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魔法陣に魔力が収束し、三度目の槍の準備が整う。そして〈魔者〉が先ほどと同じように合図を出そうと手をかざした瞬間、綾音は一気に駆け出した。
「行くわよッ!」
掛け声と共に振りぬく刃。魔者は右腕を上げたまま、夕方の時と同じように片手間に左の指先で攻撃を受け止めようとした。しかし、
「舐めるんじゃないわよ!」
「――!?」
その程度の力で綾音の剣は止まらなかった。その力が予想外だったのか、〈魔者〉は指を弾かれ、一瞬だけ表情を崩す。
「やぁッ!」
再度の攻撃。今度はまるで鱗のように硬質化している腕で攻撃を受け止めた。
ギリギリと力が拮抗する。剣に力を込めながら、綾音はにっと不敵に笑った。
「さっきのあたしと同じだと思わないことね。ここに来るまでに、経験値たんまり稼がせてもらったんだか……らッ!」
「――!」
腕を押し返し、間髪入れずに袈裟懸けに斬り込む。ごく浅いものの、魔者の胸に傷をつけた。
「――――……!」
今の一撃でどうやら〈魔者〉の方も憤慨したらしい。凍てつくような眼差しで綾音を睨みつけ、体ごと彼女と対峙した。
「っ……」
次は本気で来る。そう悟った綾音は、少しだけ体を強ばらせてしまう。
……こんなところで怯えて引けを取るわけにはいかない。そんなことでは、この戦いに勝つことなど出来ない。
「さあ、次行くわよ!」
大声を上げて自分を奮い立たせ、突進する。小細工無用。それが綾音の戦い方だ。
対する〈魔者〉もまた正面から襲いかかる。そしてその鋭い爪で敵を引き裂かんと、右腕を振るう。
綾音は正面から剣をぶつけた。だが、
「くっ、うぁあっ!」
弾き飛ばされる。圧倒的な力の差だった。
今までは相手が油断していただけだ。本気を出した彼が相手では、やはりまだ力が遠く及ばない。
しかし、それでも……。
「まだ……まだよ!」
何度でも剣をぶつける。目の前の敵を倒すまでは。
綾音の剣と〈魔者〉の腕が交差する。そして今度は鍔迫り合いとなった。
〈魔者〉は余裕の笑みを浮かべながら綾音を睨みつけている。……その目には、目の前の敵しか映っていない。
……今。
「志乃ッ!!」
綾音の叫びに、彼女が〈魔者〉の注意を逸らしている間に背後に回りこみ、ずっと魔力を集中させていた志乃が応える。
「ああ……行くぞ!」
残りカスのような魔力をありったけ刀に収束させ、今、この瞬間に全てを解放する。
「〈放て〉!!」
炎のような魔力が刀にまとわりつく。
もっと強く、もっと激しく。気を集中させて、魔力を爆発させる。ここで全てを叩きこむ覚悟で放出した魔力は、今までよりもずっと強く、激しく燃え上がった。
圧倒的な魔力は、まるでそれ自体が巨大な大剣と化したよう。これだけの破壊力ならば、いくら〈魔者〉といえどひとたまりもないはずだ。
「うおおおおおおおおおッ!」
体が壊れる覚悟で振り下ろした一撃。それに対して〈魔者〉は……。
綾音の攻撃を受け止めながら、ちらりと振り向いて、嗤った。
「っ……!?」
その視線に、志乃はぞっと怖気立つ。
〈魔者〉はまさに"それを待っていた"とばかりに口元を歪めて嗤い、綾音の剣をまるでもう用済みだとばかりに弾き飛ばした。
「くっ……!」
大きくよろめく綾音に、〈魔者〉は嗤いを浮かべたままで大きく腕を振り上げた。
綾音は目を見開く。そして、守るどころか覚悟をする間も与えられず、豪腕が振り下ろされた。
「うあああああぁ!」
吹き飛ばされた綾音が転がっていく。華奢な体を何度も何度も地面に跳ねさせ、そして塔の縁でようやく止まり……そのままぴくりとも動かなくなった。
「悠月……!」
〈魔者〉はそんなもの気にも留めていないとばかりに今度は志乃へ向かい、嬉々として腕を振りかざしてきた。
「クッ……このおおおおおおおお!!」




