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ロールプレイン・ディス・ワールド  作者: たる。
第三章 無人の町と狼
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 数日後の夕暮れ時、翠晶島開発地区。瑠璃を除く三人がやってきていた。

「……悠月。やっぱり引き返さないか?」

「何よ、怖いの? けど、魔者を倒すまであたしは絶対に帰らないわ!」

 志乃は頭を抱える。先日の瑠璃の忠告を"うっかり伝えてしまった"のが運の尽きだった。魔者がいるかもしれないなどと馬鹿正直に教えればこうなるのは当然だったのだ。

「しーくん、瑠璃ちゃんが言ったのって本当なの?」

「さあな。けど、あいつが中途半端に変な妄言吐くとは思えないし……」

 瑠璃はあれ以来放課後になると研究センターに直行してしまい、全く話せていない。どのような進捗があったのかもさっぱりである。

「ちょっと、なにぼさっとしてるの? 置いてくわよ」

「……いずれにせよ、あの自称勇者サマを一人にするわけにはいかんしな」

 どんどん先に行ってしまう綾音を追いかける。辺りはもう大分暗くなってきていた。

「今日の工事は終わってるみたいね。ちょうど良いわ」

「んで、その魔者とやらはどこで見かけたんだ?」

「この辺りよ。……あ、ほらこれ」

 ビルの隙間にある細い路地を懐中電灯で照らす。そこにはうっすらと何か足あとのようなものがついていた。

「……デカイ野良犬だな」

「だから野良犬じゃないってば!」

 確かに足あとはそれなりに大きい。が、それ以外はただの犬のものと変わらない。

「うーん、暗くて見間違えたんじゃないかな」

「いいや、確かに見たわ。とにかく順番に見ていくわよ」

「あ、綾音ちゃん。こ、こんな危ない所、よした方がいいと思うな……」

「勇者に怖いものはないわ。さ、行くわよ」

「あ、綾音ちゃん~!」

 千歳は先に行ってしまう綾音を止めようとするが、追おうとはしない。その姿に志乃は小さい頃のことを思い出す。

「……先輩。まだ暗いの怖いのか?」

「そそ、そんなことないよ!? お、お姉ちゃんだって怖いものはないんだから!」

「あー、わかったわかった。わかったからそのまま後ろについてこい」

「はうう……」

 綾音の後に続いて裏路地を抜けていく。足あとは大きな幅を持って点々と続いていた。

「……で、ここに入ったのよ」

「建設中のビルか……」

 綾音が立ち止まったのはまだ建設途中のビルの前。〈アルターストーン〉の淡い翠色の光がうっすらとそのシルエットを照らしていた。

「じゃ、入るわよ」

「……っておい、勝手に!」

「いいのよ。セキュリティもちゃんとつけてないのが悪いんだから」

「ったくお前は……」

 一人で行かせるわけにもいかず、志乃は彼女の後に続いた。

 エントランスはがらんどうだ。内装もまだしっかりとできていない。

「こんなのいけないことなのに……はう……」

「だから、先輩までついてくることないって言っただろ?」

「そ、そんなこと言っても、こんなとこまで来ちゃったら一人で帰れな……じゃなくて、お姉ちゃんはしーくんと綾音ちゃんを守らなくちゃいけないんだから!」

 千歳が怯えながら後をついてくる。さっきから志乃の背中の後ろで震えっぱなしだ。

「悠月。何かいるか?」

「それをこれから調べるんでしょ」

 床を照らしながらエントランスの中へと踏み込んでいく。志乃も続いて中を調べようとした。

「……先輩。歩きづらいんだが」

「お、お姉ちゃんから離れたらダメなんだよ!? し、しーくんはお姉ちゃんが、ままっ、守るんだから!」

「はあ……。どっちが守ってるんだか……」

 仕方なくそのままゆっくり探索を始めようとした、……その時だった。

 ――ビルの奥からガタンと大きな音が響く。

「っ! 居たわ!」

「おい、悠月! 一人で行くな……」

「きゃあああああ! し、しーくん~!」

「うお!? ち、先輩、抱きつくな!」

 物音に驚いた千歳に抱きついかれ、追いかけようとした足が止まる。

「し、しーくん助けてぇ~」

「は、離せ先輩! はな……」

 密着。ゆえに温かく、そして柔らかい。学園トップクラスの二つの塊が背中に密着して蠱惑的な感触を伝えてくる。

 ……果たしてこの感触を堪能することとあの暴走勇者を止めることのどちらが大切だろうか。

「やっぱりもうちょっとこのまま……って何言ってるんだ俺は。先輩、すまん!」

「きゃっ!? ま、待ってしーくん、一人にしないでぇ~!」

 千歳の抱きつきから逃れて綾音を追う。幸い、彼女はまだそんなに先には行っていなかった。廊下の分かれ道で辺りを探っている。

「悠月、一人で行くな!」

「ちょっと遅いわよ〈ノーロール(役立たず)〉!」

「そうやって呼ぶな! 魔者、いたか!?」

「今探してるのよ! ちょうどいいわ。あんたと千歳はあっちに行って。あたしはこっちに行く」

「分け方がおかしいだろ! 散らばっちゃ危険だ、ここは一緒に……、っ!?」

 志乃が走らせた視線。その端に何かが映る。

「悠月!」

「何よ……きゃあ!?」

 咄嗟に体が動いていた。志乃は綾音を抱えて地に伏せる。

 次の瞬間、頭上を何かが高速で掠めた。空を切る音がして、直後背後で壁の砕ける音がする。

「いたた……。あ、あんた、どこ触ってんのよ!」

「お前に触るほどの場所なんて無いから安心しろ。どうせなら先輩を見習え」

「な、なぁ……っ! い、言ったわね!? このシスコン!」

「色々言いたいことはあるが今はそれどころじゃない。……あいつだな、悠月?」

 志乃が指差す先に綾音も目を向ける。そこには深々と抉られた壁と、それを破壊した張本人。

 ……綾音の話した通りの姿。人ほどに大きい獣が立っていた。犬と人を掛け合わせたようなその姿は、物語に登場する狼男そのもの。

「……ええ、そうね。あたしが仕留め損なった相手だわ」

「なるほど、確かにこりゃ〈魔者〉だ……」

 志乃の目に映るその姿は、確かに野良犬でもなければ野良猿でも野良ゴリラでもない。〈魔者〉とでも呼ばなければ説明がつかない、化物だ。

 目の合った〈魔者〉は、奇襲に失敗したと見るなりすぐさま踵を返して逃げだす。

「追うぞ!」

「言われなくても!」

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