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「あれれぇ? 綾音ちゃんは~?」
「……悠月は、…………」
志乃は一瞬言葉に詰まるものの、これまでのことを話した。
二人で〈魔者〉探しに出てきていたこと。突然強力な〈魔者〉が姿を現したこと。逃げまわって、ここに隠れていたこと。……そして、綾音が自分を置いて一人で戦いに出て行ったこと。
「……そっかぁ。綾音ちゃんが~……」
千歳はうんうんと頷く。
「それで、俺は……」
「あはは、しーくん~」
「ん? ぐはっ!」
志乃は突然千歳に突き飛ばされ、尻餅をついてしまう。
「な、なにす……ぐふっ」
続けて蹴りつけられ、胸を踏みつけられた。
「それでぇ、しーくんはぁ、こんなところで何してるのかなぁ?」
威圧的な調子で問い詰められる。この位置からなら下着が丸見えだが、とてもそれどころではない。
「お、俺は、だからその……」
「口答えしないの」
ギラリと輝く切っ先が喉元に突き付けられ、志乃は口を噤む。
「ねえ、こういうことだよね~。しーくんはぁ、女の子の綾音ちゃんをぉ、一人で危ない所に行かせてぇ、自分は男のくせに安全な所で震えててぇ、弱いしーくんは戦うこともできなくてぇ……それでおねえちゃんに助けてもらったんだよね~?」
「お、おっしゃるとおりです」
「あはははは!」
「ひぃっ」
高笑いと共に切っ先が喉に触れる。あと少し押されれば切れては管が切れてしまいそうだ。
「しーくん、こんなところでぼさっとしてちゃだめだよぉ?」
「だ、だけど俺は、武器もないし……」
「ふん!」
「ぎゃああ!?」
喉元に突き付けられていた刀が勢い良く振り下ろされ、志乃の首の数ミリ横に突き刺さった。
「これ、貸してあげる」
「へ……?」
流石の志乃も涙目になって、がくがくと震えながら問い返す。
「だからぁ、綾音ちゃんを助けてくるのぉ」
「け、けど、他人の〈シンボル〉なんて使えるのか……?」
「しーくんは〈ロール〉持ってない〈ノーロール〉さんだから大丈夫だよぉ」
「ふ、ふの……」
どうしてこの状態の千歳は言葉遣いまでもが変わってしまうのか。ひょっとしてこちらが本性なのか。
「とにかくぅ、いつまでもこんなところで寝てないでぇ、早く行ってきたらぁ?」
千歳が志乃を踏みつけていた足をどける。志乃は何がなんだかわからずにぼんやりとしてしまった。
「ほらぁ、いつまでおねえちゃんのぱんつ見てるの? それとも、もっとよく見たいのかなぁ……?」
「わ、わかった! 行ってくるから!」
千歳がスカートをつまんですっと持ち上げようとするのを見て、バネ仕掛けのように飛び起きる志乃。どうにもこの状態の千歳は苦手である。二本目の刀は手放しているはずなのに、まだ高揚しているようだ。
「せん……お姉ちゃんは?」
「おねえちゃんは、まだやることがあるみたいだから」
千歳はじっと、さきほど倒したはずの大型〈ゴーレム〉に目を向ける。なんと〈ゴーレム〉は再起してギリギリと立ち上がろうとしていた。
「ひ、一人で大丈夫なのか!?」
「……ん。大丈夫、お姉ちゃんに任せなさい!」
ようやく普段の調子に戻ってきたらしい千歳がぱちんとウインクして、〈ゴーレム〉に対峙した。
「じ、じゃあ……これ、借りてくからな!」
「うん、しっかりね。……あ、そうそう」
千歳の刀を抜いて町の方へ向かおうとする志乃を、千歳が呼び止める。
「もしも二人で無事に帰ってこれなかったらぁ……お・し・お・き、だからね?」
「サ、サーイエッサー!」
少しだけ〈動〉を滲ませる千歳に、志乃は訓練された兵隊のように敬礼を返して駆け出した。




