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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第五章 絶望の先の光と
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 頂上へ飛び出した瞬間、翠の光が視界を照らした。そのあまりの眩さに、志乃は腕で顔を覆う。

 太陽はすっかり落ちてしまっている。それ故に、〈アルターストーン〉の光はより強く塔に降り注いでいた。

 その光の元を見上げて、……志乃は息を呑んだ。

「これが……〈アルターストーン〉……」

 十メートル以上はあろうかという巨大な水晶体が、頭上で浮遊しているのだ。近くで見上げるその姿には遠くから見るだけではわからない神々しさがあり、畏敬の念を抱かずにはいられない。こうして直視することも躊躇われる程に、翠晶は美しかった。

「……ハッ。悠月!」

 一瞬とも永遠ともとれる時間、翠晶に魅了されていた志乃は、はっと我に返る。そして周囲を見渡した。

 広大な塔の頂。その縁に、彼女の姿はあった。

 ……全身に傷を負い、見るも無残な様で、崩れ落ちていた。

「悠月!」

 志乃が駆け寄ると綾音は力なく顔を上げる。そして、呆れたように笑った。

「あん、た……こんな……、で、……にしてんの、よ……」

「お前の方こそ、一人で何やってるんだ、バカ!」

「また、バカって……っ……!」

 言葉の途中で、不意に綾音は腕を押さえる。

「悠月、お前その怪我……!」

「たい……た、こと……ぃわよ……。ほっとけ……ば、な……るから……」

「バカ言うな! 掴まれ、今は早くこっから……」

 とにかく逃げ出そうと綾音に手を貸す。綾音はその手を取ろうとし、途中で何かにはっと気づいて、ギリッと歯を噛み締めた。

「悠月……?」

「あい、つ……まだ……いた……」

「あいつ……?」

 志乃は綾音の見る方へ振り向き、そして目を見開く。

「お前、は……!」

 そこに音もなく現れて佇んでいたのは、……最初に出会った人型の〈魔者〉だった。不気味な金色の瞳が、自分たちを舐め回すように見つめてくるのを感じる。

 志乃は咄嗟に綾音を後ろにかばい、刀を構えた。しかしここまでの戦いで志乃もぼろぼろで、ましてやこんな化物が相手では勝てるはずもない。

 それでも、そうせずにはいられなかった。

「悠月には触れさせない……!」

 決死の覚悟で睨み返すと、〈魔者〉はフッと笑う。そして、視線を空へ……〈アルターストーン〉へ向けた。

「――――、――」

 言葉。相変わらずその意味は理解できない。

 ただ、彼の瞳に映るモノが志乃には感じられた。それは、〈アルターストーン〉に向ける賛美のようなものと、それ以上の、禍々しい欲望。

「だめ……あいつ、〈アルターストーン〉を……」

「悠月?」

「くっ……ぜったい……させない……!」

 綾音が剣を杖にしてふらりと立ち上がる。もはや自分の足では立つことも叶わない、そんな状態になってなお、闘志だけは消えていない。

 〈魔者〉はそんな綾音を興味無さげに一瞥すると、また何か言葉を発した。

 するとそれに応えるように虚空から幾つもの黒い光の球が現れ、その中から新たな〈魔者〉が姿を現し始めた。

 それはまるで"影"が黒いマントを着ているような、幽霊のような姿をした〈魔者〉。十体近く現れた〈魔者〉はゆらりと浮遊して、〈アルターストーン〉を取り囲んだ。

 人型の〈魔者〉が指揮棒を振るように合図をする。それを合図に、影の〈魔者〉は一斉に手をかざした。

 瞬間、〈アルターストーン〉を幾重もの漆黒の魔法陣が包み込む。そして、強烈な魔力が収束し始めた。

「な、なにを……」

 志乃の言葉を待たず、〈魔者〉が手を振り下ろす。それを合図に、……全ての魔法陣から黒い光の槍が現れた。

「な……!」

 無数の槍は〈アルターストーン〉を砕かんと一斉に放たれた。一度で砕かれるには至らないものの、確実に表面が削り落とされていく。

「あいつら…………壊そうと、してる……。だめよ、そんなの……だめ!」

「! 悠月、無茶だ!」

「言ったでしょ! 無茶でも、止めないと……」

「せめて他の人が来るのを待てって! 研究センターの関係者とか……」

「そんなのがいるんなら、あんたなんかが来るより先に来てるでしょうが!」

「それは……」

 本当は志乃にも解っていた。もしもそんな連中にここに辿り着くだけの戦力があるなら、志乃などが辿り着くより先にここに来ているはず。……おそらく、〈魔者〉には〈ロール〉の力による攻撃以外が通用しないと知らなかったがために、未だに混乱していて対処が遅れているのだろう。

 綾音はふらつく足取りで〈魔者〉へと向かっていく。

 無理にでも引き止めるべきだ。しかし、志乃にはそれが出来なかった。

「……そうか、そうだよな」

 そこで志乃はようやく、そんな簡単なことを思い出す。

 綾音は自分なんかが止めようとして止まるような人間じゃない。そもそも、自分はそんなことをするためにここに来たのでは無いだろう。

 志乃は自分の中で覚悟を決めると、綾音の隣に並び立った。

「ち、ちょっと……?」

「……ったく。お前一人にだけいい格好はさせないぞ、勇者さま」

「は……?」

「手伝うって言っただろ。一人で無茶するな」

「! ……ふ、ふん。あんたこそ、かっこつけてんじゃないわよ」

 二人で肩を並べ、〈アルターストーン〉を見上げる。魔法陣には再び魔力が収束し、二度目の槍が放たれていた。やはり表面を削る程度にとどまるが、あと何発か入れられればヒビが入り、最後には本当に砕かれてしまうかもしれない。

 もしもそんなことが起きればどうなるか……。志乃には想像もつかない。

 〈魔者〉は志乃たちに気づいていないようだった。志乃は改めて状況を把握する。

「……まあ、実際かっこつけたところで多勢に無勢。こっちは満身創痍で、相手はラスボス、もしくはチート級だ」

「そうね……」

 さしもの綾音といえども、この状況で無謀に突っ込もうとはしないらしい。

 状況を再確認した志乃は、思考を必死に巡らせる。この状況を覆す手。そんなものがあるとすれば……。

「俺達とあいつらじゃレベル差がありすぎる。無理ゲーだな」

「……あんた、諦め早すぎでしょ」

 ジトッと睨んでくる綾音を「まあ待て」と制す。

「レベルに差がありすぎて勝てない。そんなのは、『システム』上の話だ」

「はあ……? ……って、あ、あんた、まさか」

 志乃の言い回しに考えを悟ったのか、綾音ははっと目を見開く。志乃はにやりと笑い返した。

「お行儀よく相手する必要はない。……『バグ』だったら、『システム』なんていう盤をまるごとひっくり返せるかもしれん。レベルなんてお構いなしだ」

「た、確かに……。で、でもバグとかチートで勝つなんて卑怯っていうか、そもそもこれは現実よ! ゲームなら確かに可能性あったかもしれないけど、ここで『バグ技』使ったからって現状ひっくり返せるなんて限らない!」

「が、今のところ一番可能性が高いのも事実だろ。自分で言うのもなんだが」

「で、でも、さっきは弾かれてたじゃない!」

「あの時とは気合も武器も違うからな」

「……そもそもあんた、まだ使えるの? 今日はすでにさっき……」

「それもまあ、気合でなんとかなりそうだ」

 実は二度目どころか三度目だ、とはあえて言わない。不安要素を徒に伝えることも無いだろう。

「とにかく、あの親玉をなんとかできれば可能性は見えてくるはずだ。いいな、悠月」

 改めて訊くと、綾音はじっと志乃の目を見つめ、それから仕方ないとばかりにゆっくり頷いた。

「……わかったわよ。乗ってあげるわ、あんたの賭けに」


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