疑惑
僕達はそのまま、生徒指導室まで連行された。先生から怒鳴られはしないものの、何も言わずに無言でいられるのも辛い…。
今は、親や担任のリオ先生に連絡するため、席を外して僕達しかいないが、誰も話そうとする気配がない。
痛いくらいの静寂に包まれているせいか、自然と視線が下がって来る。そんな僕の視界に、伸びてヨレヨレになったネアの裾が見えた。
「ネア…ごめんね…」
「何が?」
「服…僕のせいで伸びちゃったから…。ちゃんと、弁償するね…」
「安物だから気にするな」
そうは言っても、一箇所だけ伸びてよれたその服は、もう着れそうにないよね…。会話が途切れると、再び部屋に沈黙が下りる。下手に喋ったりせいか、さっきよりも何だか気不味い…。そんな空気の中、扉が開く音がした。
「リュカ。迎えに来たよ。屋敷に帰ろうか」
学院から連絡が行って、父様が来てくれたようだった。リータス先生が後ろに見えるから、事情はもう説明済みなんだろう。でも、父様の表情を見る限りだと、怒っているようには見えなかった。
「じゃあ…先に帰るね…」
「はい…」
「ああ…」
「……」
バルドが、さっきから一言も話さないのは気になるけれど、僕はみんなに別れの挨拶をしてから、父様に連れられて、先に部屋を後にした。
「父様…ごめんなさい…」
屋敷に帰る馬車の中でも、父様は怒ったりしなかった。だけど、僕の口からは自然と謝罪の言葉が出た。
「リュカが怪我をしていないのなら、それで良いよ。でも、魔物が出たりするから、森に行ったのは不味かったね」
「怒らないの…?」
「うーん…。私も、リュカを怒れるほど、品行方正じゃなかったからね…。それに、オルフェの時も、何度か学院に呼び出された事もあって、これが始めてではないんだ。それに、今回の事なんて可愛い物だよ」
あの冷静そうな兄様が、問題を起こすなんて考えられないけど、それなら、兄様からも、怒られないかな?
「でも、エレナから怒られるのは、覚悟した方が良いよ」
「はい…」
父様の言う通り覚悟はしていたけれど、屋敷に付くなり、母様からかなり怒られた。そんな僕を、父様と兄様は庇ってくれたけど、ドミニクが母様に味方したせいで、1週間オヤツ禁止になった…。
オヤツ禁止は、確かに嫌だけど、思ったよりも罰が軽くてほっとした。
次の日、教室に行くと、相変わらずネアだけが何時も通りだった。それに引き換え、バルドは机に突っ伏したまま、全く動かないんだけど…生きてるよね…?
「おはよう…。バルドは、どうしたの?」
「おはようございます。バルドは、昨日、家族に黙って屋敷を出て来てたらしくて、かなり怒られたんだそうです。それで、罰として、来月の長期休みが終わるまで学院以外は、外出禁止になったらしいです…」
「えっ!?バルド、何も言って来なかったの!?」
僕の声に、首だけを僕の方に向けたバルドが、弱々しい声で行った。
「たまに遊び疲れて、そのままコンラッドの家に泊まっても、何も言われなかったから、今回も大丈夫かと思ったんだ…」
「私の屋敷にいると思っていたのに、学院の森に侵入しようとしたと連絡が来たら、まず驚くでしょうね…」
「それは…驚くだろうね…」
「あー!長期休みの予定!色々考えていたのに!!」
バルドは、頭を抱えながら物凄く悔しそうに叫んでたけど、自業自得だよね…?。
「それにしても、リータス先生は、何故あの場所にいたんですかね?」
バルドから視線を逸したコンラッドが、不思議そうに呟いた。
「騒ぎ声が聞こえたからじゃないの?」
「それにしては、駆け付けるのが速すぎますよ」
「見回りで、巡回してたとか?」
「あの時間は、別の場所を巡回しているはずだ」
「何で、ネアはそんな事知ってるの?」
「忍び込むのなら、情報は先に仕入れておくものだ」
当然の事みたいに言ってるけど、それは何に対しての心構えなの?ネアは、何処を目指してるの?
「もう!リータス先生が来なかったら、親父に怒られたりする事もなかったのに!!待ち伏せでもしてたみたいに来るなよ!!」
「待ち伏せは、さすがにないんじゃないかな?」
「そもそも肝試しは、昨日、急に決まった物で、リオ先生くらいしか、私達が学院に来る事なんて知りませんよ。それに、森に行ったのは、バルドの思い付きなので、付けてでも来ないと、あのタイミングでは来られないです」
「なら、付けてたんじゃないのか。あの手紙も、リータス先生じゃないよな…」
バルドが、何処か不貞腐れたように言うけど、それはどうなんだろうか…。
「教師なら、夜の見回りの際とかに入れる事は可能だろうな」
「やっぱり、あの先生が犯人だ!リュカも、そう思うよな!」
確かに、犯行が可能で怪しいのは事実だ。それに、目付きが怖いし、性格も悪そう。
そんな事を思っていたら、段々と犯人じゃないかと言う不審感が募った。
「そうかもね!」
それに、僕だけに厳しかったりもしたし、ネアに対しても同じ事をしているのかもしれない!
「それ…私怨混ざってませんか…?」
「「混ざってない(よ)!!」」
珍しく、僕とバルドの意見が一致した。
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