」


どこか”助かった”とでも言いたげなネアの様子に、バルドが八つ当たりのように、憤った声を上げる。


「もう! 何であんな所に先生がいたんだよ!?」


「騒ぎ声が聞こえたからじゃないの?」


僕が首を傾げながらそう言うと、コンラットがそれを静かに否定した。


「それにしては、駆け付けるのが速すぎますよ。それに、周囲に人影もありませんでしたし」


「じゃあ、見回りで巡回してたとか?」


僕がそう口にすると、今度はネアがすぐに否定した。


「いや、あの時間は別の場所を巡回しているはずだ」


「何でネアは、そんなこと知ってるの?」


あまりにも自然に返ってきた言葉に、思わず聞き返してしまう。するとネアは、さも当然のように言った。


「忍び込むなら、そういう情報は先に仕入れておくものだ」


「……何を目指してるの?」


思わず本音が漏れたけれど、そんなやり取りを聞いていたバルドが、苛立ったように声を荒げる。


「じゃあ、何であんなところにいたんだよ! 俺達を待ち伏せみたいに見つけに来なければ、怒られずに済んだのに!!」


「さすがに待ち伏せはないと思いますよ⋯⋯。なにせ、私達が学院にいることを知っていたのは、私達の両親を含めたリオ先生くらいですよ。それに、あの時間、あの場所にいたこと自体も、急に決まったことですから」


コンラットが冷静に言葉を返すと、不貞腐れたような声をあげる。


「なら、俺達のことをつけてたんじゃ……」


そこまで言いかけて、バルドはふと口をつぐんだ。そして、何かを思い出したように、ぼそりと呟く。


「……まさか、俺の机に入ってた手紙も、リータス先生じゃないよな……」


「手紙?」


僕が思わず聞き返すと、バルドはしまったという顔をした。


「手紙って……何ですか?」


その様子を不審に思ったのか、コンラットが改めて問いただす。すると、バルドは目を逸らしながら、しどろもどろに答えた。


「い、いや……昨日の朝、学院に来たら、いつも使ってる俺の机の中に手紙が入っててさ……。“夜の学院には、本物の怪談がある”って、そう書いてあったんだよ……」


その言葉を聞いた瞬間、コンラットの声が、一気に鋭くなる。


「何で、それを言わなかったんですか!?」


「だ、だって……言ったら止められそうだったし……」


「止めますよ!!前に、似たようなことがあったのを忘れたんですか!?」


以前にも似たような手紙が入っていたことがあり、そのせいで大変な目にあった。それだけに、ネアの件を持ち出しながら、コンラットが呆れを隠さずにバルドを叱ると、本人もさすがに自覚はあるのか、小さな声で答える。


「いや……面白そうだったから……つい……」


その時、勢いに任せて余計なことを言っただけに、本人も自覚はあるのだろう。バルドはきまり悪そうに視線を落とした。そんな様子に、コンラットは言葉もないといった顔でため息をつく。けれど、そこでネアが淡々と口を開いた。


「今さら、過ぎたことを言っても仕方ない。それで、その手紙はどうしたんだ?」


事実だけを確認するような声音で問われると、バルドは露骨に視線を逸らした。


「……どっかいった」


(……なくしたんだ)


思わず、僕は心の中でそう呟く。だけど、大事な証拠になりそうなものなのに、それをあっさり無くしてしまうあたりが、なんともバルドらしい。でも、その答えに、さすがのネアも少しだけ呆れたようだった。すると、その気まずさを誤魔化すように、バルドが慌てて声を張り上げる。


「で、でも!あの場所にリータス先生がいたってことは、一番怪しいってことだよな!?」


「まぁ、教師なら、夜の見回りのついでに机へ入れることは可能だろうしな」


ネアが淡々とそう言うと、バルドは勢いよくこちらを向いた。


「だ、だろ!?やっぱり、あの先生が犯人だ!リュカも、そう思うよな!?」


急に話を振られて、思わず言葉に詰まる。でも、確かに可能ではある。


(普段から目つきも怖いし、僕には厳しいし……)


そう思い始めると、段々と本当に怪しく思えてくるから不思議だ。


「……そうかも?」


僕が恐る恐るそう答えると、バルドは少し元気を取り戻したように言った。


「ほらな!俺は最初から怪しいと思ってたんだ!」


「まだ犯人と決まったわけでもありませんし……それ、私怨が混ざっていませんか……?」


「混ざってない!!」


決めつけるように話す様子に、コンラットが疑問投げかければ、バルドは力強く否定した。けれど、その様子を見ていると、僕と同じように、少しだけ私怨が混ざっているようにしか見えなかった。

お読み下さりありがとうございます

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