第5話 決行
決行までの一週間はあっという間に過ぎていった。
アランに話を通し、村の人達に声をかけて回るだけでとんでもない時間がかかった。
コノハたちの暮らす村は隣接する街、バグノリアとほぼ同じ面積を誇る。バグノリアはローザ王国の第3の首都と言えるほど栄えており、成人してそこで働き口を探す村人も少なくない。
しかし、大きな面積を誇る村であっても村人の人口はバグノリアの4分の1にも満たない。
広大な面積の中、点在する家々を徒歩で回り、事情を説明するだけの事で三日ほど費やしてしまった。
きっと魔法が使えれば、もっと効率よく家を回れたのかもしれないがらそれを選ぶことは出来ない。
ユルと手分けしたものの命をかけた任務に賛同してくれる人が多くいるわけがなかった。
集まった村人はコノハたち屋敷の使者を含め50名程度。
魔獣の種類やレベル、系統がわからない以上、安心できる保証はない。
コノハとユルはぎりぎり残った三日間で猛特訓。
もともと鍛えていたユルとは違い、貧弱で体力も筋力もないコノハがこの討伐作戦に参戦することは無謀以外の何者でもなかったが、彼はさすがに仲間だけを危険な目に遭わせる訳には行かなかった。
「もしかしたら死ぬかもしれない」
村の外れ。
領主の屋敷の前で集まり、そこから2時間ほど歩いた。
コノハ的にはそこにたどり着くだけで、かなりの労働だったが、この状況で下を向くわけにはいかなかった。
ゴツゴツと岩肌がむき出しになり、険しい傾斜が眼前に構えている。
その奥に、ポッカリと穴の空いた大きな洞窟。
魔獣の目撃情報はその中だった。
準備のために洞窟の入口前で一度荷物を下ろすことになった。
その場から洞窟の中は見ることが出来ず、ただそこに広がる闇が、コノハたちの恐怖をより一層掻き立てた。
「本当にな。魔獣が何なのかわからない以上、俺たちみたいな弱小チームじゃ全員死ぬかもな」
「さすがにまだ、死にたくなかったな」
「でも貧しいままでも嫌だよな」
「だよな」
コノハは錆び付いた1本の剣を引き抜いた。
だいぶ古いもので剣身がところどころかけ、柄の部分に巻きついている色鮮やかだったであろう滑り止めも、今では剥がれ色落ちし、ないも同然だ。
みんな似たようなものばかり。
武器を新調してるお金もなければ、準備期間もなかった。
切れ味はとてもじゃないが、良さそうには見えなかった。
「おまえが剣を振るう日が来るなんてな」
「僕も思ってなかったよ」
コノハもアランも、向き合うことなく、ただ一点を見つめている。
その視線の先に存在するであろう、魔獣を討伐する。
お互いの心の中に今はその思いしかなかった。
「兄さん!」
後ろで荷物の整理をしていたユルが、軽装に2本の剣を腰にぶら下げた状態で走ってくる。
その剣だけがやけに立派だった。
ユルとアランだけは、その他と違う。
この二人だけは、刃を丁寧に研ぎ、管理の行き届いた武器を持つ。
当たり前だ。
この二人はいつか騎士になる者。
コノハやその他と比べてはいけなかった。
「なんだか今日は腰の剣が重く感じます。それだけ責任重大ですもんね……」
ユルは二刀流というのだろうか。
柄がなく、刃が円曲した2本の剣を踊るように操る。
何度かその勇姿を見たことはあったが、ユルの実戦をコノハが見るのは初めてだった。
「無責任だけど、頑張って欲しい。僕には何も出来ないから……。少しでも足でまといにならないように頑張る」
コノハの声に覇気はなかった。
無力なのはわかっている。
コノハがいればきっとユルが、過剰にコノハを庇ってしまうことも簡単に想像出来た。
だからこそ、死ぬ気でいきたかった。
負けられない。
必ず、倒す。
この希望を手にすることができれば、きっとユルと二人で人として生活できる毎日があるはずだから。
弱音を吐いて励まされる毎日ではなく、アランと笑い合う毎日がきっと待っているはずだから。
「準備はいいか?」
「うん」
「びびってないか?」
「もちろん」
不安や恐怖をねじ伏せるような希望が今、目の前にある。
困難を乗り越えた先に普通の幸せがあるのならば……。
「さあ。行こう」




