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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第三章 無人の町と狼
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 千歳は〈コボルト〉と真正面から対峙し、刀に手をかける。

「いくよ……!」

 正面から襲い掛かってくる〈コボルト〉の動きをその目に捉えようとする。刀は抜かないまま。〈刀術師〉の数ある戦い方の中でも千歳が特に得意とする、〈静〉と〈動〉で言うところの〈静〉、居合い斬りの構えである。

 しかし……。

「……え……?」

 千歳は間の抜けた様な声を発して目を見開く。

「っ、だめだ……! 先輩!」

「ふわぁ!?」

 志乃はとっさに横から飛び込んで千歳を突き飛ばした。そしてバットで攻撃を受け止める。

「ッ! 重……!」

 弾き飛ばされつつもなんとか受け身をとる。腕がじんじんと痺れていた。

「あ……。し、しーくん、大丈夫!?」

「くぅ……な、なんとかな」

「ご、ごめんね! で、でも、どうして、私……」

 呆けていた千歳が我に返る。どうして刀を抜けなかったのか解っていないようだった。

「だ、だったら!」

 千歳は居合いを諦め刀を抜き、飛びかかった。その速さは綾音とは比にならない。

「あ、あれ……?」

 それでも、攻撃は当たらない。千歳は姿勢を崩してよろけそうになりながら着地した。

「な、なんで……」

「ちょっと千歳、何やってんのよ! レベル42なんでしょ!?」

「い、いつも通りやってるよ~!」

 志乃は、千歳も綾音にだけは言われたくないだろうと呆れそうになる。

 ……が、同時に千歳の言葉から、彼女がどうして上手く戦えないのかその理由に気づいた。

「いつも通り……そうか」

 千歳はいつも通りにやっているのだろう。成績表で高評価を貰える、模範的な、"〈ゴーレム〉を相手とした模擬戦の通りに"。

 実戦と模擬戦は異なる。それくらいは志乃にも理解できた。いくら優秀な千歳といえど、実戦の経験が皆無では応用が上手く効かないのだ。

「くそっ、先輩でも敵わないか……」

 それならばやはり"切り札"を使うしかないだろう。三人がかりなら確実に叩きこむ隙の一つくらい作れるはずだ。そう踏んで、志乃は指示を飛ばす。

「悠月! 先輩! 一瞬だけでいい、隙を作ってくれ!」

「はあ? なんであんたが命令するのよ!」

「一瞬……。し、しーくん、もしかして……?」

「ああ。"切り札"を使う!」

「で、でも、先生に使っちゃダメって言われてるって……」

「非常事態だ、やるしかない!」

「ち、ちょっと、どういうことよ!? 無視するんじゃないわよ!」

「いいから頼む、悠月!」

「……わかったわよ。今回だけなんだから!」

 綾音が渋々頷き返す。二人が動き出すのを見て、志乃はバットを力強く握りしめ、精神を集中させた。

「さあ、大人しくしなさい! 連撃、アサルトストーム!」

 綾音の連撃が再開する。その攻撃は相変わらずかすりもしない。

「こっちにもいるよ!」

 しかしそうしている間に〈コボルト〉の注意は綾音に集中する。その隙に、背後から千歳が斬りかかった。その不意打ちにも〈コボルト〉は反応し、横に転がってかわす。

「今!」

 そこに綾音が更に追撃を入れる。〈コボルト〉はそのまま飛び退いて回避し、壁を蹴って綾音の上を飛び越えた。

「千歳!」

「うん!」

 跳んだ先では千歳が待ち構え、刀に手をかけていた。いかに俊敏な獣といえど、空中でその挙動を大きく変えることはできない。

「やあっ!」

 居合い斬りが、今度こそ〈コボルト〉を捉え、吹き飛ばす。綾音より深く入ったものの、致命打にはならないらしい。

 ……が、隙としては十分。

「しーくん!」

「今よ、やれるもんならやってみなさい!」

「ああ! 任せろ!」

 志乃はバットを両手で握りしめ、〈コボルト〉に向かって、踏み込む。

「はあああああああ……!」

 体内に巡る魔力を収束し、武器に集めていく。

 体の中で練った力を一気に放出するようなイメージ。それは、〈ロール〉を持たない志乃が唯一持つ、常人離れした特殊能力。

「〈放て〉!」

 叫びを合図に〈力〉が放出され、――炎のように揺らめく黒色の魔力が得物を包み込んだ。

「うおおおおおおお!!」

 渾身の力で振り下ろしたバットが〈コボルト〉の胴体を殴打し、バットの纏う魔力が爆発する。

 炸裂した魔力は堅牢な〈コボルト〉の肉体に絶大なダメージを与える。魔力の爆発に胴体が大きく消し飛び、体ごと吹き飛んでいく。

 断末魔の悲鳴が響く。攻撃が叩きこまれた場所から伝わるように、全身が光の粒子のようなものになってバラバラになっていった。それから、やがて悲鳴を上げる喉や口までもが消失し……。

 ついに、〈コボルト〉は跡形もなく消滅してしまった。

「……終わったの?」

「……ああ。そうっぽいな」

 志乃はぽつりとつぶやいた千歳にそう答え、……がくりと膝をつく。

「! し、しーくん!」

「大丈夫、疲れただけだ。……相変わらずしんどいな、これは」

 そのまま床に座り込む。志乃が持つ唯一にして最大の切り札は、絶大な威力を持つ代わりに体力を一気に消耗してしまうのだ。形にならないまま不安定に出力される〈シンボル〉なのではないかというのが最近聞いた説明だが、正体ははっきりしていない。

 志乃が自身を〈バグ〉と自嘲する理由の一つ。"規格外"の力を放つ〈バグ技〉だ。

「ちょっと、〈ノーロール〉」

「ん? どうしたゆうづうぐっ!?」

 座り込んで呼吸を整えていると、綾音が急に胸ぐらに掴みかかってきた。

「とどめまで持って行っていいなんて言ってないでしょ!? どうしてくれんのよ!」

「し、るか……くるし、はなせ……!」

「ていうか何よさっきの必殺技みたいの!? ずるいわよ! あたしも使いたい!」

「しらん……てか、はな、せ!」

 綾音を突き飛ばす。解放された志乃はげほげほと咳き込んだ。

「ったく……。こんな力持ってるよりは、弱くても〈ロール〉持ってたほうが良いに決まってる。今みたいな時くらいしか使えないしな」

「何よ、贅沢ね。必殺技は勇者になるあたしこそ使えるべきなのに」

「いつも叫んでるだろ、それで我慢してろ。……さて」

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