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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第五章 絶望の先の光と
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 化物のような巨大な右腕が、〈バグ技〉の刃と交差する。魔力の刀は〈魔者〉の右腕に深い傷を刻み付けた。

 ……しかし、そこまでだった。

「くそ……くそっ、くそっ!」

 どんなに力を込めても、刀はびくともしない。そうして必死に力を込めている間に、刀へ集めた魔力はどんどん散っていってしまう。

 そして。

 〈魔者〉を倒すことは愚か、右腕を断ち切ることすらできず。受け止められてしまったまま、この一撃に全てを賭けて解き放った魔力は……霧散してしまう。

 その瞬間、〈魔者〉の顔からふっと嗤いが消え失せる。まるで興が醒めたとばかりに無造作に志乃の刀を弾き返した。

「嘘、だ……」

 全てを解き放った最後の切り札。これが、こんなにもあっけなく終わるだなんて。

 絶望する志乃の目の前で、〈魔者〉は傷を負った右腕に興味無さげにちらりと目を向ける。

「……え…………」

 血が吹き出すように魔力が放出されていた傷跡。〈魔者〉が目を向けた直後、その傷跡が見る見るうちに埋まっていく。

 ……あろうことか、やっとのことで刻みつけた傷が、一瞬で癒えてしまった。

「……そん……な…………」

 不意を突いて全力の攻撃を叩きこめば、命は取れずとも、大きな傷の一つはつけられるはず。そう思っていた。

 だが、甘かった。この程度の小細工では通用しない。

 それほどまでに、絶望的に、敵は凶悪。

「……――――」

 「心底失望した」。〈魔者〉はそう言った気がした。

 彼はまるで道端の石をそうするように、無造作に志乃を蹴った。

「っ……かはっ……」

 志乃の体はボロ人形のように軽々と吹き飛ばされ、床を何度も転がされる。そして、三度の〈バグ技〉と全身の傷に、彼はもう立ち上がれなかった。

「……く……そ…………」

 止められなかった。

 〈魔者〉は苛立たしげに〈アルターストーン〉へ向き直ると、影の〈魔者〉達に指示を飛ばす。黒い槍が、次々と〈アルターストーン〉へ降り注いでいく。

 ああ、もう世界は終わりなのかもしれない。

 まるでRPGのような世界。そこにはついに〈魔者〉なんてものが現れ、そして、世界の終わりが始まろうとしていた。

 〈魔者〉の攻撃に、ついに〈アルターストーン〉に亀裂が走り始める。

 もしもこのまま砕かれてしまったら、世界はどうなってしまうのだろう。

 ……いや、きっと元の姿に戻るだけだ。

 ただしそこには、〈魔者〉という明らかなイレギュラーが存在している。

 残されたイレギュラーは、その後どうなるだろうか。

 ……決まっている。

 人間に攻撃し、世界の中心たる翠晶を壊した〈魔者〉が、次に何をするのかなど。

 ……やはり、世界は終わるのだ。

「……何が……RPG……だよ…………」

 そんな悪態が口を突いて出る。なぜなら、RPGのくせに、この世界には決定的なピースが不足しているのだ。

「…………」

 転がったまま、志乃はその言葉を思い描いた。

 邪道な世界観のゲームのファンであろうと、その概念は変わらない。こんな時に救いを求めるべき存在なんて、決まっている。

 ゲームで、お伽話で、伝説で、常に弱き者を救い続けてきた存在。

 もしも、現れてくれるのなら、それは……。

「……そして……今、が……その〈時〉……だ」

 そんな言葉が、不意に響き渡る。

 息も絶え絶えに紡がれたはずのその言葉はしかし、槍が〈アルターストーン〉を砕かんとする激しい音の中でさえ、志乃の耳に届いた。

「……ゆうづ、き……?」

 霞む視界の端で、少女は確かに立ち上がっていた。

 その目を真っ直ぐ、翠色に輝く雫へ向けて。

「我は、剣……。闇を、斬り裂く……希望の……光り」

 そしてその足を、ゆらり、ゆらりと、進めていく。

「我は、剣。魔王を貫く……聖なる、閃き……」

 きっと自分と同じく、動かすだけで激痛が走るような、傷だらけの体で。

「――――!」

 〈魔者〉は彼女が生きていたことに気づき、そして手をかざした。〈アルターストーン〉に向いていた魔法陣の一部が綾音に向く。そしてそのまま魔力を収束させた。

 逃げろ。そう叫ぼうとしても、喉からはただ空気が漏れて虚しい音を立てるだけ。

「我は剣……。世界を、繋ぐ……栄光の輝き」

 ついに、漆黒の槍が雨のように降り注ぎ始める。その間をくぐり抜け、時には体に掠めさせながらも、綾音は一心不乱に足を進めていく。

 頭上では〈アルターストーン〉への攻撃が続き、亀裂が深まり、欠片が飛び散っていく。

「……我は剣。神の御心のままに振るわれることを……誓う」

 綾音はついに、〈アルターストーン〉の真下へ立つ。そして、傷だらけの雫を見上げた。

「……あたしが、あんたのために振るわれる剣になる……。だから……あたしに力をよこしなさい」

 そう言って綾音は、まるで「エルネリシア」のワンシーンを再現するように、抜いた剣を高々と掲げた。

 何をバカなことをやっているんだ。早く逃げろ。殺されるぞ。……言葉はやはり、声にならない。

「このままじゃあんた、壊されちゃうのよ。こんな、わけのわからないやつらに。……あんたもこの世界の〈神の雫〉なら……〈勇者〉の力くらい……与えてみなさいよ!」

 綾音の声をかき消すように、綾音へ向いていた魔法陣が一斉に槍を放つ。

 同時に〈アルターストーン〉へも槍が放たれる。更に大きくなった亀裂から、夜空を染め上げんばかりの翠の光が溢れだす。

「ーーーーッ!」

 志乃が声にならない叫びを上げる。その瞬間、〈アルターストーン〉の亀裂から漏れだす光が激しく閃き、視界を灼き尽くした。

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