第6話 希望と絶望
真っ暗な洞窟へとコノハ達は足を踏み入れた。
魔力を温存するためにも明かりはアランが持つ松明の光だけが頼りだ。
道が安定せず、足に砂利が絡みついてくる。
仲間の息遣いだけがやけに大きく聞こえた。
道幅はさほど広くない。
五人が並んで歩けるくらいの道幅だ。
長い列をなして前に進んでいく。
洞窟に関して、領主からは何も言われていなかったが随分と長い洞窟みたいだ。
「なあ、外よりずいぶんと暖かくないか?」
仲間の誰かが声を上げた。
冬を終えたからと言って、山に囲まれたこの村は季節的にはまだ肌寒い気候だ。
それにしては暖かすぎる。
歩くスピードが次第に落ちていき、ボロボロの服が汗を吸い込んでいく。
額や腕にじんわりと汗が滲む。
「洞窟の中っていうのはもっと、ひんやりしてて、コケとかが生え……」
アランと共に先頭を歩いて口を開いていたものが、言葉を止めた。
アランの松明の明かり以外何も見えない、列の中央、コノハのいる場所では、前を歩く者に何があったのか分からなかった……。
「嘘……だろ……?」
ただその声だけが洞窟の中で反響して響き渡る。
「うあぁぁぁぁあああ」
前から後ろに圧力がかかる。
誰かが列を逆走しようとしている。
前を歩く人の体重がかかって後ろは崩れそうだ。
危うくコノハは後ろの人の足を踏んでしまいそうになる。
「おい、前のヤツ何やってんだよ……」
後ろの方からザワザワと不満の声が漏れる。
それをお構い無しに、無理やり後ろに進もうとする者。
列中央のコノハ達は前進と行進に挟まれ、もうどうすればいいのか分からなかった。
「みんな落ち着いて!!!」
コノハがそう声を上げた。
確かに大きな声を出した。
しかしそれは誰の耳にも届かなかった。
「ヴォア゛ア゛ア゛ア゛ア゛」
地響きにも似た咆哮がコノハの声と同時に発せられ、その場にいた全ての人の耳をつんざいた。コノハはその衝撃に耳を塞いでしゃがんでしまいそうになる。
洞窟の天井からガサガサと小石と砂が振り落ちてくる。
聞いたこともないような音だった。
「前だぁぁぁぁぁあ!!!!前に走れぇーーーーー!!!みんな、前に走れ!!!!」
衝撃に負け、しゃがんでしまった者もいた。
既に自分が置かれた状況を察し、後ろに走り出しそうになる。
でもコノハは親友の声を聞き逃さなかった。
魔獣の咆哮より小さな叫びだったが、親友の声に乗った感情がコノハには届いていた。
「みんな!!前に進んで!!!この洞窟は後ろは危険だ!!!」
ひとまず聞こえるものにだけコノハは声をかける。
今までに出したことのないほど大きな声で。
それを合図にしたかのように、多くの人が洞窟の前に向かって走り出す。
赤い明かりが前に見える。
コノハは必死に走った。
重く、回りの悪い足を持ち上げて、がむしゃらに洞窟を駆け抜けた。
「コノハァーーーーー!!!」
明かりの方でアランが手を伸ばし、コノハを呼んでいる。
この細い道を抜ければ、洞窟も開けたところに繋がっているみたいだ。
走った。
足を回した。
息が上がった。
止まりたかった。
止まれなかった。
親友の声が、顔が、そうするべきではないと叫んでいる。
ユルの姿も見えた。
仲間を危険じゃないところに案内してる。
「アランッ!!!」
コノハは親友に手を伸ばした。
人生で一番の全力疾走をしたコノハの足はもう縺れてしまいそうだ。
それでも、あと少し、あと少し。
親友のもとに手を伸ばした。
手が触れた。
そこは大きな大きな空間だった。
領主の屋敷が二つくらい入ってしまうかもしれない。
それほど大きな洞窟だった。
本当に何も無い、ただ岩に囲われた空間。
その奥に押し込まれるような形で、ソレは存在していた。
右脚を振り上げ、今コノハが通ってきた道を見つめている。
次の瞬間だった……。
その右脚が大きな曲線を描き、振り落とされた。
岩を打ち砕き、壁を大きく抉り、目標を破壊する。
まだ多くの仲間が前に向かって走っていた洞窟内の狭い道は、それの一撃によって破壊された。
右脚の爪に仲間が一人刺さっている。
それはまるで人形を扱うようなさまだった。
多くの仲間が、その右脚の一撃で命を落とした。
20人ほどだろうか。
こちらにたどり着けた者たちも、呆然とそれを眺めることしか出来なかった。
仲間の死が信じられなかった。
「嘘だろ……?出口が……」
無意識に足が震えた。
命の危機を察した。
そこにいたのは、到底戦闘の素人が太刀打ちできるような魔獣じゃなかった。
「魔獣ランクS指定の……キメラ?」
その姿を誰もが知っていた。
幼い頃よく読んだ物語で、度々登場しては人々を恐怖させていた、王国指定の猛獣だ。
それが今、目の前に存在している。
窮屈そうに、洞窟の端でこちらを見ている。
領主の情報は??
嘘だったのか?
コノハの中で疑問が浮かぶ。
頼まれたからここに来た。
未来を信じたから決心した。
嘘なのか……?
考えているとバチりと一つの頭と目が合う。
今はそれどころじゃなかった。
コノハは周りを見渡した。
キメラの二つの頭がこちら側に出ている。
幸い、もう一つは何かが両サイドの壁に引っかかり、出てこれないみたいだ。
「標的は状況を理解出来ていない!今のうちに攻撃を仕掛ける!!!」
アランの声が響く。
もう既に30名ほどしか仲間は残っていない。
まだ戦ってすらいないのに……。
だが、やるしかなかった。
やると決めたからには立ち向かうしかなかった。
「剣を抜けーーーー!!!攻めるぞぉ!!!!」
仲間が一斉に武器を抜く。
キメラの体から炎が上がっている。
洞窟内が異様なほど暖かかったのはこの熱のせいだった。
近づいた今、その熱は凄まじい。
息をすることすらつらい。喉が焼けただれてしまいそうだった。
コノハも仲間に続き足に力を入れる。
震えはまったく止まらない。
恐い、恐い、恐い、恐い。
「ぉぉぉおおおお!!!!!」
それでも進む。
これが希望だ。
この魔獣が希望だ。
右足に力を入れて踏み出す。
一歩ずつキメラとの距離を詰めていった。
前方ではアランとユルが小さな魔法陣の展開を始める。
一般的な人とは違い、小さな魔法しか発動できないが、足元に出現した緑の魔方陣が二人の足を力強く押し上げる。その力をバネに舞うように飛び上がった二人は、キメラの頭上まで到達し、そこで重力に負ける。
落下する勢いにのせて二人は新たな加速魔法を展開した。
魔法は弱い。魔力が少ないから。
でも展開が早い。
強い。
その魔法展開までのプロセスと体と魔法の融合は目を見張るほど美しい。
ユルの体が宙で回転し、右と左、交互に双剣がキメラの体を撫でていく。
アランの剣がキメラの頭の中央に突き刺さる。頭を振り、それに抵抗するキメラから剣を抜き、キメラから地面に飛び降りる。
敵の体を剣で切りつけながら。
そして右目を潰した。
再びキメラは咆哮した。
それは先ほどのとは違い、痛みを表す苦痛の咆哮。
「すごい……。やっぱり強いや」
コノハからキメラまでまだ100メートルほど距離がある。
コノハの足の速さでは、敵に到達するまでにも時間がかかる。
そこに向かって走り、たどり着く前にキメラの動きが弱まっていく。
自分の妹と親友の活躍がコノハには誇らしかった。
自分が魔法を使えない、役立たずであったとしても、その功績をこの目で見られたのだから、大満足だった。
恐怖に負け、二人に任せたまま家で待っていなくてよかったと、コノハは思った。
「いける……」
そう思ったのはコノハだけでなく、きっとそこに同行していた仲間もだろう。
魔獣ランクS指定のキメラでも二人がいれば勝てる。
そしてその功績で散々な目に遭わせてきた領主を、罵ってやる。
たった数十秒の間に攻撃を仕掛けた二人の強さで、コノハは確信していた。
早く二人のそばに行きたい……。
コノハ、そして仲間の敵は眼前のキメラであるはずなのに、その目はユルとアランだけをとらえていた。
左側から、その脚が近づいているのも知らず。
視界にキメラの右脚が右目に映った時には既に遅かった。
鋭く尖った爪がコノハの脛を抉り、痛みか熱さかわからない感覚が一瞬にしてコノハの全身に駆け巡る。
「グハッァ!!!!」
その衝撃で体ごと右に吹き飛ばされたコノハは、地面に頭を強く打ち付けてしまった。
再びコノハ達を襲った右脚の一撃によって、近くにいた仲間がまたキメラの爪に突き刺さった。
今度はコノハの隣に並んでいた仲間、3人を。
頭を強く打ち付けられたせいで歪む視界の中、一歩遅ければ自分もあれで串刺しにされていたのかと思うと身が震え上がる。
倒れている地面に自分の血が広がっていき、不思議な感覚がした。
「兄さん!!!」
少し遠くでユルの声がした。
見なくてもわかる。
きっとコノハのことを心配そうに見つめているはず。
敵に剣を切りつけながらも、コノハが立ち上がらなければ、その意識はこちらに向けられたまま……。
その声に力が入り、視界の歪みが徐々になくなっっていく。
「まだだ……」
キメラまでの距離は十数メートル。
やっと二人の近くに来れた。
二人に気後れさせたくない。
何もしないまま終わりたくない。
「ふざけんな!!!このヤローッ!!!!!」
その一心でコノハはもう1度立ち上がった。
深く肉の削らた足からは血が止まらない。
頭の至る所も切れて、血が流れている。
それでも走る。
その目に、再びユルとアランの姿が飛び込んでくる。
二人が頑張っているのだから、コノハが先に死ぬわけにはいかない。
さっきより10キロくらい重く感じるさびた剣を持ち、敵を目指して走る。
感覚が麻痺する。
血が吹き出しているのに痛くない。体を強く打ち付けたのに、走れる。
一歩、一歩。キメラにコノハの体が近づいている。
「ウォォォォォオオオオオ!!!」
コノハが地面を蹴り、剣を振り落とすために飛び上がった。
体はヘロヘロで、まったく宙に浮いていないが、それがコノハの全力だった。
負けないための一撃だった。
コノハの吹き飛ばし、仲間を殺したその右脚に剣がぶち当たる。
───カキン。
音を立て、剣はその脚に当たった。
確かに、当たった。
しかし剣は、その分厚く硬い皮膚に弾かれ、傷もつかなかった。
反動でコノハの手から離れ、後方へ飛んでいってしまった武器。
「……え?」
武器はもう、腰についている果物を切る用の小さなナイフしかない。
それで攻撃ができるはずがない。
ふと視線を感じ、はっと頭をあげみる。
二つの頭がコノハを見つめていた。
「やっ……」
剣を振り落とした右脚にコノハの体は蹴りあげられた。
体がグニャりとまがり、骨が折れる音がハッキリと自分の耳に届く。
「ゥゴォッハッ」
口から血が飛び出る。
息がまったく吸えなかった。
宙に浮くコノハをキメラの頭の一つが、口でキャッチする。
その牙がコノハの足に突き刺さる。
「グァァァァーー!!!!」
目がチカチカした。
意識が飛びそうになる。
なくなっていた感覚が再びコノハを襲う。それは壮絶なものだった。
喰われる……。
コノハは本能的にそう思った。
その胃袋に自分が流れていく様が想像出来た。
恐怖で穴という穴から色々なものが噴き出してくる。
恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い恐い。恐い。
死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。死にたくない。
コノハの目からは涙が溢れだして止まらない。
唇が震え、その隙間からブツブツと声が漏れている。
「だすげてぇぇ……」
キメラの頭が大きく揺れた。
コノハが最悪な覚悟をした時、足に刺さっていた牙が抜け、コノハは遠くへと投げ捨てられた。
衝撃で体が弾み、絶え間ない痛みがさらに強くなったが、コノハは死んでいなかった。
投げ捨てられ、地面に落ちた。
そのコノハを守ったクッション。
コノハが落とされたのは仲間たちの死体が重ねられた山の上。
仲間の死体がクッションとなり、落下の衝撃が緩和された。
「わ……ぁ、あ……」
白目を剥いている。
恐怖に怯えたまま、仲間は息絶えていた。
腕をなくしたものもいれば、脇腹が大きくえぐれている者もいる。
その山の上で、コノハはまだ生きていた。
仲間の死体の上で、息をしていた。
「は……ぁ、あ、あ」
仲間が羨ましそうに自分を見ているように錯覚した。生きていることがこんなに罪深いことだと知ったのはこれが初めてだった。
裂けた脛が誰かの頭に当たってひどく痛んだ。
キメラから発せられる熱がさらにヒートアップして、洞窟の中は凄まじい暑さだった。
この時ようやく、コノハは自分が課せられた試練の重みを知った。
死体の山の上で、自然と視線がアランとユルの方へ向く。
ふたりの息が上がり、もう魔力もそこをつきそうにみえる。
体中の至る所に傷を作っている。
そして二人とともに戦っている仲間はもう6名程度人しか残っていなかった。
戦力となっているのは合わせて8人。
しかしキメラは、未だ目の前で怒り狂っている。
もう勝ち目などどこにもなかった。
どうして勝てると思ったのか、コノハは自分でも笑ってしまいそうになった。
幾らかの攻撃で、なぜ勝利を信じられたのか、自分の浅はかさに失笑してしまう。
体の一部が岩に引っかかり、三つ目の頭を見せられなくとも、命を易易と消していく。
それが魔獣だ。人間の敵だ。
コノハが甘かった。
コノハが決断をあやまった。
英雄になることなどを、夢見ていた。
なんとか、息をしていたコノハも、もうすっかり諦めてしまっていた。
仲間を追いかけ、自分も逝ってしまおうと、近づく終焉のそばで目を閉じた。
「兄さん?」
何分目をつぶっていたのだろうか。
何分意識を失っていたんだろうか。
かろうじて息をしていたコノハの意識を戻したのは、息を切らし体の至るところに傷を作った妹だった。
コノハの肩を必死に揺らし、この世につなぎ止める。
「ユ……ル?」
「兄さん、しっかりして!あと少しだから!」
あと少し、この状況があと少しで好転するとはとてもじゃないが、思えなかった。
コノハが意識を失っている間に、もう仲間はユルとアランを含めて5人ほどしか残っていなかった。
「終わ……ろう?やっと、僕たちは母さんのところに……」
「やめて!!そんな事言わないで……」
息があがっている。
苦しそうに胸を上下させて、ユルは必死に命にすがりついていた。
血でぐしゃぐしゃになって、泥で塗れて、それでも小さなその手で剣を握り、立ち向かっていた。
あがいていた。
「約束したじゃない?二人でこんな人生かえてみせよう、って……兄さんは……忘れちゃったの??」
「変えられないよ……もう、ダメなんだ」
「ダメなんかじゃない!いつだって兄さんは前向きだったじゃない?どんなに苦しんで泣いても、前を向いてきたじゃない!私のために……頑張っくれたじゃない……。まだ、生きてる。まだ、負けてない」
負けて……ない?
仲間はもうほとんどいない。
ユルもアランも、もうすっかり消耗してしまっている。
それでもまだ、頑張るのか?
また、苦しまなきゃいけないのか……?
「僕は……もう、疲れたよ。何で僕なんかが……生まれて、来たんだろうな……」
「……兄さんは、すごい人だよ。私の生きる糧だよ。あなたの前向きな背中に、いつも憧れてた。諦めない姿に、いつも勇気をもらっていた。アランくんもそうだよ。兄さんに憧れてる。だから、頑張ってる……。私達、あなたと生きたいから、必死に頑張ってるの!!!」
ユルの目から涙が零れる。
鳥肌がたった。
コノハは自分がなぜ、勝利を確信したのかを思い出した。
なぜ怪我をしても、立ち上がったのかを思い出した。
ユルもアランもまだ、生きている。
「ぐっ……」
体が鉛のように重かった。
痛みを通り越し、既に意識が朦朧とする中、コノハは仲間の死体を踏みつけて立ち上がった。
二人のそばにいたかった。
運命を変えたかった。
「うん。ありがとう。兄さんは……いつまでも私のヒーローでいてね」
ユルの肩を借り、もう1度歩き出す。
戦力には絶対にならなかった。
それでも敵の前に立つ。
もう、足の震えはなかった。
ユルがコノハの剣を拾い、あのさびた剣をもう1度握りしめた。
その刃先を、今度は切りつけるのではなく、真下に突き刺す。
キメラの右脚に、力いっぱい、突き刺す。
ユルがコノハをだき抱えて、その場から立ち退く。
キメラが声を上げた。
それが今日はじめのコノハが与えたダメージだった。
「やったよ、ユル……はじめて。僕……」
ユルがその言葉を聞いて優しく微笑む。
それでも動きは止められない。止まればすぐに狙われてしまうから。
右でアランが戦っているのが見える。
剣で攻撃を避け、魔法の攻撃を仕掛ける。
「アラン……」
そちらへユルが方向転換する。
共闘した方が、効率がいいみたいだ。
切れかかった魔力で、小さな魔法陣を展開し続ける。
「アラン!」
コノハの声に、アランが反応した。
ようやく、そばに来れた。目の前で敵は生き生きとしているが、それでも少しだけ、コノハは嬉しかった。
戦いが始まってはじめて、目が合った。
だからコノハとユルには見えていた。
アランの身に、二つの頭が同時にお襲いかかるのを……。
「アラン!!!!!!危ない!!!!!」
手が伸びた。
届かないと分かっていても、守りたかった。
いつもそばで、コノハを励まし、支えてくれた親友を。
自分の命に変えても、守りたかった。
瞬間。
目を背けてしまうほどの激しい閃光が洞窟内を襲い、コノハの視界は奪われた。
眼球が焼けたように痛かった。
コノハは恐怖で頭がおかしくなりそうだった。目がひどくいたんで、開いていられなかった。
アランは、どうなった。
ユルは、どこにいる???
敵の目の前で、意識はあるのに前が見えない。
死体の周りをさまよい歩き、手探りにユルを探した。
誰の声も気配もしない。
数分後、コノハが再び視力を取り戻し、目を開いた時。
さっきまで転がっていたはずの無数の死体も、かろうじて立ち向かっていたはずの数人の仲間も、ユルも、そしてアランも、忽然と姿を消していた。
そこでは、先程まで暴れ周り、仲間を食い殺したキメラが、コノハの前で跪き、跪き頭頭をたれていた。
戦いは跡形もなく、なくなっていた。




