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落ちこぼれの貴族、現地の人達を味方に付けて頑張ります!  作者: ユーリ
7章

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王女来訪の余波


思いがけないことはあったけれど、僕はいつも通り学院へ来ていた。だけど、しばらく経った今も、なぜか僕は教室へ辿り着けず、廊下の真ん中で立ち往生していた。


「いったい、どんな話をしたんだ?」


「王女って本当に可愛いのか?」


「屋敷の中では何して過ごしてるんだ!?」


「そんなに一度に聞かれても……!」


次から次へと、男女問わず人が集まってくる。気付けば僕を中心に人垣ができ、その輪はじわじわと広がっていた。しかも、その中には普段ほとんど話したことのない人達まで混ざっている。それに、質問は途切れずに、右から左から飛んできて、誰の声を拾えばいいのかも分からない。


「そんなことより、その王女はお好みのお顔でしたか?」


「性格は?穏やかな方ですか?それとも活発な方でしたか?」


「どちらが好みでしたか、参考までに聞かせてくださいませ!」


「どっちって言われても……!」


質問の向きが、明らかに王女本人ではなく別の方へ向いている気がする。けれど、その勢いに押されるように、じりじりと距離を詰められ、気付けば壁際まで追い込まれていた。


(……これ、どうやって抜ければいいんだろう)


教室へ向かうだけの廊下が、今日は妙に遠く感じる。そう思っていると、人混みの向こうから聞き慣れた声が飛んできた。


「そんな所で何してんだ。そろそろ鐘鳴るぞ」


聞き慣れた声が、人混みの向こうから飛んできた。その声に、僕は勢いよく顔を上げる。すると視線の先には、腕を組んだバルドと、面倒そうに目を細めるネア。そして苦笑を浮かべたコンラットの姿があった。


(助かった……!)


そう思ったのも束の間、僕が声を掛けるより先に、囲んでいた一人が不満げに口を開く。


「まだ早いだろ」


「リュカに用事があるんだよ」


バルドがあっさりと言い返した瞬間、僕の周囲にいた人達が一斉に騒ぎ始めた。


「お前らはいつも一緒にいるんだから、少しくらい後でもいいだろ!」


「そうだそうだ!」


「俺達は次、いつ話せるか分からないんだぞ!」


口々に不満が飛ぶ。そして、最後の言葉では、なぜか妙な連帯感まで生まれたように、皆が一斉に頷いていた。けれど、バルドも一歩も引かない。


「それにしたって、いきなり囲みすぎだろ。リュカだって、完全に困ってるじゃねぇか」


そう言って、ぐるりと周囲を見回せば、何人かが気まずそうに目を逸らした。どうやら多少の自覚はあったらしい。すると、隣にいたネアが静かに口を開く。


「……あまり度が過ぎると、次の機会すらなくなるぞ」


それだけで空気が変わる。さらに、コンラットが穏やかな笑みのまま続けた。


「えぇ。どこで誰が見ているか分かりませんからね」


その言葉が落ちた瞬間、周囲の人達が一斉に辺りを見回し始めた。そして、誰もいない場所にまで視線を走らせ、急に落ち着かなくなったようにざわつき出す。


(えっ……? どうしたの……?)


僕だけが事情を飲み込めないまま戸惑う。けれど、それでも人垣はじわじわと割れていき、やがて僕の前に一本の道ができた。


「リュカ。行くぞ」


「う、うん!」


未練たっぷりの視線を浴びながら、その隙間を抜け、三人の所まで辿り着いた時には、心の底からほっとしていた。そして、そのまま四人で廊下を歩き出し、人混みから十分離れたところで、僕はバルドへと尋ねた。


「それで、用ってなに?」


「特に用はない!」


「え?」


「あれは、リュカをあの場所から連れ出すための嘘だったからな!」


少し振り返りながら、バルドが得意げに胸を張る。すると、横から淡々とした声が飛んだ。


「お前も嘘つけたんだな」


「俺だって、あれくらいの嘘なら付けるぞ!」


嘘が付けない性格なのは自分でも分かっているけれど、からかい半分で言われれば、バルドはむきになって、ネアへと言い返していた。そのやり取りに、思わず苦笑がこぼしていれば、今度は僕へ顔を向けて言った。


「だけど、リュカがいつもの時間になっても来ないからって、みんなで迎えに来て正解だったな。俺一人だったら、連れ出せなかったかもしれない」


そう言いながら、バルドはネア達へと視線を向ける。どうやら、主に二人の言葉が効いたことは分かっているらしい。すると、ネアが呆れたように口を開いた。


「お前は馬鹿正直なんだよ。学院時代に多くのコネを作りたい奴等が、簡単に引くわけないだろ」


「仕方ないだろ。咄嗟に浮かんだのが、あれだったんだから」


「まぁ、将来の就職先にも関わってきますからね。本来なら私も向こう側の立場なので、気持ちは分からなくもありません。それに、格好の話題でもありましたからね」


「たしかにな」


二人がそう言えば、バルドも納得したように頷いた。僕だって、言っていることは分かる。けれど、当事者からすれば、素直に受け入れられるものでもない。


「でも、あんなに急に来られても困るよ……」


思わず疲れた声が漏れる。すると、バルドが苦笑した。


「まぁ、今日は普段さりげなく妨害してる奴がいなかったから、リュカに話しかけやすかったんだろうな」


「えっ?そんな人達いたっけ?」


僕が疑問の声を上げれば、三人から驚いたような視線が返ってきた。


「いや、いただろ?俺達は妨害されたことないけど、教室にいる時以外は、掃除とか備品点検してる振りして、リュカに近付けないようにしてた奴」


「あの教師の事件があってから、学院内での警備も上がってたからな。⋯⋯とはいえ、それが交流関係にまで及ぶとは思わなかったが」


「バルドは置いておくにしても、重要な役職に就いている家ですし、あんなことがあれば、それぐらいの対応が普通かと思っていました」


「えっ?何で俺は除外なんだ?」


さりげなく置いていかれたバルドが、当然のように抗議する。すると、コンラットは微笑んだまま即答した。


「バルドだからですよ」


「それ……説明になってなくないか……?」


「いや、これ以上の説明はないだろ」


「……うん」


僕としても、その一言で全てを物語っている気がした。けれど、当の本人だけは納得できていないらしい。そんなバルドへ、ネアが容赦なく言い放つ。


「そもそもお前、護衛付いてたら絶対撒くだろ」


「そりゃあ……撒くな」


一瞬の迷いもなく頷くバルドに、僕達は揃ってため息をついた。


(もし、バルドに護衛がいたら……護衛は大変そうだな)


その場の勢いで動くことも多いし、コンラットが止めてくれなければ、付いていくだけでも一苦労だ。そう考えると、護衛役の人の苦労が容易に想像できてしまう。そんなことを思っていると、コンラットが話を戻した。


「何にしても、その方達がいなかったから、あの方達もリュカに話しかけてきたのでしょうね」


「それにしたって、いきなり過ぎるけどな」


「それだけ、この機会を逃せば後はないと思ったんだろ。そういうお前は聞かれなかったのか?」


当然聞かれたんだろという態度でネアにそう問われると、バルドは軽く頷いた。


「もちろん来る時とか聞かれたぞ。だけど、王女達が来たせいで親父や兄さんの帰りが遅かったうえ、朝も早く出てったから、ろくに会話できなくて不満だったって答えてたら、それ以上は何も聞かれなくなったな?」


「……何も知らないと思われたんでしょうね」


本人は不思議そうにしているが、コンラットがぼそりと本質を突く。


(でも、バルドは普段からそういうことに興味ないしな……)


そう思われても仕方ない気もした。すると、この話題は不毛だと思ったのか、コンラットが再び僕へと視線を向ける。


「歓迎のパレードなどはされるんですか?」


他国の要人が来た際には、歓迎の意味を込めて行われることがある。だからこそ、今回も近いうちにあるのかと聞かれ、僕は首を横に振った。


「するみたいだけど、警備の兼ね合いもあって、最初の予定通りの日付でやるみたい」


「まぁ、何かあったら大変だし、急にはできないもんな」


家族が警備を担っているからか、バルドは実感のこもった声で頷いた。けれど、それ以上は気にしても仕方ないと思ったのか、すぐに別の話題へと切り替える。


「それなら、あの王女達は今、リュカの屋敷で何してるんだ?」


一度顔を合わせていることもあってか、バルドも少し興味があるらしい。


「朝の涼しいうちに、母様と庭の手入れとかしてたみたいだけど、その後は挨拶回りで城に行くって言ってたよ」


「それなら目立つだろうし、親父達も大変だな⋯⋯」


そう言って、バルドが少しだけ声を落とした。


王都中の注目が集まる中、ルークス王家の紋章入りの馬車が通れば、見物人は確実に増える。そうなれば、その分だけ警備の負担も跳ね上がるはずだ。バルドはそれを危惧しているようだったけれど、僕は小さく首を振った。


「でも、兄様がレオン殿下の補佐で城へ行く予定だったから、うちの馬車で一緒に行くみたいだったよ」


「そうなのか?それなら、そこまで目立たないし、親父達も、まだ楽そうだな」


父様は普段から城へ通っているし、最近は兄様も出入りすることが増えている。そのため、うちの馬車を使うと聞いて、バルドは安心したように笑った。


(でも……心配なのは別のことなんだよね)


兄様はいつも通り平然としていた。けれど、昨日の一件があったからか、王女の方には少し気まずさが残っているように見えた。だから、母様と話していた時の柔らかな笑みはなく、今朝も兄様の前では王族らしい固い表情を浮かべていた。


(二人だけで、大丈夫だったかな……)


そんな不安が胸をよぎり、僕の視線は自然と城のある方へ向いていた。

お読み下さりありがとうございます

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