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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第五章 絶望の先の光と
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 槍が魔力の爆発を起こす音がして、それきりシンと静まり返る。

 ……ああ、終わったか。綾音も、〈アルターストーン〉も、この世界も。

 志乃はそう思って、灼かれたままの視界をそっと閉ざした。

 真っ暗に閉ざされた世界は、静かで、何の音もしない。どこまでもどこまでも、静寂が支配している。

 ……しかし、それだけだ。いくら時間が経っても、何かが起きる気配はない。

 静かだ。あまりにも静か過ぎる。志乃はようやくそのことに気づき、恐る恐る目を開いた。

「…………?」

 最初に抱いた違和感は、砕かれたはずの〈アルターストーン〉……その翠色の光が、今でも辺りに満ちていることだった。

 ゆっくりと動かした視界の端に、あの人型の〈魔者〉が映る。

 〈魔者〉は、唖然として何かを見つめていた。その先にあるのは、〈アルターストーン〉……ではない。視線はもっと下に向いている。

 志乃は、その先を追った。

「っ……!」

 そこに立っていたのは、一人の少女だった。

 志乃がそれを何者であるのか判断するまでには、一瞬だけ時間を要した。

 なぜなら、彼女は今の攻撃で〈アルターストーン〉もろとも掻き消されているはずで、そうでなくとも、その姿は普段の彼女の姿とは似ても似つかない。

 翠晶学園の制服を着た、ポニーテールの少女。それは確かに、悠月綾音のはずだった。

 しかし志乃は、その姿に息を呑む。

 剣を高く掲げたまま、まるで彫像のように力強く、誇らしく立つ。その少女を護る神の加護……、翠色の光が全身を包み込んでいた。

 その姿は神々しく、美しい。

 人型の〈魔者〉も、影の〈魔者〉たちさえも、彼女の姿に見とれていた。

 その中で。

 集まる視線の中心で。

「……闇に世界が覆われし時、"翠の光"が世界を照らす」

 少女は静かに、しかし力強く、言葉を紡ぎだす。

「"〈変革の晶〉"が輝きし時、選ばれし者は勇者となりて闇を斬り裂く剣となる」

 いつか聞かされた言葉。今ここで聞かされるには場違いなほどに滑稽なもののはずなのに、感動さえも感じさせられる。

「そして今が……その〈時〉だ!」

 目蓋を開く。その力強い瞳に、……"翠色の光"を宿して。

 掲げた剣は激しく渦巻く光に包まれて輝く。

 ……それは、紛れも無い"選ばれた存在"。

 今度こそ。

 間違いなく。

 茶番でも、妄想でもなく。

 本物の〈勇者〉が、そこに立っていた。

「……! ――、――――!」

 その姿に呆けていた〈魔者〉は我に返り、咄嗟に影に向かって指示を飛ばした。

 〈アルターストーン〉に向けられていた全ての魔法陣までもが一斉に彼女を包囲し、槍を放つ。

 まるで影が質量を持ったかのような闇の塊。それを〈勇者〉は……剣のたったの一振りで掻き消した。

 弧を描いて振るわれた剣。翠の光が尾を引くその光景は、現実の物とは思えないほど幻想的。

「邪魔をしないで」

 彼女は翠色の瞳で影の〈魔者〉を睨みつけると、剣を振り抜いた。すると光が弧状の波動となり、空に向かって放たれる。

 波動は何体もの影を一度に飲み込み、消し去った。その破壊力に、攻撃を免れた影が一斉に逃げ出そうとする。

「遅い!」

 振り向きざまに放った幾重もの波動が影を追い、そして消し去る。〈アルターストーン〉を囲んでいた影は、たった一瞬で一掃されてしまった。

 そうして、たった数回剣を振るっただけで、その圧倒的な力を魅せつけた少女は、……次に、人の形をした異形に刃の切っ先を突きつける。

「……さっきはよくもやってくれたわね」

「――……!」

 どうしたことだろうか。

 あれほど強大で凶悪に見えた〈魔者〉が、今では酷く矮小な存在に見える。

 それほどまでに、……"世界の敵に対して同情さえ抱かせる"ほどに、〈勇者〉の力は圧倒的だった。

「ッ!」

 翠の剣を携え、〈勇者〉が〈魔者〉へと肉薄する。大きく開いていた距離が、たった一度の踏み込みで消滅した。

「――!」

 一瞬で眼前に現れた敵に、〈魔者〉は虚を突かれてたじろぐ。

 振りぬかれる横一閃。研ぎ澄まされた一撃は、〈魔者〉がとっさにかざした両腕の爪を砕いた。

 彼女の攻撃はそれだけで終わらず、今度はまるでフェンシングのような細かい太刀さばきで〈魔者〉を翻弄する。目にも留まらぬ鮮やかな連撃に、ついに〈魔者〉が体勢を大きく崩した。

 その瞬間、〈勇者〉は大きく飛び退く。そして……。

 一瞬で姿をかき消し、瞬きをする間に〈魔者〉の後ろに現れていた。

「――!?」

 一瞬遅れて、〈魔者〉の体が微塵に斬り裂かれる。無数の深い傷に〈魔者〉はぐらりと体をよろめかした。

 神速の踏み込みで〈魔者〉を斬り抜けた〈勇者〉は、体を反転させて、高く跳躍した。

 光を背負う少女は、逆光に影を落とす。振りかざした剣には翠光が収束していく。


 ――これで終わりよ。


 声が空間に反響し、それに答えて光が巨大な刃と成る。

 大きく目を見開く〈魔者〉。その身に、"光の裁き"が下される。

「はあああああああッ!」

 空高くから振り下ろされた翠の大剣が、〈魔者〉を切り裂く。

「――――――――!!」

 断末魔の叫びを上げる〈魔者〉は、一瞬にして魔力の光と化す。その黒い光の粒子すら浄化して、〈勇者〉はついに全ての闇を裁いた。

 激しくも優しい翠光を背負い、〈勇者〉は剣を鞘に納めた。

 そして、自分の近くへ歩み寄り、無言のままに見下ろしてくる彼女の翠色の瞳に、

(ああ、やっぱり……敵わないな)

 志乃はふっと笑って、目を閉じた。

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