夏といえば
季節も変わり初めた初夏、バルドが僕達に遊びの提案をして来た。
「なぁ?夏らしい遊びしねぇ?」
「夏らしい遊び?何するの?」
「肝試し!」
コンラットでは無いけれど、何だかその言葉だけで、何だか嫌な予感がする…。
「肝試しって、具体的に何をするの?」
「夜の学院に忍び込んで、探検するんだ!」
「それは、ただ怒られるだけじゃないですか!!」
「前みたいに、日中じゃ駄目なの?」
「肝試しは、夜にやるもんだろう!日中にやったって、怖くないじゃん!」
「それもそうだな」
思ってもみない所から、バルドに援護射撃が来た。
「ネア!お前なら、分かってくれると思ってた!」
「でも、先生には許可取っておいた方が良いと思うよ…」
「なら、頼んでみよう!」
みんなで、授業終わりのリオ先生に、許可が貰えないか尋ねてみた。
「うーん。許可して上げたいのですけどね…。寮生にも、厳しい規則を守っていますから、貴方方だけを特別扱いをするというのは…」
何処か困ったように話す先生を見て、僕はこっそり安堵した。普段から、困った事があれば相談するように言われていたから、許可が下りるかと思ったけど、やっぱり許可は貰えなさそうだ。僕としても、その方が断りやすくて助かる。
「でも、皆さんの気持ちが分からない訳ではないです。なので、寮生の門限である、21時までの間でしたら何とか許可しましょう。それと、森などの立ち入り禁止区域へは近寄らないようにして下さいね」
「ありがとうございます!」
嘘でしょ…。許可出たの…。バルドの喜ぶ声と、去って行く先生の背中を見ながら、僕は呆然としていた。
「本当に…やるの…?」
バルドに、本当にやるのか聞けば、満面の顔で振り返った。
「当然!!え?リュカ…もしかして、怖いのか?」
「こ、怖くないし!全然、平気だし!!」
「なら、リュカも参加だな!」
言ってから、素直に断れば良かったと後悔した。でも、みんなに怖がりとは思われたくなかったんだよ…。
「コンラットやネアも来るだろ?」
「最初から、参加メンバーに入っているのでしょ…?」
「当然!!」
「暇だから、行ってもいい」
誰からも反対意見が出ない以上、参加は避けられない。せめて、心の準備をする時間が欲しい。
「何時…やるの…?」
「そんなの、思い立ったら…何だけ?」
「吉日ですか?」
「そうそれ!思い立ったら吉日だ!!だから、今日の夜やるぞ!!」
「えー!!」
せめて、心の準備くらいはさせて欲しい!それに、父様達にも話して許可取らないと行けないのに!
「俺!学院の怪談とかないか、兄貴達からも聞いてくるから、みんなも聞いてきてくれ!じゃあ、夜の19時に校門前集合な!!」
「ちょ、ちょっと待ってよ!」
僕が静止の声を掛けた時には、バルドの背は遠く離れていて、そのまま走って帰ってしまった…。
「コンラッド達は、親の許可とか下りるの…?」
「俺は、問題ない」
「私も、たぶん大丈夫です。リュカは、どうなんですか?」
「僕も、たぶん反対はされないと思う…」
そもそも、父様から反対される事の方が少ない。
学院から帰った僕は、気が進まなかったけど、みんなと肝試しをする事を父様達に話した。
「行ってもいい?」
「行ってもいいけど、怪我とかしないように、気を付けて行くんだよ。それと、危ない所には絶対近付いては駄目だよ」
「帰りも、遅くならないようにしてね?」
両親からは思った通り、特に反対される事もなく、すんなりと許可が貰えた。たまには反対してくれてもいいんだよ…。
「それで、友達から怖い話も聞いてきてって言われたんだけど…学院の怖い話しとか…知ってる?」
「怖い話し?そんな物、学院にあったかな?」
「あったとは思うけど、私は怖い話しは苦手だったから、聞かないようにしてたのよね…」
僕としても、何もない方が助かるんだけどね…。
「兄様は?誰か、怖い体験をしたとか、聞いた事ある?」
「怖い体験…」
「うん。夏の夜の怖い体験」
「夏の…夜の…怖い体験…」
兄様の表情が、何処か青ざめているような気がする。
「えっ…。兄様…何かあるの…?」
「ない!何もない!だが、森には絶対近付くな!」
「僕達は立ち入り禁止だから、森には行かないよ…」
「それならば良い」
その後、何も言って来なかったけど、その方が逆に怖いんだけど…。
学院に付くと、校門の前には、みんなが集まっていた。
「リュカで最後だな!俺は、兄貴に怖い話を聞いて来たけど、みんなは?」
「私の方も一応…」
「俺は、特になかったな」
「僕の方は、特になかったけど…兄様は森に近付くなって言ってたよ…?」
「森ですか?まあ、リオ先生からも言われているので、近付く事はないと思いますが、何かあるんですかね?」
「分かんない…」
「時間も限られている。始めるなら速い方がいい」
「そうだな!行くか!!」
バルドを先頭に、僕達は夜の学院へと入って行った。
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