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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第四章 未来へ至る希望と
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「……結局〈魔者〉探しにはならなかったな」

 海沿いの道にやってきてフェンスにもたれかかる。すっかり陽が傾いていて、夕陽が眼前の海を朱く染めていた。

 穏やかな海は綺麗で、波の音が静かに響いている。頬を撫でる海風が心地よい。

「いいじゃない。村人への聴きこみもRPGの鉄則よ」

「それすらもやってないだろ……」

 今日一日で大分軽くなってしまった財布を見て、がっくりと項垂れる。結局今日は綾音の財布として連れ回されたようなものだった。

「……なあ。パーティーの財布が共有されるんだったら、俺の買い物にお前の金使ってもいいんだよな?」

「いいわけないでしょ。パーティーの所持金は勇者が管理するんだから」

「だよな、言うと思った……」

 何もわがままに大人しく従うことはなかったのだが、綾音の普通の女の子モードが可愛くてついついなんでも買い与えてしまったのだった。お陰で美少女とデートしているような気分に浸れたが、結局本人が勇者モードに戻ってしまうのでは意味が無い。

「やはり〈アルターストーン〉許すまじ……」

「ねえ、あんたやっぱり魔王でしょ」

「むしろ俺を今すぐ魔王にしてくれ。お前の夢ごとこの世界をぶっ壊してくる」

「さ、させないわよ! ついに本性を現したわね! 成敗してやるわ!」

「冗談だ。冗談だから町中で抜くな、見られてるだろ」

 剣を抜いて突きつけてくる綾音に両手を上げると、彼女は渋々剣を納めた。迂闊な真似をすると町中を巡回する〈警備ゴーレム〉あたりに目をつけられるので、冗談でも止めて欲しいところだ。

「はあ……。やっぱりお前、腐っても勇者なんだな」

「当たり前でしょ。あたしは勇者になる。勇者抜きにしてあたしは成り立たないわ」

「そうなんだよな……」

 綾音は勇者に憧れる少女だ。勇者に憧れるから今の綾音がいる。二つは切り離せない。

 それゆえに誰も彼女へ近寄らず、逆に志乃のような人間が近づけた。勇者やこの世界アルターフェーズを否定することは、彼女の存在自体を否定するようなもの。

(……ていうか俺だって、こいつが可愛いから一緒にいるんじゃなくて、こいつが懲りずに勇者を目指してるから一緒にいるんだよな……)

 彼女が、「持っていないもの」を、「手に入らないもの」を、諦める素振りも見せずに追いかけ続けるから。だから、その先を見たくなった。自分も「持っていないもの」を手に入れられるのではないか。彼女を見ていると、そんな風にも考えられた。

「……そう考えるとお前って、すごいやつだよな」

「あら、ようやくあたしの偉大さがわかった?」

 なんとなく口にした言葉に綾音が即座に反応する。都合のいい情報は絶対に聞き逃さないようだ。

「ふふん、気づくのが遅いわよ。やっぱり勇者は……」

「ああ、お前はすごいよ」

「全ての人から……って、え?」

 まさか二つ返事で肯定されるとは思わなかったのか、綾音はきょとんとしてしまう。

「お前ってすごいよ。なんというかこう、……憧れる」

「な、何なのよ、調子狂うわね。今日のあんた、何か変よ?」

「いや、やっと気付いたんだよ。むしろ喜べ」

「よ、喜べって言われても……」

 普段の不遜な態度に反して面と向かって称賛されることに慣れていないのか、綾音は頬を染めてもじもじとし始めてしまう。

「ゆ、勇者のあたしが偉大なのは、その、自明の理っていうか……」

「違う。勇者のお前がすごいんじゃない」

「え……?」

「勇者を追い求めるお前が、絶対に諦めないお前が、素直にすごいと思う」

 正直に口にしたら止まらなくなった。気持ちが勝手に溢れて、口を突いて出てしまう。

「俺、〈ノーロール〉なんて言われて、実際何も持ってなくて、あぶれ者で……。ゲームの〈バグ〉みたいな、存在自体が不自然でどうしようもないものなんだって、そう勝手に思って諦めてた。けどお前は、形は違うしちょっとバカバカしくて痛々しいけど、でも真剣に、ありえないものを追いかけてる」

「……バカにしてない、それ?」

「ああ、バカだと思う」

「な……! や、やっぱりバカにしてるんじゃないの!」

「そのバカなところが羨ましいんだ。俺、もうとっくに色々諦めてたけど、お前があまりにもバカすぎて、ふてくされるのもバカみたいに思えてきた。本当にバカだよなお前って。そのバカな前向きさを少し分けてくれないか?」

「ば、バカバカうるさいわよ、バカ! もう、一瞬でも喜んだあたしがバカだった……って、バカじゃないわよバカ!」

「やっぱりバカだな、お前。ちょっと想像以上だったかもしれん」

「~~っ! も、もう、バカ! 信じらんない……こんな……」

 綾音は真っ赤になって俯いてしまう。

「……悠月」

 志乃はそんな綾音の肩を掴んで、前を向かせた。綾音の涙目が目の前にある。

「改めて言う。俺にお前の夢を手伝わせてほしい。無力な俺だけど、お前の行く先が見たい。手に入らないって言われてるものを追い続けるお前と一緒なら、俺も何か手に入れられそうな気がするんだ」

「……何なのよ。いまさら、突然」

「俺は、今までお前のことを知らなすぎたんだ。だから、もっと悠月のことを知りたい」

「え? え……?」

「悠月の勇者を目指す意志の強さも、今日みたいな普通の女の子らしいところも。俺はもっと悠月のことを知りたい。もしかしたらもう〈魔者〉なんて現れなくて、終わりなのかもしれないが……そうだとしても、お前と一緒に行きたい。その先を見てみたい」

「そ、それって……」

 綾音がしどろもどろになって、まるで何か逃げ道を探すかのように視線を彷徨わせる。

 しかしやがて観念したように、俯きがちに、上目気味に志乃と目を合わせる。何かを決意したように。何かを心待ちにするように。

 そんな綾音に、志乃は一番伝えたかった言葉を口にしようとする。

「……悠月。俺は、お前のこと……」

 ……しかし、その言葉は伝わらずに終わる。

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