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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第五章 絶望の先の光と
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page37

 町中は相変わらずパニック状態だった。〈魔者〉の出現など予想されていなかったのだろう、住民の非難が殆ど進んでいない。

 どうやら〈魔者〉は島の中央にある塔へ向かっているらしいとわかり、志乃はひたすらに走っていた。しかし、

「くそっ、キリがない!」

 度重なる戦闘。〈ロール〉を持たない志乃にとってギリギリの勝負だった。武器が優秀であるとはいえ、敵があまりにも強く、多い。

「悠月、大丈夫だろうな……」

 あの弱小〈剣士〉がこの中を一人でどこまで戦えるか。……嫌な予感がちらつく。

「……いや、あいつのことだ。なんとかして生き延びてるはずだ。それよりも、今は!」

 迫る〈魔者〉を斬り伏せ、〈ゴーレム〉の攻撃を弾き返す。隙を見つけて突破し、向かう先に居た〈魔者〉の隙をついて急所を貫く。

「今は自分のことだ……。俺が生きて辿りつけなきゃ意味が無い」

 塔を見上げる。綾音もおそらく、気づいて塔へ向かっているはずだ。

 遠く険しい道程。手に勝手に力が入り、体が震える。武者震いだと思い込み、一つ深く息を吸い込んだ。

 何としてでも辿り着く。志乃は有らん限りの力を込めて地面を蹴り、駆け出した。


*


 同じ頃。

「ジャマを……しないで!」

 斬撃が〈魔者〉を打ち倒し、光の粒子に変える。

 綾音は凛とした眼差しで、目の前にそびえ立つそれを見上げた。

「〈アルターストーン〉の塔……。間違いない。この上にいる。……くっ」

 彼女は不意に、腕を抑えてふらついた。体を支えられず、近くにあった壁にもたれかかる。

 綾音はすでに満身創痍だった。自然治癒力も追いつかないほどにボロボロになって、それでも諦めずに走り続けてきたのだ。

 彼女の通った後には黒い光が立ち上り、〈ゴーレム〉の残骸が散らばっている。肩で息をする彼女を動かしているのは、もはや信念だけだ。

「……ここまで来たのよ……あたしが……やらなきゃ……!」

 立ち上がり、塔の頂上を鋭く睨む。〈魔者〉の魔力が集まっているのか、翠色に輝いているはずの塔上空は、黒く沈んで見えていた。

「あたしが……守る!」

 信念で体を奮い立たせ、綾音は塔の中へ駆け込んでいく。


*


「はあ……はあ……。あとちょっとか……?」

 志乃は塔までの道のりの中ほどまでにたどり着いていた。しかし中央に近づくほど〈魔者〉の密度は高まっていく。

「ていうか、こんな時、研究センターの奴らは何してんだよ……」

 翠晶島中央研究センターはとある組織の下に属する機関だと瑠璃が言っていた。その組織が実質この島の全体を管理しており、非常時にこの島の治安を守るための部署も存在しているそうだ。瑠璃が〈魔者〉について報告した時も受け入れてくれなかったと言っていたが、まさかこの期に及んで動いていないはずもあるまい。

「うああああ!」

 その時、近くから男の悲鳴が聞こえた。志乃は咄嗟にそちらへ駆けていく。

「くそっ、なんだこいつ! 銃が効かねえ!」

 そこにいたのは、武装した男と、獣型の〈魔者〉。男は負傷しているらしく、このままでは〈魔者〉の餌食だ。

 〈魔者〉が男に向かって跳びかかる。

「ひいぃ!」

「はあああ!」

 志乃は間に割って入り攻撃を受け止める。

「大丈夫か!?」

「あ、ああ。君は?」

「まあ、えっと……ただの学生だ。いいから早く逃げろ!」

「あ、ああ!」

 男が逃げたのを見計らって、志乃は〈魔者〉に対し反撃し、撃退する。

「あんた、もしかして研究センターの?」

「ああ。部隊とはぐれてしまって……」

「それ、〈シンボル〉じゃないよな。ただの銃か?」

「そうだ。非常時には効率の悪い剣や槍ではなく、銃火器を用いるということになっていて……。だが、やつらには攻撃が全く効かないんだ」

「……もしかして、〈シンボル〉の攻撃じゃないと効かないのか?」

 志乃はバットによる攻撃が完全に無効化されてしまったことを思い出した。

「あんた、武器を〈シンボル〉に変えたほうがいい」

「え……? だ、だがしかし……」

「じゃないと〈魔者〉には効かないんだ。他の人にも伝えてやってくれ」

「は……? お、おい君、どこに行く! 待て!」

 男の静止を振り切り再度駆け出す。

「ったく、これじゃ〈魔者〉を倒せないわけだ……。あいつらが立て直すのを待ってられない、早く何とかしないと……」

 しかしそうは言ったものの、自分一人で突破するのは困難だ。しばらく走り続けた所で、またも〈魔者〉の群れに道を塞がれてしまう。

「あとちょっとだってのに……」

 刀を握って周囲を伺う。この数を一人で相手できたものか。

「志乃さん!」

「え……?」

 またも絶体絶命かと焦りだしていると、声が聞こえた。

 ……聞き間違いでなければ、上空から。

「〈炎陣展開フレイムサークル〉!」

 続けて聞こえる、機械で反響させたような声。瞬間、目の前の〈魔者〉の群れの足元に巨大な赤い魔法陣が現れ、爆発を起こした。

 〈魔者〉が跡形もなく吹き飛ばされ焦土と化したその跡に、彼女が降り立った。

「無事ですか、志乃さん」

「あ、天ヶ崎……」

 志乃は言葉を失ってしまい、呆然と彼女を"見上げる"。

「無事のようですね。……ん? その刀、もしかして千歳さんのですか?」

「…………」

「志乃さん? どうしたんですか?」

「いや、どうしたもこうしたも……それ」

 志乃が指さしたのは、瑠璃が乗っている物。

 それは、彼女がいつも抱きかかえているぬいぐるみことグンジョウが……二メートル近くのサイズに巨大化したものだった。

「ああ、グンジョウですよ?」

「いや、グンジョウですよって……。そいつ、巨大化したり飛んだりできたのか?」

「グンジョウをただのぬいぐるみだと思わないでください。この子はわたしが最初に創造した特殊な〈ゴーレム〉なんですから」

「ご、〈ゴーレム〉!?」

「大丈夫です。量産型とは規格と構造が違うので、乗っ取られたりしませんよ」

「い、いや、それもそうなんだが、それよりだな……」

 色々な驚きの連続で頭が痛くなってくる。ただのぬいぐるみかと思っていたら……。

「そんなことより志乃さん、無駄話してる場合ですか?」

「っと、そうだった。天ヶ崎、悠月が!」

「大体の事情は把握しています。勝手に探知させてもらいましたが、すでに塔の内部を上っているようです。あの似非勇者……」

 苦々しげに吐き捨てる瑠璃だったが、すぐに志乃へ向き直る。

「わたしたちも向かいます。グンジョウでは頂上までは飛べませんが、途中までは行けるはずです」

「あ、ああ。悠月を頼む」

「何を言ってるんですか、志乃さんも行くんです」

「は……? い、いや、でも俺が行った所で足手まといっていうか……」

「志乃さんの〈バグ技〉はいざというときの切り札になります。それに、ひとりだけ逃げるだなんて許しませんよ」

「い、いや、だけど……」

「いいから行きますよ!」

「うおあ!?」

 グンジョウの手が志乃の襟首をむんずと掴む。

「では、行きます。〈重力解除グラビティアウト〉」

「お、おお……?」

 グンジョウの体がふわりと浮き上がった。そして、

「〈高速飛行エアロドライブ〉!」

「うおぉぉおぉおおあああぁあぁあぁああああああ!!」

 志乃をぶら下げたまま、猛スピードで空を駆け始めた。

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