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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
epilogue そして日常へ
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page44

 あれから一週間ほどが過ぎた。

 町中の〈ゴーレム〉の暴走は〈魔者〉の消滅と共に停止。小型の〈魔者〉も消え去ってしまったらしい。

 町の被害は甚大。壊された建物の復興には長い時間がかかるだろう。

 しかし、奇跡的に死者はゼロとのことらしい。千歳と瑠璃も、無事とは言いがたいものの生きて帰ってくることが出来たようで、後遺症の残るような怪我もない。

 〈アルターストーン〉も大きな傷を負っていたはずだが、後から来た人間が見た時にはすっかり元に戻っていたらしい。〈ロール〉などへの障害については以前調査中だが、今のところ問題は見られない。

 中央研究センターと関連組織では〈魔者〉に関する調査研究が本格的に行われることとなり、事態を重く受け止めて今後の対策に取り組むとのこと。

 〈魔者〉が現れたのは翠晶島内部だけらしく、混乱を招かぬように情報は徹底して統制されるそうだ。

 志乃と綾音は、騒ぎになる前に瑠璃が連れ帰っていた。気を失っていた志乃が目覚めたのは病院のベッドの上で、何故か怪我は殆ど無く、ただし〈バグ技〉の過剰使用による不調が現れていて、この一週間入院させられていたのだった。

 そして今日、ようやく退院して学校に復帰してきたのだが……。

「ようやく来たわね、遅いわよ!」

「……お前、あんなことあったのによくもまあピンピンしてるな」

 様子見ということで午前は安静。午後も授業は受けず、放課後になってふらりと部室に立ち寄ったところ、綾音が上座で仁王立ちを決めていた。包帯なんかを巻いている様子もなく、身も心も見た通りに元気そのものらしい。

「しーくん~~!!」

「うおあ!? せ、先輩っ!」

 いつも通りの綾音に呆れていると、突然隣から千歳が泣きながら飛びついてきた。

「良かったよ~~! しーくんが死んじゃったら、お姉ちゃんは……お姉ちゃんは~~!!」

「わ、分かったから離せ! 泣くな! しーくんって呼ぶな!!」

 志乃が無理やり引き剥がすと、千歳はグズグズと鼻をすすった。

「ぐすっ、だって、私が無理やり行かせたみたいで、それでもし何かあったら……」

「あ、謝ること無いっての。……行かなかったら後悔してたし、刀、すごい役に立ったし」

「他人の〈シンボル〉を借りなくちゃ戦えないとか志乃さんも本格的に末期ですね。他人の生命振り回してたようなものですよ?」

「う……。あ、あの時はしょうがなかったっていうか……。ていうかお前も無事だったんだな」

 間に割って入りさらりと毒づいてきた瑠璃は、やはり大した怪我の痕は見られない(千歳も同じく無事のようだ)。瑠璃の場合はあんな化物を相手にしていただけに、志乃としては無事なのが少し驚きだった。

「わたしを誰だと思っているんですか、と言いたいところですが、今度ばかりは死ぬかと思いました」

「ありがとな、天ヶ崎も手伝ってくれて」

「……これも前から言っていたことです。……わたしなりに手伝うって」

 瑠璃はそう言ってから、照れくさそうに頬を染めて、ふいとそっぽを向いてしまった。やはり無傷らしいグンジョウをぎゅっと強く抱き締める。

「……で、俺としてはお前が無傷なのが一番不思議だ」

 志乃は改めて綾音に目を向けた。すると彼女も顔をしかめる。

「それはこっちのセリフよ。瑠璃と一緒に病院まで連れて行ってみたら、いつの間にか傷が治ってたし」

「〈アルターストーン〉の直下にいたお陰で治癒能力が異常に活性化した結果……とのことですけど。あと、"連れて行った"、じゃありません。わたしがお二人を載せて連れて行って上げたんです。あなたは連れて行かれた側です、バカ勇者さん」

「うるさいわね、細かいところを」

 相変わらずな綾音と瑠璃に志乃は苦笑し、それから瑠璃の言葉にハッと気づいた。

「悠月、あの時のあれって……」

 勇者といえばそれだ。

 この一週間会えなくてずっとモヤモヤしていた疑問を綾音に投げかける。すると綾音はその言葉を待っていたとばかりにずずいっと身を乗り出してきた。

「そうね、そうよね! 気になるわよね!」

「お、おう」

 その態度とは対照的に、志乃は若干引きながら答えた。

「よーし、じゃあ見てなさいよ!」

 綾音は嬉々として剣の柄に手をかける。

 そして目を閉じ、一つ深呼吸をした。急に静かに、真剣になった綾音に、志乃も釣られて息を飲む。

 綾音は剣を握る手にぐっと力を込めた。そして……。

「〈解放〉!」

 掛け声と共に勢い良く剣を抜き放った。

「…………」

「…………」

「…………」

「…………」

 ……四人分の沈黙が部室に落ちた。

「……悠月。それは一体何の真似だ」

「おかしいわね。こんどこそ上手くいきそうな気がしたんだけど」

「気がしたってお前……」

「うーん、何が間違ってるのかしら」

 綾音は剣を抜いたままあれこれと変身ポーズらしきを決め、そのたびに首を傾げていた。どういうことか志乃には分からなかったが、ポーズが原因というわけではないであろうということは彼にも分かった。

「志乃さん」

「ん、なんだ天ヶ崎?」

「あいつが何かとんでもない力を一時的に発揮していたというのは確かなんですか?」

「ああ。あの後すぐに気を失ったぽいからイマイチ現実味がないが、あいつも覚えてるんなら確かだと思う」

「そうですか……」

 瑠璃は志乃の言葉に「ふむぅ」と頷き、口に手を当てて何か考え込み始めてしまった。

「天ヶ崎、何か知ってるのか?」

「いえ。もしかしたら本当にあいつが〈勇者〉になったのではないかと思いまして」

「は?」

 瑠璃にしては突拍子もなさすぎる発言に志乃は耳を疑うが、彼女の表情は真剣そのものだった。

「データベースにはなかったので今まであまり調べられてこなかった部分を個人的に〈賢者の書〉で調べてみたのですが、どうやら〈アルターストーン〉には危機に陥った時の防衛機能らしきものが備わっているようなんです」

「防衛機能?」

「それが具体的に何なのかはわかりませんが、状況から見るに、あいつが特別な能力を手にしたのもその防衛機能によるものなんじゃないかと」

「なるほどな……」

 結局正確なことはわからずじまいだが、志乃にとっては確かに腑に落ちる説明だった。

 世界が危機に陥れた時、勇者を誕生させる。「エルネリシア」と同じ、わかりやすい展開だ。

 話が一段落つくと、瑠璃は千歳に声をかけていた。横から聞いているに、どうやら決して短くない時間他人に〈シンボル〉を持たせたことで何か害は生じていないかを確認しているようだ。確かに、ましてや今回の場合は志乃が〈バグ技〉の媒体として使ってしまったから、何か異常があってもおかしくはないかもしれない。

 バグはバグで使い道があるようだが、やはりせめてちゃんとした武器を自分で持っていたほうが便利だ。志乃が改めてその方向性を考えていると、不意に綾音が声をかけてきた。

「ねえ、志乃」

「ん? 何だ?」

 綾音はいつの間にか剣を収めていた。

「いや、あのね……。結局あの後聞きそびれてたんだけど……」

「あの後……?」

 あの後といえば「あの後」だろうと、志乃はあの〈魔者〉との戦いの日のことを思い出す。確かに志乃はあの後すぐ気絶してしまい会話をする余裕もなかったが。

 はて、何の事だっただろうかと、混沌とした一日の混乱した記憶をたぐりよせていると、綾音は珍しく恥ずかしげに、もじもじとしおらしい態度で訊いてきた。

「ほら、あの時……続き」

「続き……?」

 志乃は必死に記憶をたぐり寄せるが、どうにも思い出せない。確かに何か言いかけて言えずじまいだったことがあった気がするのだが、さて、一体何の話だっただろうか。

 どうしても思い出せず、志乃は綾音に聞き返そうとした。

「あー、や、やっぱりいいわ! うん、こんなタイミングで聞く話じゃないわよ!」

 が、綾音はそれより先にわたわたと手を振って話を終わらせてしまう。

「いや、悠月……」

「もういいったら! それよりも! せっかくこのあたしが〈勇者〉に覚醒したんだから! 〈勇者研究部〉もより本格的に活動していくわよ!」

 綾音はすっかり話を終わりにして、そんなことを宣言していた。瑠璃が呆れ顔で聞き返す。

「いろいろツッコみたいところはありますが、ひとまず何をする気です? また〈魔者〉が出てくるとか勘弁なのですが」

「ふん、そんなの今のあたしなら一瞬で一捻りよ!」

 あの力が制御できていたら話は別だろうが、今出てくるのは志乃にとっても御免だ。

「ていうか、こっちが強くなった以上、わざわざ待ったりする必要ないわ。こっちから行ってやるのよ!」

「いや、だから制御できてないだろ、あの力。ていうか行くって、どこに、何しに」

 志乃はそう聞いてから、しかしなんとなく、彼女が次に何を言うのかがわかってしまった。

 〈勇者〉になった……というか、なりかけてしまった彼女が次に目指すこと。それは、〈勇者〉の最終目標にして、きっと、今度こそ果てのない、終わらない旅だ。

 しかして綾音は、極めていつも通りなテンションで、志乃の思い浮かべた通りの言葉を口にする。そう、それは……、


「次は……打倒〈魔王〉よ!」




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