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綾音に引きずられるようにして、ひとまずは町中まで出てくる。志乃を引き連れる綾音は今まで見たことがないほど上機嫌だった。
実際、今までも上機嫌なことはしばしばあったが、それは傍若無人で自己完結した、痛々しい言動で周囲を振り回すための、見ている方がうんざりしてしまうようなものだったのだ。
しかし今の綾音の上機嫌は、言うなれば普通の女の子らしいものだ。見ている方も楽しくなるような、そんな感覚を志乃は感じていた。
こうして改めて見てみると、綾音の容姿は非常に優れていることに気づく。黙っていれば可愛いのだ。……黙って笑ってさえいれば。
「……こんな世界に生まれてなけりゃ、お前、もっとモテたんじゃねえの?」
「は? 何か言った?」
「なるほど、これは都合の悪い情報なのか」
「?」
綾音はきょとんと首を傾げている。確かに、今言った言葉は「この世界ではモテない」の裏返しのようなものだ。都合が悪いといえば悪いかもしれない。
「あ。ねえねえ、あれ食べたい!」
「あれ?」
綾音が指差す先にあったのはクレープの移動販売車だった。それを志乃が確認する間もなく、綾音は志乃を引きずるようにして販売車へ向かってしまう。
「ふふ、どれがいいかしらー」
「……お前、実は女の子だったんだな」
「どういう意味? 返答によっては今この場で成敗するわよ」
「いや、まさかお前が所謂女子高生の味覚を持ち合わせているとは思わなくてだな」
「あたしは現役女子高生よ! ていうかあんた、あたしを何だと思ってたのよ!」
「いや、普段の言動からお前が女子高生だと判断する方が難しいだろ」
「……よし、じゃあこれ。あんたのおごりね」
「はあ!? な、なんだよ突然!」
「勇者のパーティーは財布を共有するのよ。あと、失礼なこと言った罰」
「……やっぱり、勇者が絡むと一気に大暴落だな、お前」
女の子らしい綾音は一瞬の輝きに過ぎなかった。志乃はがっくりと落胆する。
結局志乃に支払わせた綾音は、クレープを嬉しそうに頬張っていた。やはりこうして見ている分には綾音は普通より可愛い女の子だ。もしも今隣で幸せそうに笑っている彼女から「勇者」を綺麗に引剥がせたなら、二人きりで町中を歩いている自分は大層な果報者だろう。
「……悪いのは〈アルターストーン〉か。いらんとこまで変革しやがって……」
「何? 世界の中心に恨み事? やっぱり魔王なの?」
「今ならちょっと魔王になってもいいかもな」
好きな女の子を(痛々しい妄想から)救うために世界を壊す魔王。ちょっとかっこいいかもしれないと思ってしまった。
(……いや、好きなのか? まあ確かにこのがっかり感の根っこにあるものを取っ払えたなら好きになってもおかしくないのかもしれんが……)
それも何か間違っている気がして、志乃は首を傾げる。このモヤモヤは何だろうか。
「ちょっと、聞いてんの?」
「……え?」
「〈魔者〉探しよ。忘れないでよね?」
「ああ……そういやそんな話をしてた時代もあったなぁ……」
「つい数分前にした会話でしょうが。本題を忘れないでよ」
自ら本題を逸らしたようなものだと思うが、と思わないでもない志乃だったが、クレープを食べている間の綾音は無害で可愛いので何も言わないでおく。
「そうか、今度から悠月を大人しくさせたい時は甘いもので釣ればいいのか……」
「それ本人の聞いてる所で言う?」
「おっと、これは聴き逃してくれなかったか」
「真横にいるのに聞き逃すわけ無いでしょ!」
何度も都合よく聞き流しスキルを発動しているではないか……と、これも言わないでおく。
「……ほら、くだらないこと言ってないで探すわよ」
「わかったよ。けど、こんな町中に出てくるのか?」
「あ! あのアイス美味しそう!」
「ってお前、自分で言ってる傍から……ていうか食ってる傍から次に行くな!」




