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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第五章 絶望の先の光と
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「あはは~。なんだか大変なことになってるね~」

 ……その瞬間、場にそぐわない気の抜けるような声が聞こえた。

 直後、目の前に何かが降り立ち、斬撃を放つ音がする。志乃は目を開けた。

「大丈夫ぅ? しーくん~」

「せ、せん……ぱい……?」

 千歳が目の前に立っていた。自分を取り囲んでいた敵は吹き飛ばされ、辺りに転がっている。

「あ~。だめだよぉ、先輩なんて呼んじゃ~。お・ね・え・ちゃ・ん、でしょ~?」

 千歳は満面の笑みと共に、何時にもまして間の抜けた調子で喋る。顔がほんのりと上気して見えるのは、おそらく夕陽のためではない。志乃は、"この千歳"を知っていた。

「先輩、もしかして、"二本目"を……」

「あれれぇ? 聞こえなかったのかなぁ?」

「うおぅ!?」

 千歳はぐぐっと顔を近づけ、吐息のかかるような距離に迫る。普段は優しげなはずの双眸が妖しく細められ、志乃をじっと見つめた。

「お・ね・え・ちゃ・ん」

 柔らかそうな唇から、一つ一つ吐息混じりに発せられる言葉。志乃の心臓がドキリと跳ねる。……だがそれは、決して彼女のどこか妖艶な態度に誘惑されたためではない。

「お、おう、わかった、……お、お姉ちゃん」

「はぁい、よくできました~。えらいえらい」

「わ、わかったから、頼む、……その刀、下げてくれ」

「あはは~」

 千歳が笑いと共に志乃の首に当てられていた刀を下ろす。

 ……志乃は、この千歳に恐怖しているのである。今、この場で、現在進行形で取られる一挙手一投足の全てと、過去の経験の全てに。

「よぉし。おねえちゃんが来たからにはぁ、〈魔者〉さんなんて怖くないからね~」

「お、おう……」

 今となっては〈魔者〉より千歳が怖い……とはとても言えなかった。

 千歳は緩慢な仕草で、体勢を立て直していた敵の群れに対峙する。その"両手に"刀を握って。

「じゃあぁ、行くよ~♪」

 楽しげな声と共に、千歳の姿が掻き消える。遠目に見ていた志乃には、千歳が一瞬にして〈魔者〉の一体に肉薄したのが辛うじて見えた。

 虚を突かれてうろたえる魔者を、容赦なく二本の刀が斬り刻む。その太刀筋はまるで舞を舞うかのようだ。

「あっはははは! それそれそれ~!」

 高揚感を隠そうともせず、千歳が〈魔者〉と〈ゴーレム〉の群れの中を舞い抜ける。美しくも恐ろしい二刀の舞は見る者を魅了し、反撃の隙も与えず全てを微塵に刻んでいく。

 これが、千歳が普段自ら封印している二本目の刀を抜くことによる作用。爆発的な精神の高揚と、それにより目覚める普段とは真逆の戦闘スタイル。

 一刀流が集中力で相手の動きを読み解き、正確無比な太刀筋で止めを刺す〈静〉の戦い方なら、二刀流は相手を圧倒するほどの激しい乱舞で一気に敵を殲滅する、言わば〈動〉の極み。この潜在能力が、千歳のレベルが極めて高い理由の一つだ。

 危険であるがゆえに、普段は自ら封印しているのである。

「うおああぁあああああ!? せ、先輩、俺! 俺だから! 今かすったから!」

「あっははは! ごめ~ん。でもぉ、次に『先輩』って呼んだらぁ、しーくんのこと斬っちゃうかも~」

「ひいぃっ」

 ……なお、その危険は味方にも及ぶ。興奮した千歳は全く見境が無くなるのである。

 危険でないよう離れた所で見守っていると、千歳はものの一分足らずで群れを殲滅してしまった。

「うふふ、もう終わり~?」

 機能停止した〈ゴーレム〉の山を踏みつけ、〈魔者〉の黒い光の粒子に包まれるその姿はいっそ狂気的ですらある。夕陽のためか胸のペンダントが紅く光を放っているように見えて、それが禍々しさを助長している。

「終わったよ~、しーくん~」

「お、おう。ありがとう、助かった。せん……お、お姉ちゃん」

「あはは~、おねえちゃんって呼んでくれた~。しーくんだいすき~」

「おわっ!? だ、抱きつくな、せ……お姉ちゃん!」

 しどろもどろになって酔っぱらいのようなテンションの千歳を引き剥がす。千歳はとろんとした笑顔でにへらと笑い、それからふと何かに気付いたように、きょろきょろと辺りを見回した。

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