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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第三章 無人の町と狼
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 〈魔者〉は俊敏に駆け回り志乃達を翻弄する。廊下を猛スピードで駆け抜けたかと思えば階段を三角跳びでショートカットし、角を曲がったと思えば追いついた瞬間切り返して隣をすり抜け……。

「あーもう! なによあいつ、バカにしてるの!?」

「実際、おちょくられてるんじゃないのか? レベル5の〈剣士〉だし」

「うるさい! ていうかそれ言ったらあんたなんていいとこ護衛対象の村人でしょ!」

「ゲストキャラ舐めるなよ、時にはパーティーキャラより遥かに強いんだぞ。……いや、今はそんなことよりあいつだ」

 不毛な言い争いをしながら追いかけ最上階まで上り詰めると、〈魔者〉が部屋の中に飛び込むのが見えた。

「チャンス! あそこ、窓もない部屋だったはずよ!」

「袋のネズミならぬ袋のイヌか。ちょうどいい、先輩に連絡して、追いつくまで時間稼ぎ……」

「あっははは! ついに追いつめたわ! 覚悟しなさい!」

「ああ、そんな気はしてたけどな! 独りで突っ込むなって言ってるだろ! ……あ、先輩、今すぐ最上階まで来てくれ!」

 携帯で手短に伝えると綾音を追って部屋に入る。中は確かに窓のない、学校の教室程度の大きさの部屋だ。会議室か何かに使われるのだろうか。

 〈魔者〉はこちらの出方を伺うように、僅かに腰を落とし前傾姿勢気味に佇んでいた。追いつめられて焦っているのか、あるいは……。

「先手必勝! 行くわよ、ソニック・ブレイク!」

 綾音は好機と捉え、いつかのように技名を叫びながら剣を抜いて突進する。

 彼女の性格をそのまま現したかのような一直線。その踏み込みは決して速くはないが、不意を突けば確実に一撃を入れられるだろう。

 振り抜いた一閃。……しかしその剣閃は空を斬る。

 あいにく、不意を突けなければ綾音の突進はただの真っ直ぐな前進だ。さらに素早さは〈魔者〉の方が一枚上手らしい。飛び退いた先でやはりこちらを伺っている。

「生意気……! 次は当てるわ!」

 綾音は負けじと斬りかかり続けるが、攻撃はことごとくかわされる。何発か命中させるものの、明らかに浅い。このままでは綾音が消耗する一方だ。

「悠月、落ち着け! 闇雲にやっても無駄だ!」

「ゲストキャラ風情が口出しするんじゃないわよ!」

「いや、それはゲームでも結構重要……ってそんなこと言ってる場合じゃない。くそっ、あいつ遅すぎるだろ……!」

 志乃は〈アナライザー〉で綾音のステータスを確認しようとする。所詮はレベル5。敏捷性の強化率も極めて低く、常人と大差ないくらいだ。このステータス差では綾音の攻撃が当たるはずもなかった。

 レベル差が激しすぎる。こんな時ゲームならレベルを上げて再挑戦すれば済む話だが、ここは現実だ。セーブポイントもリセットボタンも存在しない。

「悠月、一旦退け! お前じゃ無理だ!」

「はあ!? ふっざけんじゃないわよ! 村人ごときが生意気言うな!」

 志乃の言葉は逆効果だった。むしろ綾音の闘志に火をつけてしまう。

「チッ、ちょっとは言うこと聞けっての!」

 志乃は袋からバットを出すと、綾音の反対側から回りこむ。

「二人がかりで行くぞ! もうちょっとはマシになるはずだ!」

「しょうがないわね、足手まといになるんじゃないわよ!」

「言ってろ。行くぞ、〈コボルト〉!」

「コボルト?」

「似てるだろ」

 呼び名がないと不便だということで、「エルネリシア」と「ロストマギナ」に共通して登場する〈魔者〉の名前をつける。綾音としては不満もないで、頷いて了解の意を返してきた。

 〈コボルト〉は新たに乱入してきた人間を敵と捉えたか、志乃の方に目を向ける。

「こっちにもいるわよ、覚悟しなさい!」

 綾音の掛け声に両者の間で視線を彷徨わせる。チャンスだ。

「喰らえ!」「喰らいなさい!」

 双方向からの挟撃。〈コボルト〉は真上に跳躍することでかわそうとするが、間に合わない。

「せいっ!」

 志乃の振り下ろしたバットが〈コボルト〉の肩を強打する。

 ……しかしその手応えはあまり良くない。力いっぱい叩きつけたはずだが、有効打を与えた感触がないのだ。

「なんだよこいつ、硬い……」

 とても動物の肉とは思えない感触。皮膚が尋常じゃない強度を持っているのか、はたまた筋肉を硬化させているのか。いずれにせよ、これでは命中させた所でろくにダメージを与えることが出来ないだろう。

「ったく、相変わらず嫌な感触ね」

 綾音も苛立たしげに吐き捨てる。打撃でも斬撃でも結果は変わらないようだ。

(追いつけないのは素早さが足りないせいで、今のは攻撃力が足りないせい……)

 このままでは勝てないと悟り、志乃はゲームと同じ考え方で戦術を探る。

(攻撃力を上げればいいなら、"切り札"ならある……。けど、一発が限界だ。それに当たらなかったら意味が無い……)

 当たろうが空振ろうが一発は一発。志乃は自分の持つ"切り札"を選択肢に入れた上で考える。

 もう一度挟み撃ちをしても確実性に欠ける。同じ手が二度通用するとは思えない。

「くそっ、先輩はまだ追いつかないのか……?」

 せめて千歳がいれば……。ひょっとして暗闇が怖くて立ち往生しているのではないかと不安が過ぎる。

「し、しーくん~~!」

「! 先輩!」

 迎えに行こうかと考えかけたその時、ついに千歳が姿を現す。ふらふらとした足取りで、さらに泣きそうな目をしていた。

「良かった、先輩! すぐで悪いが、手を……」

「ふえええん! 怖かったよ~~!」

「うわ!? だ、だから抱きつくな!」

 密着、バージョン真正面。またも魅惑的な感触との葛藤に捕らわれそうになるが、今ばかりは危機感が勝った。

「先輩、来て早々悪いけど手を貸して欲しいんだ! このままじゃやられる!」

「ぐすっ……ふぇ? ふわあああ!? ゆ、幽霊? 妖怪? 狼男さん!?」

 綾音は〈コボルト〉と一対一での戦いを続けていた。しかし綾音の動きは目に見えて悪くなっていて、息も乱れている。そろそろ限界だ。

「ま、まあそんなところか……。先輩ならやれるはずだ、頼む!」

「え、えっと……う、うん! わかったよ!」

 現状を把握したか、千歳は涙を押し込めて強く頷いた。

「綾音ちゃん、今助けるよ!」

「はあっ……はあっ……。ち、千歳? お、遅いわよ! ……じゃなかった、助けなんか要らないんだから!」

 強がる綾音だが、千歳が来て安心したのか大人しく引き下がる。〈コボルト〉は新たに現れた人間を敵と認め、今度は彼女の動きに注目し始めた。

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