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志乃は倉庫の中でうずくまっていた。
ぼんやりと頬杖を突いて耳をすますと、遠くではまだ戦闘音が聞こえる。しかしここで隠れている以上は安全だろう。
「……いずれにせよ、丸腰の俺じゃ外に出てもどうしようもないな……」
黙って安全な場所で膝を抱えて震えることしかできない、この無力さが歯がゆい。
せめてあの〈バグ技〉が自由に使えれば。そう思ってみるものの、悔いた所で何が変わるわけでもなかった。所詮〈バグ〉は〈バグ〉。存在を予期されない、必要とされない、不安定な排斥されるべき存在に過ぎないのだろうか。
「だめだ、考えれば考えるほど嫌な方に行ってしまう……」
頭を振ってネガティブな思考を振り払う。
「……実際〈バグ技〉無しじゃ無力だ。さっき使っちまったし、もう一発使うのは辛いか……。せめて武器らしい武器があれば違うかもしれんが、そう都合よく手に入るはずが……」
立ち上がり、周囲を見回した。積み上げられたコンテナはいずれも空の物らしい。手頃な鈍器も見当たらない。
「……って、何か入ってたとしても盗みはいけないか。火事場泥棒は重罪って聞いたことある気がするし……いや、でもこの非常事態じゃ不可抗力……」
ぶつぶつと呟きながら考えを巡らせるが、答えが出ようはずもない。
そうしてうろうろと倉庫の中をさまよっていると、不意に奥の方からガタンという音が聞こえた。
「ん……? 誰かいるのか?」
志乃は荷物の間を縫って音のした方へ向かってみる。どうやら作業途中のフォークリフトなどが放置されているらしいが、人影らしきものは見当たらなかった。
「なんだ、気のせいか……?」
そのままきょろきょろと辺りを見回す。その時、またも背後で何か音が聞こえた。
「やっぱり何か……って!」
志乃は振り向いた場所に「ある物」を見つけ、咄嗟に踵を返して逃げようとする。しかし、直後"背後から飛んできたコンテナ"に道を塞がれ、足を止めた。
「くそ、そりゃ居るよな、倉庫にも……」
再度振り向く。そこに居たのは、貨物運搬作業用の大型〈ゴーレム〉だ。
学園の物はもちろん、警備用の物と比べてもその大きさは突出している。単純なパワーだけで見れば警備〈ゴーレム〉や最大出力の訓練用〈ゴーレム〉とも比にならない。今まさに大きなコンテナをぶん投げてきたのがその証拠だ。
「何でもかんでも機械化ならぬ〈ゴーレム〉化するからこんなことに……。あんな馬鹿力、シャレにならないぞ……」
〈ゴーレム〉は無限軌道の足でキリキリと旋回し、次のコンテナを持ち上げる。
「やばいっ……」
志乃は顔を青くして逃げ出す。投擲されたコンテナが後ろにあったコンテナにぶつかり、耳障りな音を立ててひしゃげた。
「逃げ道……あった!」
別の道を見つけ、塞がれる前に駆け込む。〈ゴーレム〉も後を追ってきたが、図体がでかくて通れないようだ。
「よし、チャンス……!」
一気に駆け抜け、倉庫の外へ出る。
……しかし、逃げた先にも待っていたのは敵だった。
「……あーあ、見つかってるじゃねえか」
倉庫の外に待ち伏せていたのは、複数の〈ゴーレム〉と〈魔者〉。志乃はジリジリと後ずさった。
もう一度中に逃げるか。そう思った矢先、背後のコンテナが吹き飛ばされた。さっきの〈ゴーレム〉が力ずくでコンテナを吹き飛ばして出てきたのだ。
「冗談だろ……詰んでるじゃねえか……」
完全に囲まれた。逃げ場はない。
「武器も無いのに逃げられるかっての……。はは、こういう時は逃亡用アイテムの有り難みが分かるな……」
ゲームの中なら迷わずアイテムを使用して逃げるところだが、これはゲームではない。たとえプレイヤーが丸腰の村人Aであろうと、相手がボス級モンスターの群れであろうと、容赦なく戦いは始まってしまう。
「全滅必至の負けイベントかよ……しかも負けたらそのままゲームオーバーなんだろうな……」
絶望を通り越して笑いが漏れてくる。助かる道が見えない。
「は、はは……」
わかっている。ゲームオーバーなんていう、"やり直しの効く"終わりではない。
待っているのは、「死」だ。
ゲームの中なら何度迎えても終わりなど来ないはずの、しかし現実ではただの一度で全ての未来を閉ざしてしまう、その事象。
「嘘だ……」
その現実が受け入れられず、志乃は無意識につぶやいていた。
そのつぶやきをあざ笑うかのように、志乃を取り囲んでいた〈魔者〉と〈ゴーレム〉が襲い掛かってくる。志乃は思わず目をつむった。




