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「おーい、戻ったぞー」
訓練場に戻ってくる。綾音が〈ゴーレム〉と打ち合う音は聞こえなかった。
「休憩中か? 前衛職のクセに体力ないからな、あいつ……」
辺りを見回す。〈ゴーレム〉は待機状態になっていた。
「お、いたいた……。おーい。戻ったぞ、悠月」
綾音はさっき志乃が座っていたベンチに座っていた。
……が、どうにも様子がおかしい。
「悠月?」
「……ああ、あんたね。どこ行ってたのよ……いつっ」
「って、おい悠月、それどうしたんだよ!」
「大したことないっての……。ほっとけば治るわ」
綾音はハンカチで膝を抑えていた。元々は白かったであろう布が真っ赤になるくらい激しく出血しているようだ。
「大したことあるだろ、どうしたんだよ! まさか、〈ゴーレム〉が……」
「暴走なんてしてないわ。ただ……」
綾音はバツが悪そうにそっぽを向く。
「ブレイクモーメント、そろそろやれるかなと思って」
「……ブレイクモーメント?」
「『神速の踏み込みで敵陣を斬り抜ける奥義』」
「……ああ、あったなそんなの…………」
「エルネリシア」の主人公が使える技の一つだったはずだ。目にも止まらぬ、実際瞬間移動しているようにしか見えないエフェクトの派手な技であったと記憶している。
「で、それをやろうとして、派手にすっ転んだと」
「……うっさい」
綾音は顔を赤くしてうつむいてしまう。さすがの彼女も失敗して怪我をしているところを見られるのは恥ずかしいらしい。
「……ったく」
志乃はやれやれと肩をすくめながら立ち上がる。そして訓練場の救護室に行き、救急箱を取って戻ってきた。
「じっとしてろよ」
「へ……? は、はあ!? ちょ、なにしてんのよ!」
「見ての通りの応急処置だ。放っといたら傷が余計悪くなるぞ」
「よ、余計なお世話よ! 別にこんなの平気って……」
「染みるぞー」
「ひゃん!? い、いきなり何すんの!」
「消毒だ。変な声出すな」
「も、もういいってば! ち、ちょっと、どこ触ってんの!?」
「ガーゼと包帯。安心しろ、なるべく心を無にして巻く」
「じ、自分でできるからぁ! こ、この、どうせまた千歳と比べてるんでしょ!」
「いや、美脚に関してはお前の方が上かもな。なめらかできめ細かくすべすべしてて、スラっとしていながらほどよくムッチリ感もあるちょうどいい肉付き」
「そ、そうなの、へえ……。……って、嬉しくないわよこの変態! ひゃ、ふぁっ……、だ、だから触るなって言ってんでしょうがぁっ!」
「暴れるな、ズレるだろ。……ほら、終わりだ」
真っ赤になってじたばた暴れる綾音を押さえつけながら応急処置を済ませる。どうやら血が染みていて大げさに見えただけらしく、傷は大したことなかった。
他にもあちこちすりむいているところを消毒し、絆創膏を貼って救急箱を閉じた。
「……ふ、ふん。ただの擦り傷なのに、大げさよ」
「まあ放っといたら菌が入ったりして大変だからな。さ、今日の訓練は終わりだ」
「こ、このくらいどってことないって……あぅっ」
立ち上がるものの、すぐにふらついてしまう。やはり少し痛むらしい。
「近接系の〈ロール〉なら自然治癒力も高いって言うし、夜には治ってるだろ。わかったら今日のところは大人しく解散だ」
「ま、待ちなさいって……こらー! 勝手にあたしの鞄持ってくなー!」




