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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第四章 未来へ至る希望と
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 綾音が周りも見えないほど訓練に集中しだしたので、志乃は邪魔をしないようにそっと訓練場を抜けて部室に戻ることにした。

 当初は粗大ゴミ置き場ばりに酷い有様だったあの部屋も、この数日間で片付けて今では最低限の「部室」になっている。置かれていたものの中からいくらかマシなものを選んでくっつけ合わせた机に、いくつか戸がダメになっているロッカー。急ごしらえにしてはまあ十分な設備だと志乃は納得している。

 そんな部室にたどり着き扉を開けると、中には先客が居た。

「……志乃さん、まだいたんですか」

「お前の方こそ珍しいな、天ヶ崎」

 瑠璃が部室で〈賢者の書〉を広げていた。高等部用の机は彼女には少し大きいらしく、なんだかこじんまりとして見える。

「何をしていたんですか、こんな時間に?」

「悠月の特訓の付き合い……だったんだが、別に俺が見てることも無かったからな」

「特訓、ですか。どういう風の吹きまわしで?」

「役に立たなかったのが気に食わなかったんだってよ」

「自覚、あったんですね」

 皮肉に笑う瑠璃。志乃は向かい側に座って、背もたれにもたれかかった。

「……ところでお前は、今日は研究センターにいかないのか?」

「もう諦めることにします。……治安関係の部署はものぐさで困ります」

「その分じゃ今日も聞いてもらえなかったんだな」

「仕方ありません。持ち帰れる証拠が何一つとして残っていないのですから」

 瑠璃は研究センターに先日の〈魔者〉の件を何度も報告しに行っているらしい。が、信ぴょう性が無いとのことで、いずれも門前払いにされているらしかった。

「……所詮は協力員レベルとは言え、わたしもセンターの人間なのに……」

「まあ気を落とすな」

「あなたにだけは励まされたくないです」

 冷たいのは相変わらずらしい。

「……で、だからってなんでわざわざ部室に来てるんだ? 何か用か?」

「別に用はありません。ただ、ここが一番静かで集中できる場所"だった"ので」

「悪かったな邪魔して……。……じゃ、何をしてたんだ?」

「見ての通り、〈賢者の書〉の解読作業です」

「解読?」

「〈賢者〉の〈ロール〉に目覚めた全ての人間が手にする〈賢者の書〉は、〈アルターフェーズ〉についてセンターの人間さえも知らないような膨大な知識が詰まったブラックボックス。持ち主の力量や適正に応じて読める範囲が増えていくんです。わたしの役割は、〈賢者の書〉の解読に貢献すること……って、以前に言いませんでしたか?」

「ああ、そういやそんな話を以前聞いたような……」

 瑠璃が冷たい半眼でじとっと睨んでくる。

「……悪かった。そういえばそうだったな」

 そういえば彼女がいつも〈支援係〉の監督義務を面倒臭がっていたのは、早く帰ってその作業を進めたかったからだと思い出す。

「けど天ヶ崎、それじゃいつも通りじゃないか。手伝うって言ってなかったか?」

「言ったはずです。『わたしなりに』手伝うと」

「物は言いようってか」

 志乃は相変わらずな瑠璃に苦笑する。今のところ綾音のことはそれでごまかせているようだが、あと数日もすればまた部屋に上がり込んででも彼女を連れだそうとするだろう。

 ところが瑠璃は、不本意そうに顔をしかめて答えた。

「失礼ですね。手伝うというのは本当ですよ」

「そうなのか?」

「ええ。例えば、万が一あの〈魔者〉などによって〈アルターストーン〉が壊されそうになった場合、何が起こるのか……なんて情報を引き出しておくことが可能です」

「エラいネガティブな想定だな」

 あの〈魔者〉が〈アルターストーン〉を狙う。RPG的には良くも悪くも王道な展開だ。

「最悪な結果を想定することも重要ですよ。あのバカ勇者の頭のなかがお花畑なので、良いバランスなのでは?」

「かもな。……で、なにかわかったのか?」

「それが、ですね……」

 瑠璃は渋い顔でページをめくる。

「危機が迫った時、〈アルターストーン〉にも何らかの防衛機構が働く……ようなことが書かれているのですが、わたしの権限ではそこから先は何とも」

「微妙に役に立たない情報だな」

「〈ノーロール(最上級の役立たず)〉には言われたくありません」

 瑠璃がむっとして睨みつけてきた。それもそうだ。

「研究センターにはもっと大量の情報が蓄積されてるんじゃないか?」

「あったとしてもわたしにその権限がありません。だからこうして調べているのですが……」

 思い通りにならない現状に不愉快そうにしながら、瑠璃はページをめくり続けた。

「……とにかく、たとえ誰も信じてくれなくても、わたしは〈魔者〉の存在を知ってしまいました。だから、何か被害が起きてしまう前に防がなくてはならないんです。……まだ終わっていないんです、きっと」

「……終わってない、か」

 なんだかついさっき同じようなことを聞いた気がしていた。

「だから、わたしなりにあの似非勇者の戦いに貢献しますよ。今のところ、当てになりそうなのはここの人達だけですので」

「…………」

 瑠璃の言葉を聞いているうちに、志乃の心のなかで一つの疑問が芽生える。

「……お前さ、信じるのか?」

「どういう意味ですか?」

「お前は直に〈コボルト〉……あの〈魔者〉を見たわけじゃないだろ。破壊の痕跡とか、残ってた魔力とか、証拠ならあったけど。お前なら『ありえない』とか言ってバッサリ切り捨てそうなもんだ」

「まあ、状況証拠だけ見たらそう思っていたかもしれませんね」

「じゃあどうして……」

「そんなの、決まってるじゃないですか」

 瑠璃は珍しく、頬を少しだけ緩ませて志乃の目を見る。

「あんな繋がり方でしたけど、わたしと志乃さんはそれなりの付き合いです。似非勇者ならともかく、志乃さんがそんな馬鹿げた嘘を吐くような人間じゃないことくらいわかってますよ」

「そ、そうか……。…………」

「志乃さん? どうかしましたか?」

「な、なんでもない。俺、ちょっと悠月の所に行ってくるから」

 志乃はきょとんとする瑠璃を後にして逃げるように部室を去る。

(……あんなこと、よりによっていつもぶっきらぼうなあいつに言われたら、なんか、恥ずかしいだろうが……)

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